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♯12

お待たせ致しました。

 このヘリオドール侯爵家の別邸に居を移してからもう一月。


 これほど長く旦那様とお会いすることがなかったのは私がフローライト子爵家に身を寄せてから初めてのことですが、旦那様はお元気でいらっしゃいますでしょうか?


 お元気でさえあれば、いつか再びお目にかかれる日もくるかと思いますので、御身大事に過ごして頂きたいとこのカーネリアン真に願っております。


 お嬢様は旦那様と一月お顔をあわせないのはいつものことでしたのでその点については何とも感じていらっしゃれないようではありますが。


 逆に対面の緊張を強いられずにすんで調子が良いのではないでしょうか。


 ……変な親子ですね、本当に。


 まあそれはそれとして、お嬢様はすっかりこのヘリオドール侯爵家の別邸暮らしに慣れたご様子。


 むしろ、屋敷の広さが縮小され、基本私達二人で他人の気配が薄い為住み心地は格段にアップされたとか。


 私も一安心でございます。


 お嬢様は毎日喜々として室内のインテリア作りにお忙しくしていらっしゃいます。


 ソファカバー、ベッドカバー、カーテン、テーブルクロス、花輪飾り……。


 室内の内装が日々凝りに凝った少女好みの可愛らしいものに変わっていき、少々息苦しく……、いえ、お嬢様は宜しければこのカーネリアンは何も申しますまい。


 たまに、いい加減にしろよ、と言いたくなるのは仕方ありませんよね?


 たまに、実際に口にしてしまうのはご愛敬ということで。


 お嬢様もそんなことを気にされる方ではありませんから。


 というか少しは気にして欲しいものではありますが。


 どんな苦言を申し上げても、「そんなカーネリアンもかわいいー」では刹那殺意が沸いても仕方ありませんよね? もちろん、実行するつもりは当然のことありませんが。


 ああ、そういえば本日も庭の草木の陰にいらっしゃいましたね。


 ヘリオドール侯爵・ジェット様が。


「日の光を取り込みましょう」とカーテンを開けた所、こそこそとこちらを窺っていらっしゃるお姿が見えたので、思わずそのまま無言でカーテンを閉めてしまいました。


 ウザ、と思わず思ってしまったことは、責められることではないかと存じます。


 お嬢様との運命的(笑)の出会いをし、当然の如く一目惚れ(失笑)をされたらしいジェット様、当日は手際良く追い返せたものの、翌日から怒濤の如く猛アプローチしていらっしゃいました。


 大量の贈り物を持参されて。いまいちお嬢様の趣味にはあいませんが、元手ただの贈り物はありがたく頂戴致します。どうせ意に添わぬ品物、であればこそ贈り物は高価なものであればあるほど可です、私的には。


 しかし極度のコミュ障を患っておられるお嬢様、初対面のトラウマも相まってそのジェット様のお声を耳に入れるだけで卒倒されてしまいました。


 しばらく時間を空けるよう助言をしても、ジェット様は直に謝るまではとやってまいります。


 そのたびにお嬢様は失神。


 何度も同じことを繰り返される愚行。


 いちいちそのフォローをさせられるこちらの身にもなって頂きたいものです、まったく。


 顔をあわさなければ何も始まらないと食い下がるジェット様に、私は心苦しくも申し上げました。


「生まれてこの方ずっと一緒にいらっしゃった実のお父上にもいかんなく発揮されるお嬢様の対面恐怖症を甘くみないで頂けますか。どれだけ私が繰り返し申し上げてると思うのですか。その頭は飾りですか。理由は存じませんが、お嬢様は基本私以外に慣れない野生動物のようなものなのです。押せばなんとかなると思っているのであれば大間違いですよ。理屈は通じないのです。すでにそのお声を聞いただけで恐怖を覚える状態なのですよ。これ以上同じことを繰り返せば、状況は悪化するばかりです。このままいけば一生起きていらっしゃるお嬢様と対面するのは不可能だと思ってください。まあ私はそれでも一向にかまいませんが」


 薄々感じてはいらっしゃったのでしょう。


 ジェット様はショックを受けたように黙り込んでしまわれました。


 あまりのその落胆ぶりに、つい私も仏心を出してしまいました。

 

 私に任せて頂ければいいように取り計らいます、と。


 途端に明るい顔になったジェット様は、今度こそ素直に何をすればいいのか尋ねてらっしゃいました。


 なので、私はこうお答えしたのです。


「とりあえず一年ほどお嬢様の前に姿を見せないようお願い致します」と。


 ジェット様は「長すぎる!」と抗議なさいました。


 ……わがままな方ですね、本当に。


 それからジェット様とああでもないこうでもないと攻防を繰り返した結果、しばらくはお嬢様にジェット様の気配を感じさせるレベルでの接触で、と話がまとまりました。


 それは、庭を歩いていらっしゃる姿をちらりと見かける程度、とか窓からその姿を見かける程度、と取り決めさせて頂いたのに。


 何なのでしょう、アレは。


 いくらお嬢様のお姿を目にされたいからといって、あんな物陰からじっと見てらっしゃるその姿をお嬢様が見かけられたらどうなるか、何故に思い至らないのでしょうか。


 そうなった場合のことを考えるだけで面倒な。


 私は別に全然まったくこれっぽっちもかまいませんが、いざそうなったらジェット様が何とかしろと詰め寄ってこられるのが目に見えています。


 ああ、考えただけで本当に煩わしいことこの上ない。


 ですから、カーテンを閉め切って視界をシャットアウト、ガン無視するのは、あなた様の為なのですよ、ジェット様。


 決して意地悪ではありませんよ?


 決してああ本当に、メンドイウザイワズラワシイウットウシイストーカーカヨコノクソチビ、なんて思っているわけでは決してありませんからね?


次回もお願い致します。

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