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フィールドに舞う桜と共に  作者: しーた
『奇跡の桜』編
75/90

第75話『フクの絆サッカー』

チームはとても状態が良いと感じました。

両サイドからの切り崩しによって、藤井大井高校は混乱しているようにも見えます。

ボールがセンターサークルへ戻ってきました。

相手キャプテンの望月さんが、必死になって鼓舞しているように見えます。

ベンチからも監督さんの怒号が飛んでいました。


U-17代表のキャプテンが率いる、サッカーが盛んな都市から代表選出された我が高が、創部1年目の初出場高校に負ける訳がない…。

そんな空気は今回だけじゃなく、毎回あります。

桜先輩は、それを油断と表現しました。

僕は違うと思います。

その空気が、本来あるべきもので、創部1年目の初出場高に、最初から緊張感を持って、本気でぶつかってくる方がおかしいと思うのです。

相手高のほとんどの選手は、中学以前からやっているかも知れません。

そんな人達だからこそ、1年生に何が出来ると感じるはずです。


「おい、フク。」

そんなことを考えていたら、となりで腕組みをしている天龍先輩に話しかけられました。

「はい、なんでしょう?」

「次はおまえがゴール決めろ。」

「えっ?ここは天龍先輩のハットトリックの方が…。」

「馬鹿野郎。おまえの存在感を示す、最高の場面だろ。先の事を考えろ。」

そりゃぁ、相手にとって不足はありません。


だけど、浮足立っているかもしれませんが、相手は百舌鳥校と決勝で戦うだろうと予想されるほどの強豪校。

そう簡単には得点出来るとは思いません。

それに桜先輩は、得点王も欲しいと言っていました。

少しでも有利になるよう、天龍先輩には取れるうちにガンガン決めて欲しいのが本音です。


「トドメを刺せ。おまえがな。出来なければ…。」

じょ、条件付きですか?

「大会が終わるまで、おまえとは口を利かない。」

えっ…、えぇっぇぇぇぇぇーーーーーー!?

「い、嫌です!」

「だったら決めてこい。フォローはしてやる。いいな?」


私は泣きそうになっていました。

大好きな天龍先輩と話も出来ないなんて、辛すぎです。

耐えられません。

「俺は約束は守るからな。わかっているな?」

そうです。先輩は誓った約束は、尽く守ってきました。今回のも半端な気持ちで言っている訳ではないはずです。

「わかりました…。やってみます。」


「それじゃぁ駄目だ。」

うぅ…。

「やります!絶対に決めます!」

「うしっ。その意気だ。頼んだぜ。」

ピィィーーーー

試合再開です。

僕は極度の緊張に包まれていました。


敵は望月さんを起点に、どんどん攻めてきます。

まずは1点返して、試合終了の笛の前に同点に持ち込みたいはずです。

形振り構わず攻撃を仕掛けてきました。

望月さんと対峙する場面の多い、いおりん先輩も防戦一方でした。

それに、さっきの得点の為に、かなり体力も消耗しているようです。

天龍先輩も浅いところでのボールには、果敢に守備にいっていました。


僕はポストプレイも求められているので、最前線、一番前で仲間の守備を見守ります。

緊張します。

こういう時は、一瞬で勝負が決まるパターンだからです。

じっくり攻め上がるのではなく、カウンターでくるはずです。

その一瞬を見逃せば、敵はあっという間に追いついてきて囲まれてしまいます。


しかし、なかなかボールはきません。

相手は、時にはじっくり丁寧に、時には一瞬でゴール前へと、多彩なボール運びでゴールが脅かされます。

かなり無理していると遠目にも分かります。

ミーナちゃんのファインセーブもあって、得点にはいたりませんでしたが、かなり危険な雰囲気がします。


その時、初めて僕は気が付きました。

ボールがこないことに、安堵している自分に。

このまま試合が終わってくれることに。

こんなんだからダメなんです。

もっと貪欲にゴールを狙わなければ、敵から恐れられることもなく、天龍先輩にばかり負担がのしかかってきます。


あっ…、くる…。

部長が相手FWとのヘディング勝負に勝ち、こぼれ球をジェニー先輩が拾いました。

前にいる桜先輩にパスが渡った瞬間、僕は走り出しました。

だけど、警戒していた相手の大柄なDFさんが並走してきました。

どうやら読まれていたようです。

というか、最前線は僕一人でしたからね…。


ガシッと肩と肩がぶつかりました。

その勢いにヨロっとすると、ボールを蹴り出されクリアされてしまいました。

タッチラインを割ってしまいました。

敵のDFさんがニヤッと笑いました。

まるで、おまえで助かったと言わんばかりです…。


プチンッ


何かが切れた音がしました。

そこへ、天龍先輩が駆け寄ってくれました。

「フク!」

ハッと我に返ります。

「しっかりしろ!」

そして両手で両頬を抱えられます。グイッと顔を先輩の方へ向けられました。

先輩…、近いです…、顔が…。


「いいか、気持ちで負けんな。フクならやれる。ここが踏ん張り時だ!」

僕は小さく頷きました。

「僕がゴール決めたら、思いっきり抱きついていいですか?」

先輩はキョトンとしたあと、最高の笑顔を見せてくれました。

「あぁ、勿論だ。」

僕の中で、何かが燃えていました。


「そんで、桜を決勝へ連れていくぞ。」

あっ…。

僕はまだまだでした。

ただのサッカー好きだった僕を、こんな凄い場所に連れてきてくれて、そして尚且つサッカーの楽しさを教えてくれた桜先輩の為に、もっとFWとして成長しないといけないと、常日頃考えていたはずです。

なのに…、なのに僕は…。


ドンッ


背中を叩かれました。我に返ります。

「さぁ、行くぞ!」

「はい!」

僕の中で、負けるか!という闘争心のスイッチと、天龍先輩からご褒美を貰う為の、やる気スイッチと、そして仲間のために戦うんだという、勝負のスイッチが入りました。


そしてもう一つの後悔しないスイッチが強制的に入ります。

先輩達とは、この試合を含めて3戦しかプレー出来ないという事実を受け入れて、覚悟を決めるスイッチです。

悔いだけは絶対に残したくない。

未熟な僕に、先輩達は愚痴一つ言わないで導いてくれました。

それに応えなければなりません。

そして来年、先輩達は一人もいません…。


…………。

今のままじゃ駄目だ。

何回もそう思ってきたはずです。

本当に僕はバカでした。

このままじゃ、絶対に後悔します。


疲れているはずなのに、集中力がどんどん高まっていくのが分かります。

望月さんからの鋭い攻撃が続いていました。

あの人は、桜先輩やジェニー先輩と同じステージで戦っていました。

だからと言うわけではありませんが、流石と思わせる活躍をしています。

しかし、我がチームの守備陣は、その攻撃をことごとく跳ね返しています。


クソッ!

僕はなんて不甲斐ないんんだ。

あんなに必死に守ってもらって、やっと送り出したパスを1本無駄にしたんだ。

次は決める、絶対に!


だけどかなり押し込まれていました。

望月さんが右サイド、いおりん先輩を交わしドリブルで攻めていきます。

そこへリク先輩がしつこくまとわりつき、フォローにきたソラ先輩と囲んでボールを奪い取りました。

あの、望月さんも辛そうでした。

両膝に両手を付いて、苦しそうでした。


そうです、敵だって辛いんです。

僕らは2点差で勝ち越していますから。

だからこそ相手守備陣も必死になって…、文字通り必死になって守ってくるんです。

僕はそこを突破しなければなりません。

いえ、突破するんです!




僕らの絆サッカーが日本一だと証明する為に!




ボールはカウンターとなって直ぐに前へ前へと運ばれてきました。

再び桜先輩がボールを受けると、僕の周囲の緊張感が高まります。

相手DFは既に僕を視界に入れてマークしています。

桜先輩は僕より手前にいる天龍先輩へパスを出しました。

敵DFがあっと小さな声を上げた瞬間、僕はゴールに向かって走り出しました。

ボールは天龍先輩に渡り、ダイレクトで大きく、無人の敵陣へと蹴り出されました。


どうしてパスがダイレクトでくるのが分かったのか、頭では理解出来ていません。

そんなの理解する必要はないのです。

これが…、これが桜先輩が目指す絆サッカーだと思うから!

僕は、それこそ必死になって走りました。

直ぐ後方には敵のDFが走ってきています。

天龍先輩から送られた、仲間が守りきって送ってくれたボールを受け取ると、僕も気が付かなかった最後のスイッチが入りました。


それは、欲張りスイッチでした。

僕は勝負に勝って、ゴールも決めて、天龍先輩からご褒美貰って、悔いも残さない、全部、全部欲しいと欲張りました。

控えめで地味な事を好むと、自分のことを分析していたのは、ついさっきまです。

どうやら、人並みに欲もあったようです。


だったら、本能の赴くまま戦います!

ゴールは近いです。ペナルティエリアに近づくと、敵のGKが飛び出してきました。

後ろにいるDFと挟み撃ちにするはずです。

恐ろしいほどの集中力が、僕を覆いました。

GKとの距離、DFとの距離、ゴールの位置…。

全てを把握しながら走っているみたいです。


少し左にそれつつ、タイミングを合わせます。

何のタイミングかって?

それは…!!


僕はその瞬間、無理やり急停止しボールを押さえ込み、後ろのDFが止まりきれなくて僕を追い越す瞬間に、右へ方向転換し猛ダッシュしました。

敵のDFとGKが激突します。

顔を上げれば、無人のゴールが待ち受けていました。

僕は思いっきりゴールに向かってボールを蹴り込みました…。


ピィィィィィィィーーーーーーー!!!!


ゴールを知らせる笛が聞こえました。

やった…。

やった…。

「ヨッシャーーーーーーーーーーーッ!!!」

天龍先輩がゴールを決めた時の真似をして叫びました。

「ナイスシュートだぜ!!」

直ぐに先輩はやってきました。両手を広げる先輩に向かって、思いっきり飛び込みます。

グッと強く、強く抱きしめてくれました。

僕は涙が零れていました。

僕も思いっきり抱きしめました。

先輩とは、後2戦しか一緒に試合が出来ません…。

後2ヶ月もしたら学校からも居なくなってしまいます…。

先輩…。


「もう、お前に託すことはないな。」

先輩の言葉に顔をあげます。

「泣くな、馬鹿野郎。まだ試合は終わってねぇぞ。」

「は゛い゛…。」

「もう一つ、仕事が残っているだろ。」

そうです…。桜先輩のことです。


「福ちゃーーーーん!!」

その桜先輩が抱きついてきました。僕は二人の先輩を強く強く抱きしめました。

「もう少し!油断せずにいくよ!」

「は゛い゛!!!」


だけど試合は、このまま両者見せ場もなく、試合終了の笛を聞くことになりました。

「3-0、桜丘学園の勝利です。」

「ありがとうございました!」

両者が礼を済ませ、握手をしました。

僕は相手DFの人とかわします。

「最後凄かったぞ、このまま百舌鳥校も倒してくれ。」

僕は左手も添えて答えました。

「はい!」

相手DFの人は、涙を零しながら、ニッコリ笑ってくれました。


お互い全力を出したと思っていると感じました。

藤枝大井高校のメンバーの人達は、ガックリと泣き崩れる人もいましたが、望月さんが一人ずつ、一人ずつ声をかけてベンチへと連れていきます。

「もっちー!」

そんな望月さんへ、桜先輩が駆け寄りました。

「私達、絶対に百舌鳥校倒すから!もっちーの分も頑張るから!」

その言葉に、望月さんは泣き崩れ、そして桜先輩が抱きかかえていました。

「百舌鳥校は…、んぐっ…、私が倒したかった…。そして桜さんを迎えにいきたかった…。」

「ありがとうね、もっちー…。」


そうか…、そうだったんですね…。

望月さんは、桜さんのトラウマを知っていたんですね…。

だから…、だからあんなに必死に…。

僕も涙が零れました。

色んな人が、桜先輩を助けたいって思っているんです。

こんなことって…、こんなことってあるのでしょうか…。


不意に肩に手が回ってきました。

天龍先輩です。

「次も絶対に勝つぞ。」

見上げて先輩の顔を見ました。

また一つやり遂げられたと、そう顔が物語っていました。

僕も何だか嬉しくなりました。

「フクのお陰で、次の試合もより良い感じで乗り込める。ありがとな。」

「先輩達が…。」

「ん?」

「最高の笑顔で卒業出来るよう、僕も頑張ります!」

「お前ってやつは…。」

天龍先輩は、涙でぐしゃぐしゃの僕を抱きしめてくれました。


寂しいです…。

でも、その気持ちよりも、もっともっと強く願いました。


先輩達と刻む桜ヶ丘女子サッカー部の歴史に、自分も堂々と名前を刻みたいと…。


そして、全員で最高の笑顔で優勝旗を掲げたいと…。

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