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【復活】ゆめいろパレット~16歳JK、変身ヒロインはじめました~  作者: イマジンカイザー
12:あたしの幼馴染はムテキなんだからっ

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「察してよ!」『言わなきゃわかんないっつーの!』

互いにどろどろとした思いを抱えたオトナ百合後半戦。

こじらせにこじらせた二人の会話劇をおたのしみください。

◆ ◆ ◆


『キミ、今日限りでチーム抜けてもらうから』

『ごめんなさいね。けど仕方ないわよね。あなた、いっちばん結果出して無いもんね』

『今季からお世話になります●☓です。抜けて行った先輩に代わってチームを盛り立ててゆけるようがんばります』


 アイドル業界は生き馬の目を抜く過酷なセカイだ。幾ら努力を重ねようと、スタートラインで出遅れた人間は容赦なく切り捨てられてゆく。

 人気アイドルグループLIK48の一員となった私は、シーズンニ度のファン投票でビリッ欠となり、専属契約を結んでいた事務所からその身一つで放り出された。たった一票、されど一票。欠員は研究生の中から即座に補填され、私のことを気にかける人間はいない。


「どうして……。ロクに努力もしないで、顔が良くて話しの上手いやつばかりがのし上がって、私は、私は……!」

 同期はみんな格下だ。こと歌唱力で私の上を行く人間はいなかったし、事実誰もついてこれなかった。なのに会社は私を切り捨てて、無能なアイツらはみんな知らん顔。『キミ程歌が上手ければ他でもやって行ける』なんて適当なフォローでごまかして。

「こんな世の中、間違ってる……」

 自ら火をつけて回るのと、自らが火だるまになって死ぬのと、どちらが社会を賑わすことが出来るだろうか。そんな非生産的な疑問に頭を悩ませていた所だったか。


『――ふふふ。ヤミヤミな気配に満ち溢れているぴょん。わたしの助けが必要だぴょん?』

 憎悪と絶望にまみれていた私に、救いの手が差し伸べられたのは。


※ ※ ※


『――また昔の夢を視てたのぴょ?』

「むかし。そうね、昔ね……」

 出会ってからまだ一年も経っていない筈だが、お前にとっては昔、なのか。

 昴星歌唄は上等なリクライニングチェアから半身を起こし、微睡んだ目で外を見やる。都心一等地の五十階建てマンション、その最上階。時刻は間もなく午前五時。地平線の彼方から太陽が昇り始め、暗かった夜空に白が差す。

 窓からは街を行き交う何千何万の人々を見下ろすことが出来た。まだ朝にもならないというのに、車のテールランプは色鮮やかに道路を照らし、網の目状の交通網を猥雑に染め上げている。

「ほんの一年前。ただ見上げているだけだった場所に、まさかこうして座っていられるなんてね」

 きっかけはこの「うさぎ」がくれたが、そこから先は総て自分の力だ。歌唄はあくせくと働く人々を見下ろし、改めてそう己に言い聞かす。

 まほうのマイクには歌を直接聴かせ、そのココロを揺さぶった人間を意のままに操るチカラを持つ。手始めに自分を捨てたグループとその事務所に、ライブを通して観客に。感銘を受けた人々が他の人たちを呼び込み、この国の頂点に辿り着いた。CDや配信データの売上が積み重なり、堂々とこんな高層マンションに住まうことさえ出来ている。

『――改めて勝負を申し込む、ってのは良いアイデアだったのぴょ。向こうもまほうの使い手とはいえ、心が折れれば素直に従うのぴょ』

「ふぅん」

 何故知っている? とは尋ねなかった。ファンタマズルが自分を裏切ったことはなかったし、事実奴の言葉は総て現実になっている。

「どうでもいいわ。私の勝ちは揺るぎないもの」歌唄は軽く伸びをして洗面台へと向かう。「お腹が空いた。電話して誰か呼んできて」

『――了解なのぴょ』

 丸いうさぎ顔に手足のついた二等身マスコットは、歌唄から貸与されたスマホを操作し、元アイドルグループの下っ端たちに片っ端から電話をかける。早朝に電話と非常識極まりないが、彼女たちはみな昴星歌唄の『虜』だ。使われることに幸福を感じても、不服だとは絶対に思わない。これが使う者と使われる者の差なのだ。

「来なさいグリッタちゃん。この昴星歌唄に勝負を挑もうとしたこと、後悔させてあげるわ」


※ ※ ※


「ねー、ねぇねぇねぇ。このひとってもしかしてズヴィズダちゃん? 昔一緒にやってたズヴィズダちゃん? もぉ、ナニさグリッタちゃん、会えないなんて言ってたくせに、ちゃーんとここにいるじゃない!」

「ずっと聞きたかったんだけど……、この子、ナニ?」

「アー……。話すと長くなるよ?」

 綾乃に引っ張られ、ちはるが連れて来られたのは、多摩センター駅近くにあるカラオケボックス。雑居ビルを一棟居抜きし、その階ごとにスペースを設けた雑多なものだ。

 最初はふたりで潜り込み、オール料金で部屋を借りた筈なのだが、扉を開ければ金のティアラを頭に乗せた小学生が座っていた。厄介払いをしようとするが、それがちはるの知り合いだというから目を剥くばかり。

「あんたねぇ……。自分の生活もままならないくせに、みなしご拾って育ててるってどうなのよ」

「しょうがないじゃん。身元もナニも分かんないんだし」

 机を挟んで向かい合うが、ちはるの目線は相変わらず足下だ。無理もない。彼女の行くべき道を変えてしまったのは他ならぬ自分なのだから。

「辛気臭い。いつまで下向いてんのさ、あんたは」

 そんなちはるを、綾乃は顎を指二本で掴んで上向かす。

「脚のことならもう気にしてないわよ。あたしはモデルって仕事に満足してるし、後悔なんてとっくに振り捨てた」

私は(・・)そうじゃないんだよ」私は、の部分をことさら強調し、綾乃の言葉に意を唱う。「あなたはそれで満足かも知れないけどさ、こっちはずっと引きずってるの。今でもたまに夢に視るの。それがどんなに辛いか解る? わかんないでしょ。立ち直って真っ当に社会人してるひとにはさ!」

 今でこそ親友なんて間柄だが、九年前いっしょに魔法少女をやり始めるまで、彼女たちの生き方はまるで正反対だった。

 片や陸上でその将来を多くの人々に期待される陽キャ、片や似た集まりからさえも爪弾きにされ、たったひとりでコスプレし続けていた陰キャ。和解して歩み寄りはしたが、お互いその深部へ踏み込むようなことはしなかった。

 これはその結果だ。幼馴染だから眼と眼を見れば何でもわかるなんて、そんな言葉でこの差異を曖昧にぼかしてきた報い。綾乃には何故ちはるが否を突き付けるのか分からず、ちはるには綾乃のそのポジティブさが理解できない。

 やがて言葉も尽き、聴こえてくるのは新譜のイントロとそのアーティストたちのショート・インタビューばかり。声を発し、日ごろの憂さを晴らすべくカラオケボックスのはずが、これでは関係が冷えに冷え切ったクーラーボックスだ。


「ねえ。グリッタちゃん、ズヴィズダちゃん」

 そんな重たい雰囲気を斬り裂いたのは、第三者として割り込んで来たみらだ。過去のことなど何も知らない彼女は、だんまりを貫くふたりを不審に思い、供されたマイクをそれぞれに差し出して。

「ここってカラオケだよね。歌を唄うとこなんだよね? 折角来たんだし、取り敢えず、歌ったら?」

 従う義務など無いのだが、ぐうの音が出ない程の正論であることは確かだ。マイクを目の前でちらつかされ、ふたりは迷った末にそれぞれそれを掴み取る。

「よっし。よしよし、それじゃあ曲入れるね。なにがいいかなーっと」

 だからすぐに何が変わるでもなく。マイクを手にだんまりを続けるふたりを尻目に、みらは電子機器に指を走らせる。


「今更、何なんすか」

「何が?」

 場の空気に飲まれ、沈黙に耐えきれなくなったのか、先にぼそりと呟いたのはちはるだ。

「私さ、あれから九年もあきる野でグリッタちゃんしてたんすよ。なのに、テレビでまほうのことを知って、それまで会いにも来なかった」

「あのね。ちはる、あたしは」

「脚のリハビリのことくらい分かってるっすよ。あの怪我からよくもまあここまでゲンキになったもんで」呟きは次第に声量を増してゆき、口調の中に悪辣さが滲むようになって。

「でも、あなたは会いに来ようとしなかった。傷心で凹んでて、一人ぼっちの私にコンタクトを取るのを拒んでた。それが何? 幼馴染が聞いて呆れるわ。ヤツに勝ちたい? 私のため? 違う違う、結局は自分一人が気持ちよくなりたいだけでしょ?」

 久々の再会。カラオケというある種の熱に浮かされた空間。使うでもなく握られたマイク。これら一つ一つが重なって、栓をして開けまいとしていたものが顔を出し始めた。

「黙って聞いてりゃいけしゃあしゃあと」

 そしてそれは、綾乃の側も同じであった。炉の中の種火に燃料がくべられ、一気に燃え上がる。

「そんなに心配してほしいんなら口で言え口で! 住所も告げずに転居して、商工会の人たちにも口止めさせて。なのに会いに来ないってナニサマのつもり!?」

「それはそーゆー"ニュアンス"ってモンでしょ? 幼馴染ならそれくらい察してよ!」

「都合の良い時だけ幼馴染扱いすんな! だいたい、嫌だ嫌だって言うならご当地アイドルだって辞めちゃえば良かったじゃない。未だに半端に関わり続けて、それで助けが欲しいだなんて、ムシが良いにもほどがあるっつーの」

 このやりとりが燻る種火の決定打となった。それぞれの主張が融和しないと知った瞬間、互いに机を叩いて立ち上がる。

「辛かったんだよ! 寂しかったんだよ! お父ちゃんもおばあちゃんも死んじゃうし、貯金はすっかりなくなるしさ!」

「ならさっさと旧友を頼れ! 意地張って平気なフリすんな! ガラでもなく体形維持なんかしちゃって、とても辞めたいひとのモノとは思えないんですけどォ?」

「しょーがないじゃん、こっちだって食べてくためにやってんだからさあ!」

 この瞬間、互いに長年抱えていた苛立ちが頂点に達した。マイクのスイッチをONにし、喉を広げて言葉を発す。

「親友なら察してよ! 助けてよ! ひとりぼっちにしないでよ! 仕事にかまけて天狗になってないでさあ!」

「だったらさっさと声を上げろっつーの! そういうのはね、声を上げなきゃ誰にも伝わらないのよ!」

「上げられる訳ないでしょ! 私が、アヤちゃんをこんな風にしたんだよ!? そんな奴に救われていい権利なんてない!」

「くどい! そんなのあんたがそう思ってるだけでしょうが! あたしはこれでちゃんと幸せだし、あんたにも幸せになってほしいのよ!」

 マイクを手に叫び倒し、積もり積もった感情をぶつけ合う。だが変化もあった。ひたすらに罵り合うだけだった始めと違い、時折クスクスと笑い声が混ざるようになり、徐々にその勢いを弱めてゆく。

「なんだよ、言えんじゃん。本音」

「ホントだ。いつの間にか、吐き出してた」

 いつの間にか、笑いと怒りが逆転していて。それが笑いだけになるまでそう時間はかからなかった。

「アヤちゃんの言う通りだ。呑み込まないで、吐き出せば良かったんだね」

「あんたはいっつも深く考えすぎなのよ。苦しいときは誰かを頼っていいんだって」

 職も歳も、見かけだって変わってしまったけれど、そこにいるのは東雲綾乃。幼少の頃を共に過ごした幼馴染。そんな当たり前で不変のことが、今のちはるにとっては何よりも嬉しかった。柔和な笑みを浮かべる友に、ありがとうと笑顔を返す。


「ふたりとも仲直りしたの? よかったぁ、そろそろ歌い疲れてきたし」

 騒乱の終結を察してか、マイクを手にしたみらがふたりの間に割って入って来た。外野だからしようがないが、この居候は呆れるくらい肝が据わっている。よくもまあ、この状況下で唄おうと思ったものだ。

「それで。ふたりとも、どうするか決めた?」

「決めた」ちはるの目にもう躊躇いは無い。「勝てる秘策。本当なんだね? アヤちゃん」

「勿論」同様に、綾乃の目には闘志が迸っている。「あんたがあの歌姫に勝つ方法はただ一つ」

 そこで一旦言葉を止め、自分に期待のまなざしを向けるちはるに、気合を込めて言い放つ。

「あの頃に帰れちはる。もう一度グリッタちゃんに成り切るの。恥も外聞もかなぐり捨てて」

「はい?」

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