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フィールドに舞う桜と共に  作者: しーた
『奇跡の桜』編
53/90

第53話『藍の苦悩』

「そろそろ準備してください。」

きたきた。運営の人が呼びに来たよ。

ついに関東大会が始まる。なのに私は、相変わらずドリブル禁止だって…。

つぐは大との練習では、凄く褒めて貰っていて、本当は今直ぐにも試したい自分がいる。

でもね、それは誰もが同じ。歯がゆい感じ。そしてそのうえで、この強豪紅月学院を倒さなきゃいけない。

そんな厳しい条件を言ってくる桜ちゃん…。絶対にあの子は病院のベッドの中で泣いている。

笑顔で嘘のような厳しい事を言ってくるけれど、だけど自分に一番厳しいよね。


だから誰も文句も言わずついていける。

楽して勝つことが、どれほど難しいか、スポーツをやっている人ほど分かると思う。

根性や気合でどうにかなる問題でもない。

部活における過去の努力至上主義も、最近はかなり見直されてきたとは思う。

もしかして、私達はそんな昔からある部活のあり方とは、真逆の超効率主義で突っ走ってきたのかもしれない。

あの子は、そういう事を知ってか知らずか、迷わずこの道を走ってるよね。

既成概念にはとらわれない、駄目なら別の方法を直ぐに模索して、即実行。

これって新しい部活だから出来たこと?

いいや、違うよね。

あの子の行動力と、あの笑顔に誰もが騙されてもいいやって思っちゃう。

私もその一人。


だけど騙されて良かった。

思いっきり騙されてよかった。

だって、今私が立っているグラウンドは、関東大会の舞台なんだよ!

こんなに興奮することってないじゃない!

運営の人に付いていくと、広い通路に連れていかれ、今日の対戦相手である紅月高校と並ぶ。

強そう~…。

自信が漲っている表情。どこか負けるはずがないって雰囲気。


そんな強豪校を横目に、私だってね気合が入っているし、密かな目標もあるの。

勝てば勝つほど有名な競技場で試合するでしょ!

そこは、陸上で思いっきり走るのが夢だった場所なの!

トラックじゃないけれど、だけどそんなステージで走れるなんて最高じゃない!

だから私は、二つの夢を一気に達成出来るかもしれないという興奮もあるよ。


「そろそろ入場します!」

運営の人からの声で、緊張感が更に高まってきた。

前の方から審判3人を先頭に、ゆっくり歩き出した。出口が徐々に明るくなる。

あぁ、これってプロの試合でよく見る映像と一緒だよね。テンション上がる~。

少しの歓声と、予想以上に多かった拍手に迎えられグラウンドに向かっていく。

最後尾のミーナの後ろの後藤先生と可憐は途中でベンチに向かう。

センターサークル内まで移動し止まると、審判が振り向いた。

「これより、紅月学院対、桜ヶ丘学園の試合を開始します。」

部長と神田さんが握手をする。凄い睨み合い…。気合入ってる。

いや、桜ちゃんの取り合いみたいな気もするけど…。

コイントスを行い決定権を取ると、部長は迷わずボールを選択した。そう、私達は前半は全力で攻める作戦になっている。


礼を済ませ、自軍で円陣を組む。

「雰囲気に飲まれるな!」

「声出していくぞ!」

「まずは1点だ!気後れするなよ!」

色んな掛け声に混じり、私も声を張り上げた。

「勝って桜ちゃんを泣かせるぞ!」

一瞬全員が私を見た。だって、勝利を聞いたあの子は、絶対に泣くもん。子供みたいに…。多分、皆もそう思ったと思う。

「よし!いくぞ!舞い上がれぇぇぇぇ桜ヶ丘!」

「ファイ!オオオォォォォォォォッ!」

円陣が解かれ、私は左サイドへと走って行く。さっそく紅月学院の右MFが私を注視していた。

私も負けずに睨み返した。


ピィィィーーーーーーーーー

試合開始を宣言する長い笛が鳴る。

ボールは福ちゃんから天龍へ。そして後ろのジェニーに渡る。

私は前線に大きくジグザグに、軽く走っていく。ボールを持ったままジェニーはドリブルを開始した。

来るっ!

直ぐにピンときた。相手は私の俊足を全然警戒していないのが分かる。だってピッタリ張り付いているから。これだと初速で私は相手を抜いていける。

!!

ジェニーが逆サイドを見た瞬間、絶対にこっちに来ると直感した。私は一気にトップギアで走り出す!

案の定、敵は置いていかれ、ボールは私の前に転がっていく。

敵の右DFが駆け寄ってきた。

あぁァァァァァァ!!!!

このままドリブルで抜き去りたい!

だけど、それ以上に桜ちゃんを泣かせてやるんだから!絶対に解禁しない!

そう思った矢先、私の右後方に存在感を感じる。福ちゃんがいる。


この子はいっつも誰かをフォローしてくれる。

存在感を消して、ひたすら奇策を練ってくる。目立たないけど、とても頼りになるの。

私は敢えて、福ちゃんを飛び越してジェニーにパスを戻す。

それを確認した福ちゃんと視線が合う。

私の狙いが伝わった。

ジェニーとも一瞬視線が合う。

大丈夫。彼女にも絶対に伝わっている。

点取り屋の天龍には、二人がかりでマークが張り付いていた。彼女の数字上の実績からだと思う作戦なのだろうけど、それって他の攻撃陣を舐めているよね。

見せてやろうじゃないの!


敵MFがピッタリと私に付く。

だけど少し距離を置き、俊足を警戒しているのが分かる。更に前方では、敵DFも私の飛び出しに注意しているのが分かる。視線が熱いよ。

中央でボールをキープしていたジェニーに、また一人守備に駆け寄る。その瞬間ボールが動いた。

「あっ!?」

敵の誰かが叫んだ。もう守備がぐちゃぐちゃになってきている。

ジェニーは視線を天龍に向けてから、こっちにボールを蹴ってきた。

私へのパスだと思いこんでいた敵MFとDFが駆け寄ってくる。

そのボールを、まるでパスカットでもするかのように福ちゃんが中間で受け取る。

!?

敵守備陣に緊張が走った。

絶好のポジション、しかもフリーだからね!


「走れ福ちゃん!」

私の掛け声で、彼女はゴールへと駆けていく。

敵が守備ラインを復旧しようと動き出す。この辺の流れるような動きは、見ているこっちが気持ち良いぐらいだよ…。

誰がどうすれば良いか、しっかり分かっている感じ。県予選の時の相手チームの多くは、何となく守っている雰囲気もあったからね。

ゴール前が厚くなる。私は迷わず福ちゃんの後方へ飛び出す。

その動きに敵が付いてこられない。

後ろに目があるかのように、福ちゃんはバックパスする。私はそれをノートラップ、それもアウトサイドで引っ掛けるようにしてゴール前にパスを出した。

「もらったぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

天龍が大声をあげながらボールへ向かっていく。敵DFが二人で囲むように張り付く。彼女はジャンプする振りだけして動かない。


!?


天龍をマークしていたDFが混乱しているうちにボールは頭上を飛び越してしまう。

何事もなければ、ボールは転々と転がりラインを割ったと思う。

そんな訳ないじゃーん!

「Go ahead!」

そこへジェニーが駆け抜けながら、ダイレクトシュートをド派手に撃つ!

ドンッ!

しかし、敵DFが偶然出した足の裏に当たり、ゴール外へ飛んでいく。いやほんとに入ったかと思った。

あーあ。

いい感じだったけどなぁ。

おっと、今はどんどんチャレンジしていかないとね。

「大丈夫!大丈夫!」

私は桜ちゃんの真似をした。

それ見た誰もが笑顔で答えた。


皆わかってる。

今日の勝利は、桜ちゃんにプレゼントしたいんだって。

それは私達の成長の証であると共に、百舌鳥校への挑戦権でもあるの。

大丈夫、集中力もあるし身体も動けてる。

何だか攻撃のチャンスもありそうだし…。

だけどジェニーだけは凄く悔しそうにしていた。

最初はシュートを防がれたからって思っていたけど、彼女だけは焦っているようにも思えた。

「パスどんどん回すネー!」

そんな彼女の叫びは、どこか悲壮感もある。

それが理解出来るまで、それほど時間はかからなかった。


ボールが回ってきて突破口を探す。

あれ?

敵の布陣が最初よりも、色んな事に対応出来るよう変更されている。

これって、ドリブル突破もきついし、パスコースも前にはないよ…。

もしかして、もう私達の攻撃に順応してきたって言うの?

まさか…、これが彼女達の実力だっていうの?

そう、付け入る隙きがまったくない。これが組織的な守備なの?こんなのどうやって…。

焦りは私だけじゃなかった。

いおりんも福ちゃんも、そして天龍もやりづらそう。

ドリブルどころか、パスコースさえ見えないよ…。


待って、待って、落ち着いて。落ち着け私。

この守備をしていれば、絶対に点が取られないなんて事はないはず。

どこかに突破口がある。そうだった、パスを回して敵を疲れさせるってのもやらないと。

今はそこに集中して、じっくりと、そして一瞬の隙きを付くの。

うちらは今までにないほど激しく攻め立てた。

時には強引に中央へクロスを上げ、DF二人に囲まれながら天龍が何とかしようとする場面もあった。

そんな天龍を、福ちゃんは献身的にサポートしている。

逆サイドからは、良い感じのラストパスが上がってくる。


あぁ、なるほど。

バスの中で後藤先生が、桜ちゃんからの言葉を伝えていた時、うちらのチームは攻撃的だと言っていた。

いやいや、守備固いっしょ、って思っていたけれど、なるほど案外良い感じで攻撃していると思う。

中央のジェニーは突破力もあるし、ロングボールも軽々と放り投げてくる。

全員の封印が解けた時が、凄く楽しみな感じがする。


だけど、それで満足していちゃダメだし、今はそれどころではないよ。

それにボールを取られた後は、鋭い攻撃を受けている。

なるべく前でボールを奪おうとMF陣が奮闘しつつも、何度かシュートまでもっていかれていた。

油断すると、サクッと得点決められちゃうパターンだ。

紅月学院の神田さんは、言うだけあって上手かった。

攻撃的MFでありながら守備も上手いし、その攻撃もドリブル有り、パス有り、シュート有りで、どれも器用にこなしている。

特にドリブルは自信を持っているのか、結構な頻度で使ってきていた。

事実香里奈ちゃんでは辛そうだったし、そこからシュートまで繋げられると最終ラインも辛い。

だって、ドリブルメインで攻められたら、三つ子が奏でるオフサイドトラップも仕掛けられないじゃない。


ジリジリと追い詰められているよういな雰囲気を感じ取った。

何か手を打たないと、いつか点を取られる気がする。

攻撃している時間は、うちらの方が長いけれど、試合の内容では押されていると実感し始めていた。

きっと誰もが思っていたと思う。

フィールドに、ぽっかり大きな穴が開いていると。

その大きな穴を埋めていたのは、小さな小さな桜ちゃんだったってことを。

どうしたら良いの?桜ちゃん…。

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