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地球編16 公会堂

 俺達を乗せたジェット機は、滑走路をそのまま前進していく。左右の窓からは、滑走路の向こうに海の景色しか見えていない。


「おい、このままじゃ海に落ちるんじゃないのか?」

「ほら、前見てください。格納庫があるんすよ」


 エヴァンが窓の外を眺めながら呟くと、アラシは操縦席の方を指差して答えた。

 前方の窓に目をやると、立派な造りをした格納庫らしき建物が見えた。格納庫は分厚そうな壁で覆われており、左右に大きな金属製の柱が立っている。


 機体が近付くと、その中央にある扉がゆっくりと開かれていった。

 格納庫の入口に機首が入ると、薄緑の光で機内は包まれた。窓から外の様子を見ると、入口に薄い光の膜が掛かっているのが目に入った。機体は、その膜を通過していく。


「この光の膜でスキャンして、登録された機体かどうかを判別してるらしいっすよ」

「……凄い。こんな技術見たことない」

「そうっすよねー。でも、こっからが本番っすよ」


 俺が驚いて窓から外を覗いていると、アラシは興奮気味に答えた。機体が完全に格納されると、重厚な音と共に扉が閉まった。更に上下からも扉が出てきて、厳重に二重ロックされた。


 格納庫内は、丁度機体が1基入る程の大きさで、内装も何だかサイバーチックだ。電子機器やモニターが壁に設置されてあり、曲線形に膨らんだ壁の溝に沿って緑の光が漏れている。

 左右の壁には横長い画面が添えつけられており、そこに映し出された光が格納庫内を照らしている。外の風景が映っているようだ。


「じゃあ、降りていくぞ」


 マットが俺達に言葉を掛けると、何かロックが外れるような金属音と共に、格納庫は海中へと降下し始めた。


「え、何か動いてる?」

「おいおい、もしかして海中エレベーターかよ」

「そうっす、たまに魚が見えますよ。時間掛かるんで、ゆっくりしといていいっすよ」


 俺は、予想外の展開に頭がついていけてない。エヴァンは、機体の窓に顔をくっつけて外の様子をまじまじと見ている。

 画面に映される外の世界は暗い。だが格納庫から放出される光に照らされて、薄っすら海中の様子が伺える。時折、そこに魚影らしきものが映り込む。俺は、ぼんやりそれを見つめた。



 ______深海へと向かうに連れ、周囲は闇に覆われていき……殆ど外の様子は見えなくなってしまった。けれど、まだ格納庫は海底へ向かって降り続けている。


「どこまで降りるんだ?」

「だね、もうかなり降りた気がするけど」


 エヴァンと俺は、窓の外を眺めながら呟いた。もう数十分は経った。前の席では、アラシは寛ぎながら映画を見ている。隣の席のシーハンは、読書中だ。それにしても、この女の人……全然喋らないな。


「そろそろ着くぞ」

「いい?少しだけ揺れるわよ」


 操縦席に座るマットとダリアが、俺達の方に顔を向けて声を掛けた。次第に減速しているのか、重力の変化を感じる。

 やがて少しの振動と共に格納庫は動きを止めた。機体の前方の扉が左右にゆっくりと開くと、操縦席側の窓から、灰色の大きなゲートが見えてきた。警告音と共に緑の光を放ちながら、そのゲートも上下に開いていく。


 開いたゲートから奥に続く地面には、細く黄色い光が2つ横並びに破線状に並ぶ。見えなくなるほど長く続く六角形の形をした通路は、機体が余裕を持って入る大きさをしている。


 そのまま機体は空中に浮いて、ゲートの奥へと通路を進んでいく。


「凄い……。浮いてるよ」

「ああ、こんなの映画で見たことあるぜ!」


 エヴァンは窓の外を見ながら、興奮気味に話した。俺もその光景に胸が高まっている。

 何かの金属で出来た黒い壁には、様々な機械やモニターが壁に埋め込まれている。まるでSF映画でよくある、宇宙船から戦闘機が出撃する滑走路のようだ。これ、格好良すぎでしょ。


「へへっ、凄いでしょ?……ようこそ公会堂(エクサ)へ」


 アラシは立ち上がり、俺達の方へ体を向けて両手を広げた。



 ______ジェット機を降りると、黒い金属製の床や壁に覆われた、かなり大きな空間が広がっていた。その金属の表面には大理石のような美しい紋様が浮かんでいる。そして、一定の距離にある(ふち)に沿って、翡翠色の輝きが一直線に走る。

 そこには、俺たちが乗ってきた機体だけでなく、数隻の船や自家用サイズのジェット機も数機収容されている。


 それでもかなり余裕のある広さだ。船や飛行機のドックになっていて、整備士らしい人間が作業を行っている。半円を逆さにした形状の足場が宙に浮いている。その足場に乗って、整備士が機体の周囲を移動している。

 その光景は、まるで映画で見た宇宙基地のようだ。見たことのない装置やモニターが、所々壁に設置されている。


「いや、凄ぇもんだな。こんなのが海の底にあるってことだよな?」

「うん、宇宙映画の世界に入り込んだ感じだよね」


 エヴァンがその広さと規模に驚いて辺りを見回す。その空想科学の世界のような空間は、俺の中にある少年心に火をつける。この壮観には興奮させられてしまう。



「ここは地球の建築技術だけじゃ、作れないだろうな。魔力(マナ)賢者(ソフォス)の力を借りて作り上げたと言われている。この金属も、地球には存在しない物質なんだぜ」


 マットが背後から声を掛けてきた。壁に触れてみると、木材のような温かみがある。見た目は金属なのに、不思議な感覚だ。


「へへ、なんか凄過ぎて感覚がついていかないぜ」

「うん、確かに呆然としちゃうよね」


 エヴァンと俺は感動で声が上ずっている。まさかここまで大規模とは想像してなかった。


「それじゃ、私達は先に行ってるわよ」

「じゃ、また後で一緒に飯でも食いましょう!」


 俺達がドック内を眺めていると、ダリアとアラシも声を掛けてきた。そして俺達に手を振ると、奥の通路へ向かって歩いていった。2人の前方には、先を歩くシーハンの後姿も見える。どうやら、彼女は社交的な人じゃないみたいだ。だけど、任務には忠実で戦闘力は高いって話だ。



「……え!?」

「お、おい……何だありゃ!?」


 ダリア達と入れ替わるように、何かの生物が近付いてきた。俺とエヴァンはその生物を見て驚愕した。

 人間のような体型はしているのだが、肌が緑色で目付きが鋭い。トカゲのような顔や皮膚をしており、尻尾もある。格好は中世のヨーロッパを舞台にした映画でよく見る魔導師のような服を着ている。


「よく来たな、マット」


 そのトカゲのような生物は口を開いた。え、喋ったよ……しかも二足歩行してる。肌の質感とか、縦長い瞳孔の動作とかリアルだ。……絶対、作り物ではない。


「あぁ、ロン。久しぶりだな」


 マットは、ロンと呼ばれた生物と抱き合った。普通に挨拶してる姿は人間みたいだ。


「おい……喋ったぞ」

「ね、喋った。…………なんか、ゲームでは見たことある姿だけど」


 エヴァンは驚きの余り、口を開けたまま俺を見た。俺も脳が混乱して、目の前の生物が現実のものと受け入れられずにいる。まるで、リザードマンだ。


「驚いただろ? こいつはロン。俺たちの仲間だ。見て分かる通り、別の惑星出身だ」

「私はロンだ。まぁ、そう驚かないでくれ。この星の言語もきちんと学んだんだよ」


 マットは、面食らった顔で見合わせる俺達に、普通の人間を紹介するかのように紹介してきた。ロンと呼ばれた生物は、品がある渋い声をしている。不思議とダンディーな紳士のような雰囲気を感じる。



「お前がコウだな」

「え…………あ、そ、そうです」


 俺は急にロンに話し掛けられて、焦った。普通に話せそうな気はするけど、ビジュアルがビジュアルなだけに非常に戸惑う。なんか噛まれたら痛そうだし。


「マットよ。実は、カリム様に……コウと話すように言われている。連れていってもいいか?」

「あ、あぁ……勿論。コウ、驚くのは無理もないが、ロンは知性にあふれる奴だ。安心して付いて行け」


 ロンは俺の方に向けて指を差した。マットは了承して、俺の右肩に手を置いてリラックスさせるように、肩を軽く揉んだ。


「あのよ、 俺はどうしたらいい?」

「お前はエヴァンと言ったな。マット、こやつが管理者(ディアス)の候補者なら、一緒に来ても構わんぞ」

「よし!じゃあ、付いてくぜ」


 ロンは、エヴァンに目線をやって同行を許可した。すると、エヴァンは嬉しそうに頷いた。


「ま、会議は明日だ。今日はロンに、2人を任せるか。明日の事はまた指示する。じゃ、よろしく頼む」


 マットはロンの肩を叩いて、通路を奥の方へと歩いていった。




「では、私に付いてこい」


 ロンは、マットが向かった先と別方向の通路へ歩きだした。まだ姿には慣れないけど、道案内する振る舞いは人間と変わらない。


 通路は黒い金属製の壁が続く。上部と下部に緑の細い光がライン状に真っ直ぐ走っており、所々赤いランプが淡く点滅してるのが確認できる。幾何学的な模様をした床の隙間からは白い光が出ている。


 沢山の部屋が並んでおり、殆どの入り口の横にはモニターが設置されている。途中の部屋から研究員らしき風貌の男が出て来ると、ロンに会釈してすれ違っていった。……ロンの姿も、この場所では普通に受け入れられてる様子だ。



 数十メートル進んだ辺りで、ロンは1つの部屋の前で立ち止まった。

 入り口の前で、ロンはモニターに顔を翳した。すると扉の枠が赤い光を放った後、扉が開いた。生体認証っぽい感じなのかな?地球の科学より凄いものばかりだ。


「ここで話そう」

「あ、うん」


 ロンは、会議室らしき部屋に入るよう促した。中に入ると、楕円形の長机の周りに10席ほどの椅子がある。黒い金属製の床には、何かの紋章の様な装飾が施してあり、緑色の光が紋章の形に沿って放たれている。

 ロンは一番奥の席に座ると、俺達に対面に座るように促した。



「そうだな……まず、私について話そう」


 俺達が座ると、ロンは何か考えるように一呼吸置いてから話し始めた。


「うん」

「そうだな。すごく興味あるぜ」


 最初はロンの姿を目にして混乱したが、その落ち着いた口調には何だか安心させられる。エヴァンも似た気持ちなのか、ロンに対する興味の方が大きいようだ。


「私は別の星の住人だった。遥か離れた銀河にある惑星だ。地球程は文明が発達していなかった。それでも慎ましく、皆協力して生きていた」


 ロンは、懐かしむように回想する様子で数回小さく頷いた。そして、そのまま話を続ける。


「私はその星の管理者(ディアス)をしていた。惑星にエラドが襲来した時、仲間や家族を守るために……その銀河の賢者(ソフォス)と共に、エラドと戦った事がある」

「え!!……エラドと戦ったのか?」

「それに、住んでた星が襲われたって事!?」


 エヴァンと俺は驚愕して立ち上がると、ロンの顔を見た。彼は一度大きく頷くと、爬虫類のような縦長の瞳孔を俺の方に向けた。


「その通り。私は、エラドが滅ぼした星の生き残りだ」

「まじかよ……」

「信じられない……。それで、何で地球に?」


 俺とエヴァンは見合わせて首を振った。ロンは俺の質問に頷くと、説明を始めた。


「私だけ、死ぬ間際に助け出された。精神体に肉体の情報を纏わせることで、一度“生命の核”となったのだ。カリム様の特別な魔法だ」

「“生命の核”? そりゃ、どういう意味だ?」


 ロンは、回想するように目を閉じて話した。その余りの内容に、エヴァンが理解出来ない様子で尋ねた。


「肉体の遺伝子情報や構成物質の情報を分解して、精神体に纏わせる。そして、再生する魔法だ。一度“生命の核”にすれば、元の生命体に再生することが出来るのだ」

「それって……生き返らせれるってこと?」

「いや……死んでしまった生命は元には戻らない。あくまで、肉体も精神も生きた状態のままで“生命の核”に変化させられた場合のみ、復活することが可能だ」

「いや、まじで神級の魔法じゃねぇか」


 俺の質問にロンが答えると、エヴァンは信じられないという表情で首を横に振った。確かにそんな事が可能とは……魔法には何処まで可能性があるんだろ?


「ああ、カリム様にしか使えない魔法だ。……私の星が滅ぼされたのは数千年前の出来事だ。私は“生命の核”の状態で、数千年の間、精神の回廊(プネウディアドロモス)にいた」

「プネウ……?……えらく長い名前だな。そりゃ何だ?」

「宇宙の歪みを利用して、カリム様が作られた空間だ。“生命の核”は精神の回廊(プネウディアドロモス)を通して、特定の宇宙空間なら往来が可能だ」

「えっと、それって……カリム様の魔法で宇宙空間を移動できるってこと?」


 俺は自分で尋ねながら、とんでもなく現実離れした話だなと思った。っていうか、ロンは数千年前生きてたんだ?……相変わらずスケールが大き過ぎるな。


「その通りだ。私は地球まで移動させられ、この場所で5年前に再生させられたのだ」

「そうだったんだ?」

「……全く、現実とは思えない話ばっかだな」


 ロンの話に、エヴァンはまだ信じられない様子で溜息を1つ吐いた。俺はカルディア大陸の存在を既に知っているからなのか、彼の言葉が本当なんだと信用出来た。


「……私は、地球に『金色の輝きを持つ者が現れる』という予言があった為、呼び寄せられたのだ」

「それって……俺の事?」

「ああ、私の役割は、過去の賢者(ソフォス)の記憶をお前に渡す事だ」

「過去の……賢者(ソフォス)?」

「うむ。“記憶を伝える者 ”として、お前が来るのを待っていた」


 ロンは真っ直ぐと俺の方を見据えて、語った。

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