地球編21 チーム結成!
※今回はコウ目線です。
遂に第三章の始まりです!!
「ロイヤルストレートフラッシュ……」
「ええ!お前、本当かよ」
「絶対、ズルしただろ」
差し出されたカードの並びに対して、エヴァンとアラシはブーイングした。俺達はポーカーの真っ最中、カードゲームで盛り上がっているところだ。休憩室には、俺とエヴァンとアラシ……そして、ヴェルゴが集まっている。
ヴェルゴっていうのは、アラシの同期で19歳の男だ。フランスの若き天才画家らしく、管理者の中でも一番若い。金髪の緩い癖毛を持つ美男子だ。
「ふふ……僕には、生まれ持った運があるからね。君とは違うのさ」
「ちっ、次だ次。絶対取り返してやるかんな」
ヴェルゴが嘲笑を浮かべてアラシを挑発すると、アラシはこめかみに青筋を立てて、カードを回収した。次で8回戦目だ。今の所、ヴェルゴの1人勝ちが続いてる。
休憩室には、殺風景な部屋に4人席のテーブルが3つ置いてある。白い壁に1つディスプレイが添えつけられているだけで、他に設備はない。でもディスプレイを操作すれば、缶コーヒーやペットボトルのジュースが無料で出てくる。表示された飲料の写真を選択すれば、画面下部の壁が自動で開く造りだ。未来の無料自販機みたいな感じかな。
「ったく、お前強すぎだぜ。本当に運が強いのかもな」
「ふふ、分かってもらえたかな?流石、スーパースターはご理解が早い」
「ね、強すぎだよ」
ヴェルゴが机上に並べたフルハウスのカードで、10回戦が決着した。その瞬間、エヴァンは諦めるように呟いた。俺も背凭れに体重を預けて、缶コーヒーを一口飲んだ。
勝ち誇った表情を浮かべるヴェルゴの隣で、アラシは肩を竦めて口をへの字にしている。
「はぁ……トランプは止めだ。ヴェルゴ、武道場で決着を着けようぜ」
「ふ……全く、君は結局力づくだな。ま、相手してやってもいいけどね」
「おいおい、アラシ……今は止めとけ。会議の真っ最中だし、待機を命令されてんだろ?」
心中穏やかじゃない様子のアラシのお誘いを、ヴェルゴも不敵な笑顔で受けようとしている。どっちも好戦的だ。エヴァンは、諌めるように2人に声を掛けた。
そう……今は大事な会議が行われている。今回、公会堂に一同に介したのは、この会議が一番の目的だ。俺とエヴァンは、まだ正式な一員じゃないし、アラシとヴェルゴもまだ組織で経験年数が浅いから、会議に呼ばれていない。
ニューヨーク支部からは、マットとダリアが出席している。あとは、ロシアのモスクワ支部や欧州の代表が出席している。アジアからは日本支部の人も来ているらしい。その他、中東やアフリカ、オセアニアの代表も参加しているようだ。
今回の議題は
・エラドの存在を公表するタイミングと方法
・シャゴムットとキリルの処遇
・カルディア大陸の近況と問題点
なんかが話し合われるようだ。
どれも頭が痛い問題みたいで、マットはここ数日病み気味だった。管理者のまとめ役も大変そうだ。特にモスクワ支部とは、関係が悪いって聞いた。
「にしても、このカルディア大陸って何なんだよ?俺、あんま聞いてないんだよな」
「ああ……なんか地球と関連深い星らしいっすよ。俺も詳しくは聞かされてないんすけど、エラドを倒す為には大事な存在らしいっす」
エヴァンは、事前に配布された議題資料をポケットから取り出すと、アラシに尋ねた。
「そう、大事な存在だよ。カルディア大陸の魔導士の人が、壮大な計画の立案者なんだ」
「ん?コウ……お前、何か詳しそうだな」
「いや、実は……俺、カルディア大陸行ったことあるんだ」
「「「ええ!!」」」
俺の言葉に一同仰天して、驚きの声を上げた。ま、そりゃそういう反応になるよね。すると、ヴェルゴが首を横に振りながら口を開いた。
「いや、それはジョークだよね。だって、銀河の彼方に存在している星と聞いてるよ」
「あ、いや、何か俺……特別な能力に目覚めたんだ。そして、カルディア大陸の少年と繫がることが出来るんだ」
「?……繋がるってどういう意味だよ」
隣でエヴァンが、理解出来ないって顔でこっちを見てる。
「向こうの星にロックスって少年がいて、別の何処かの空間で会う事が出来るんだ。その少年に憑依することで、カルディア大陸の世界を体感出来たりするって感じかな」
「何すか、その凄い能力は!……やっぱ、“金色の輝きを持つ者”はスケールが違うぜ」
エヴァンとヴェルゴが呆気に取られ沈黙する中、アラシは感動した様子で声を上ずらせながら言葉を発した。
「そう言えば、ジェット機の中でも何か言ってたな。能力の発現がどうとか」
「そうそう。何処まで話していいのか分からないけど、重要な人物があの星にいるんだ。国家もあって、俺達みたいな人間も沢山住んでるみたいだよ」
「はぁ……やっぱり宇宙規模で何かやってんだな。知れば知る程、とんでもないぜ」
エヴァンは呆れたように大きく息を1つ吐いた。俺は、ツナガルモノの能力については、あまり皆に話していなかった。まぁ、マットには一度詳しく話を聞かれたけど、あんまり他言していい内容じゃないのかな?と勝手に自重していた。
「うん、本当に大きな計画なんだ。俺は、その魔導士と話をしたし、公会堂でも色んな事実を知って、カリム様とも話をした」
「あ、そうだ。カリム様と話をして、どうなったんすか?」
「結論としては……賢者になるしかないって思ったよ」
「おお、一緒に頑張りましょう!」
「そうだね。僕らは大歓迎さ」
俺が今の心境を告白すると、アラシとヴェルゴは嬉しそうに声を上げた。そういう反応を貰えて俺はホッとした反面、重苦しい圧力が伸し掛かってくる感覚も湧いた。
「でも、『なるしかない』……って感じで、『なろう』って程前向きになれてはないんだよね。最後の覚悟が出来ない」
「……まぁな、考えても答えが出せる話じゃないからな」
「そうなんだよね。強大すぎる力をコントロールする覚悟も必要だなって、思い知らされたところもあってさ」
「成程な……」
エヴァンは考え込むように腕組みした。そりゃ、こんな事相談されても……何て答えればいいか難しいだろう。でも、自分の心に溜めきれなくなったから口にしてみた。
紗絵にもう一度会える可能性があるって分かってから、前に進む事は自分の中で決まった。けど……この運命とどう向き合うかの覚悟が、いまいち明確に持てなかった。
暫く沈黙が続いた後、アラシが口を開いた。
「……覚悟、か。コウさん達には言ってなかったっすけど、俺達は人を殺めたりする任務に就く事もあるんすよ」
「え……本当に?」
「俺もヴェルゴも……俺達の手は、既に血に染まってるんすよ」
「そう。任務には、暗殺や組織の壊滅ってのもあるんだよ。僕等は、指示通りこなしてきた」
2人の告白に、俺とエヴァンは息を呑んで見合わせた。明るく振る舞う2人の青年が、人を殺したりしてるなんて信じられなかった。
「俺も初めて人を殺した夜は、罪の意識に押し潰されそうでした。けど、俺達がやってる事が地球を守る事に繋がるなら……と思って」
「そうだね。今でも気持ちがいいもんじゃないよな」
「……そうだったんだ」
ヴェルゴはアラシの肩に手をやった。2人は若いながら、苛烈な状況を乗り越えてきたんだろうな。俺はショックを受けて、言葉が続かなかった。人を殺すなんて絶対良くないけど……そんなの戯言でしかないって状況がある事は理解出来る。
「コウさん……俺は高1の時、剣道で世界一になったんすよ。簡単になれてしまった。余りに強過ぎて……俺の相手になる奴がいなくなったんすよ」
「何だよ、自慢かい?」
「ヴェルゴ、茶化すなよ。……そんで、俺はグレました。行き場のない力を発散するように、善悪の判断もなく暴れまわってた」
俺とエヴァンは、何時になく真剣な表情のアラシの話に耳を傾けた。こんな話を聞くのは初めてだ。
「俺は色んなモノを傷付けて、罪を犯し続けた。そんで俺は刑務所に入れられて、家族からも見放されたんすよ。……でも組織は、そんな俺をスカウトしてくれた」
「今のアラシじゃ、考えられないね」
「そうっすね。なんか、力有り余って孤独だったんすよ。今は俺の力を受け止めてくれる相手もいるし、必要としてくれる組織もある」
「そうか。……それで」
俺は驚きつつも、彼の吐露する言葉に何か自分が求める答えがある気がした。アラシは、何か思いに耽るように目線を下げて頭を掻いてる。普段おちゃらけてる彼も、昔苦しんだ時期があったんだな。
「だから……俺の場合は、罪滅ぼしみたいなとこもあって。昔、色んなもん傷つけたから、その分を返さなきゃって……それだけなんすよね」
「まぁ、それだけでも十分立派な理由と思うぜ。今、お前は自分の力を正しい方向に役立てようとしてるんだろ」
「ま、そんな感じっすね」
エヴァンの言葉に、アラシは照れ臭そうに笑った。俺の目には、それが覚悟を決めた人間の力強い表情に見えた。
「コウさん……俺達は賢者の責任は肩代わりしてやれないっすけど、重い使命は一緒に背負いますから」
「ま、僕もコウさんのこと気に入ってるし、僕も力になるよ。この天才が居れば問題解決さ」
「……2人とも、ありがとう」
アラシとヴェルゴが掛けてくれた言葉は胸に響いた。勝手に孤独感感じてたけど、確かに皆にもっと頼っていいのかもしれない。
「そうだ、この4人でチーム組みません?」
「チームって何だよ。組織にそんな規定あるのか?」
「ないっすけど、まぁ……地球を守る仲間同士の集まりってことで」
「ああ、そういう意味のな。いいぜ、俺達は仲間だ。ヴェルゴも付き合いまだ浅いけど、いいのか?」
「勿論……暑苦しいのは好きじゃないけど、嫌いでもないからね」
チームか……トーリス達とバンド組んだ時みたいだ。俺は嬉しい気持ちが湧いてきた。そっか、仲間がいるとこんなに心強かったのか。最近、独りで殻に閉じ籠もってたから気付けなかった。
「いいね、これから俺達はチームだ」
俺がそう言うと、皆力強く頷いた。
「ん?でも、エヴァンも管理者になるって決めたの?」
「ま、ここまで関わったらな。今更逃げられないさ。それに俺だって、お前だけに押し付けるわけにもいかないだろ」
「そうっすよ。コウさんの言う覚悟の答えが何か分からないけど、コウさんが賢者になるっていうなら付いていくっすよ」
エヴァンは仕方ないって顔をした後、微笑みを浮かべて頷いた。向かいに立つアラシも、俺の胸に拳を軽くぶつけて、強い意志が篭った瞳を向けてきた。頼もしい2人の言葉のお陰で、運命に立ち向かう勇気が湧いた気がする。
「ふ……じゃあ、チーム名考えようか?そうだな、『天才ヴェルゴと仲間達』……が良いよね」
「うわっ……お前この空気で、それ言えるって引くぜ〜」
「え、どうして?僕がチームに加わるんだよ」
「はぁ……ちょっとこいつ、たまに頭おかしいんすよ」
「くっくっく、確かにネーミングセンスは無さ過ぎだな」
ヴェルゴとアラシのやり取りに、エヴァンは可笑しそうに腹を抱えた。確かにチーム名って難しいな。ここはシンプルなのはどうだろ?
「んー、Guardians of the starsの頭文字でGOTSとかは?」
「星の守護者達ってことか?ま、悪くねぇな」
「ヴェルゴ案より断然いいっすね」
「え、何かそれどっかで見た事あるけどな」
俺の案にエヴァンとアラシはノッてくれたが、ヴェルゴは不服そうだ。
「いや、お前が不服を言う資格はない」
「だな。とりあえず仮称はそれにしとこうぜ」
「え、いいの?」
「仕方ないな……」
膨れっ面のヴェルゴを他所に、アラシは手元のペットボトルを掲げた。そして、皆に立ち上がるようにジェスチャーで指示する。
「グラスじゃなくて格好つかないっすけど、チーム『GOTS』結成に乾杯!!」
「「「乾杯」」」
______この先、俺達4人は大きな困難に立ち向かうことになる。苛烈な運命は海練をあげ、眼前に迫っていた。この時はまだ、あんな事が起こるなんて、予想も出来なかったんだ……。
仲間達と向かう先を信じて、俺達は櫂を漕ぎ出した。




