静かなる内戦19~ムル
『そうじゃ!わしは先をゆくニジェという少年もよぅく知っておるぞ。』
『ニジェも知っておられる?』
『あの子はマンディンカからフランス軍に追われ逃げ延びて来た子じゃ。お前も知っておろ?』
『はい。よく一緒に遊んでおりますから。』
『あの子が最初に逃げ込んだのが、わしの家じゃ。』
『ほう。』
『わしの家はジョラの一番西。なぜだかわかるか?』
『いえ。』
『カサの王がジョラの地にわしを送り込んだ時にな、砦となるようあそこにな。つまりな、他の部族がジョラに入るときは、まず、わしの所に寄って除霊をせんと入れんかった。その体にどんな魔物や病が潜んでるかわからんだろ? お祓いをしてな。 まあニジェはそんなことも知らずに、最初に見つけたわしの家に飛び込んで来たと思うが。 どこをどう逃げて来たんだか、、、マンディンカの村からは二山越えて、10日はかかる。途中、難民を皆殺しにしたディオマンシからも逃げ延びて来とる。』
『それで?』
『すっ裸じゃった。
しかしな、手に持っていたのは、』
『持っていたのは?』
『、、、三日も居るとな、わしの家の余りの臭いにな、出て行きおった。』
ムルは笑いながら言った。
『ん?持っていたのは?』
『でな、世話になったお礼にとその持っていた石を、祭壇に『お布施だ』と言って置いていった。』
『石?』
『お前は知っておるか?虹色石。』
『知らん。』
『白人たちはオパールと言っておる。』
『わからん。はじめて聞く。』
『虹色石なぞ、カサの王でも手に入らん。
わしの勘、いや、感ではな。おそらくニジェはマンディンカの王の子、おるいは孫。』
『王‼ 王の子‼ 孫‼』
『すっ裸じゃったがな、10日間逃げ回ってもあの見事な体格。栄養たわわな体つき。
まず、間違いない。何か普通の民と違う。お前は思わなかったか?』
『まったく。』
『もし、そうじゃとしたら立派じゃ。今やジョラの奴隷のようだが、何一つ文句を言わず従っておる。
戦火を抜けて、生きている喜びだけで過ごしておるのかもしれん。
ファル。仲良うしてやってくれ。』
『はい!とうに親友であります!』
『そうか、そうか、良しよし』
『ほら、爺! また遅れをとっておりますよ。』




