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カルディア大陸編1 ゴブリンと洞窟①

 悪臭が漂う大地には、黒い血溜まりが出来ている。生き残った強者達には、奪った命を(かんが)みる余裕さえない。只の蛋白質の塊となった、眼の前に転がる屍。いつ自分が(そっち)側になるのか、油断出来ない。


 生きるか死ぬか、それが戦場だ。



 アーガイル地区騎士団長・ゲイルは、最後の1匹となったゴブリンの喉元に、剣を突き立てた。手に伝わる鈍い感触と共に、どす黒い血が頬に飛ぶ。ゴブリンの醜悪な面構えが、より醜く歪む。同時に、強烈な断末魔が彼の耳を貫き、緑の小鬼が息絶えた。


「これで粗方片付いたか。レヨン、もう一度ゴブリンの生き残りがいないか周辺を捜索しろ。奴らは穴を掘ってでも逃げる。徹底的に探せ!」

「はっ、すぐに捜索部隊を編成します」


 ゲイルは突き立てた刃を抜き、上体を起こした。そして剣にベタリと付いた血を拭いながら、副団長のレヨンに指示をする。


 戦闘の舞台は、セレネ国の中央に位置するダムス台地の窪地で行われた。激しい戦闘の後に出来たのは、散らばった肉体の欠片と醜悪な匂い、そして静寂。血溜まりの上にパラパラと砂埃が舞い、魔物の生臭さが漂う。


 ゲイルは、戦場の跡を見ていつも虚しさが込み上げる。今回の戦いでも、少なくとも数名の部下が戦死している。その中には、家族の顔も知っている者もいる。戦いに犠牲は付き物だと、彼は自分に言い聞かせて気持ちを飲み込む。その重責を振り払うように(きびす)を返し、本陣へ戻るためにその足を進めた。



 セレネ国の中央北寄りに位置するガアル地区に、突如ゴブリンが大量発生した。その結果、1つの村がゴブリンの集団に襲われ壊滅した。村人は惨殺、村は焼き払われ、若い婦女達は拐われるという残酷な有様となった。

 周辺の地区に救助要請があり、ゲイル達もゴブリンの掃討作戦に参加することなった。今回は500体近くが発生したのに加え、上級種族で知能もある大食い(レマル)ゴブリンが指揮をとっていた。ゴブリンがここまで組織だった行動をとるのは稀なことだった。


 3つの地区からなる騎士団が集合し、300人程度の討伐軍が組まれた。窪地にゴブリンを誘き寄せ、壊滅させる作戦は上手くいった。兵から十数名の犠牲は出たものの、ゲイル達の圧勝で終わった。




「団長殿、そろそろお暇していいか?」


 ゲイルが本陣へと帰る途中、傭兵ストームが彼に声をかけてきた。隻眼で長身、黒髪で切れ長の目が印象的な男。長刀と短刀を背中に携えている。激しい戦いの後を感じさせない威風堂々とした佇まいには、余裕があり、強者を思わせる。


「ああ、ストームか。大食い(レマル)ゴブリンを2体も倒したそうだな」

「Sクラスの傭兵様にとったら、ゴブリンの上位種だろうが大したことないさ。せいぜいCランクのモンスターだろ。そんなの瞬殺だ」


 ゲイルがストームの方へ振り返ると、彼は自信ありげに表情を緩めて答えた。事実、正に瞬殺だった。

 大食い(レマル)ゴブリン率いるゴブリン数十匹の集団に対し、1つの小隊が長時間苦戦させられていた。しかし風のようにストームが現れ、()()を一刀のもとに斬り伏せた。その小隊の隊長は、何が起こったのか理解が追いつかなかった。気付いたときには、真っ二つの大食い(レマル)ゴブリンの屍が転がっていたのだ。



 カルディア大陸には、様々な依頼を仲介するギルドが存在している。ストームはギルドから傭兵の依頼を中心に受けている。A〜Gのクラスがあり、ギルドの依頼に成功すればポイントがつき、クラスが上がっていくシステムだ。最上級は基本的にAクラスになるのだが、国家が特別に認めた者に、Sクラスが与えられる場合がある。


 Sクラスを持つものは大陸に数人しかいない。英雄クラスの選ばれし者なのだ。ストームは、カルディア大陸全体でも貴重なSクラスの傭兵として有名だ。


「ストーム、お前がいて助かったよ。右翼の指揮系統を潰してくれたおかげで、有利に戦いを進めることが出来た」

「ま、団長殿の助けになったならよかったさ。とはいえ、今回は雑魚モンスター相手だが、数が数だ。ギルドじゃAランクくらいの内容になる。それなりの報酬は頼んだぜ」

「ああ、私から高級貴族に功労者として進言しておく。報奨は十分出るだろう」


 ストームは顔の前に指を丸めて、金貨の形を作った。彼は報酬だけは、きっちりいただくようにしている。戦闘中、ストームが通過した後には、凄まじい勢いで数多のゴブリンが宙を舞っていた。それを近くで見ていたゲイルは、彼の功績を認めざるを得なかった。


「いいねぇ。それじゃ一服したら、アーガイルに先に帰っとくぜ。ギルドから他の依頼も頼まれててな」

「わかった。また連絡してくれ」


 ストームは頷くと、(きびす)を返し、片手をひらひらと動かしながら戦場から離れていった。ゲイルは、その後ろ姿を見送りながら、彼が味方にいてくれたことに安堵した。


 ゲイルとストームは、数年前からの付き合いだ。以前、戦場で対峙した機会があり、互いの強さを認めあって友となった。ストームは普段、強いモンスターが生息する北の帝国を拠点にしている。セレネ国にも定期的に用事があり、1か月程滞在することもある。今回たまたまセレネ国内にいたストームを見つけて、ゲイルが声を掛けたのだ。




 ゲイルが山道を馬で駆け上がると、小高い丘に陣を張る本陣へと到着した。そこからは、戦いの舞台であった窪地が一望出来る。彼は今回の激戦を振り返るように窪地を眺めた。


「ゲイル殿、今回のご助力恩にきます」


 その時、白髪混じりの黒い短髪で隆々とした体格の騎士が、ゲイルに声を掛けてきた。ガアル地区の騎士団長ガーリンだ。彼の鎧は一部ひび割れ、返り血を拭った跡がある。ゲイルはそれを見て、彼が自ら前線に立ち軍を鼓舞したのだろうと窺い知った。


「これはガーリン殿、そちらも片付きましたか? 被害は少なく済みましたが、激しい戦いでしたね」

「ええ。ゴブリンは単体では弱いですが、やはり獰猛ですね。集団になると(たち)が悪い。ゲイル殿の軍が迅速に右翼を潰したおかげで、挟撃が簡単にできましたな」

大食い(レマル)ゴブリンが指揮を取るとは、何か裏があるのか?と思案してしまいます。普通は軍を率いる程、知性が無いはずです」

「ふむ……確かに不思議ですな。大食い(レマル)ゴブリンの知性は、幼児並みと言われてますしな」


 ゲイルの言葉に、ガーリンは考え込むように無精髭をかきむしりながら、(しか)めた顔をした。ゴブリン達は集団で行動する事はあるが、今回は何かの意思によって統率されていた。そこまでの知性を持つゴブリンは、稀にしか存在しない。長い時間生き延び、他の種族に飼い慣らされた結果、成人並みの知性を得ることがある。

 ゲイルはゴブリンを操る者がいるのではないかと、推察しているのだ。



「あ、それはそうと、ゲイル殿」


 思案していたガーリンは、重要な事を思い出した様子で顔をゲイルに向けた。


「実は偵察に行かせた兵士が、今回ゴブリンが大量に出現した洞窟を見つけたのです」

「!?……その洞窟から出てきたということですか?」


 ゲイルは“洞窟”という言葉に反応して、急に緊迫した顔つきになった。そして、何か思案するように腕を組んだ。彼には()()が何なのか、心当たりがあったのだ。


「その通りです。腕の立つものを連れて、探索してみようかと。ゴブリンが発生した原因が分かるやもしれません。ご一緒しませんかな?」

「……分かりました」



読んでいただいて、ありがとうございます。

是非続きもご覧くださいませ。


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