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カルディア大陸編15 ゼスト大陸②

 ストームとディーノは、ハーンの後に続いて会議室へ入った。彼らが部屋に入ると、カリムとセイントは一番奥の窓際に立ち、何かを話し込んでいた。カリムは老人の魔導士の風貌をしており、分身体の状態だ。身体は半透明に透け、後光でその辺縁のみが輝いて見えている。


 他に、惑星マギナムの管理者(ディアス)闘士(アトレーテス)が数名、円卓に座っている。手前の空席にストームとディーノは並んで座り、1番右奥の席にハーンは着席した。



「これで……全部か?」


 カリムは、ストーム達が席についたのに気付き、セイントに尋ねた。


「いえ……ゼスト大陸の管理者(ディアス)が一部来ておりません。しかし、今日来れる者は全員揃いました」


「そうか。それでは、話を始めよう」


 セイントは頷くと、ハーンの向かいの席に座った。カリムは全員が見渡せる最上段の席の前に立ち、円卓に座る全員を見渡した。



 集まった一同は、カリムの存在に緊張している。殆どの者が初めて目にする。実力者であるほど、彼の圧倒的な魔力(マナ)を感じやすい。場にいる者達は皆、カリムが放つ規格外の魔力(マナ)と神々しいオーラに、畏敬の念を覚えていた。

 初めて目にした者達は、その存在感に緊張し言葉を発することさえ憚られる気持ちになっている。


「皆知っての通り、ヴァーサノ山脈で魔人が暗躍している。そして……彼らと“悪しき意志の集合体(エラド)” の共鳴を感じる」


「ええ……そこまではヘイラー様からの情報提供により、把握出来ております」


 セイントは、カリムの言葉に真剣な表情で頷いた。


「うむ、問題はその先だ。イラ星雲に“悪しき意志の吹き溜まり”が出来ているのは、聞いておるだろう」


「はい。ヘイラー様がその為に足止めされています」


「そう……それこそが奴らの狙いだ。ヘイラーを足止めし、本命の存在に気付かせない為に……イラ星雲を利用したのだ。既にその存在は、この惑星の付近まで接近している。我も眼前のエラドに気を取られ、気付くのが遅くなってしまった」


 カリムは悔しがるように唇を噛んだ。彼の本体は、エラドの付近に存在している。エラドの進行速度を遅める為に、天の川銀河の賢者(ソフォス)アストロに手を貸しているのだ。


「……一体、何が近付いているのですか?」


「魔人達の狙いはおそらく……“エラドの下僕(しもべ)”の召喚であろう」


「“エラドの下僕(しもべ)”?……“エラドの欠片”なら耳にしたことがありますが」


 セイントは、顔を顰めた。円卓に座る管理者(ディアス)達も、動揺した様子でざわついた。隣の者と顔を合わせたり、1人で腕を組んだりして……様々な反応で驚いている。



「遥か遠い過去に、一度出現した存在だ。エラドとは別の人格を持ち、“エラドの欠片”よりも強力な力を持つ」


「そんな存在がいるのですか?」


「ああ。下僕(しもべ)も欠片もエラドが産み出す存在だ。欠片は悪しき意志の小さな塊が知的生命体に憑依するのに対し、下僕(しもべ)は長い時間をかけ、悪しき意思に包まれた卵の様なモノの中で育ってから孵る。自らの意志を持つ凶悪な存在だ」


「そんな存在を召喚するつもりとは……」


「ああ。すぐに位置を特定し、召喚を止めるのだ」


「分かりました。急ぎ、調査を始めましょう」


 セイントはカリムの方へ顔を向けて頷くと、強い決意を込めた口調で返事をした


「頼むぞ。思念(スケプ)の量も残り少ないようだ。この分身体も、もう少しで消え去る。この大陸の命運は、お前達の力にかかっておる。頼んだぞ」


 カリムがその場の者達に語りかけると、席に座る一同は、覚悟を決めた顔付きでそれぞれ頷いた。崇高な存在であるカリムの言葉は、気高く心強かった。彼等の心は眼前に迫る危機に慄いていたが、カリムの覚悟が込められた言葉によって奮い立たされた。


「分身体が消える前に、ゼスト大陸の様子も見ておきたい。セイント……あとは任せた」


 カリムがそう言うと、その身体が更に透明になり存在感は薄くなっていく。ストームはその様子を見て、慌てて立ち上がると声を上げた。


「ちょっと待ってくれ、カリム様!…… 地球は今、どんな感じなんだ?」


「あぁ、お前か。地球では……金色の輝きを持つ者が現れ、彼はその責務を受け入れようとしておる。地球の仲間達に降り掛かる困難は、これから起こるだろう」


「そうか……」


「全ては運命次第だ。お前はお前の責務を果たせ」


 カリムがそう言い終える頃、彼は姿を完全に消した。ストームは立ち尽くしたまま、隻眼となった片眼に触れた。彼には彼だけに託された責務があるのだ。


 会議室はカリムの存在によって包まれていた緊張感の余韻で、静寂が訪れた。一同は、明かされた衝撃的な内容と、底知れないカリムの魔力(マナ)をその身に受け……呆然としている。



「……………皆の者、今カリム様が仰られた通り、新たな問題が浮上した。風の王とノア様には、魔人の調査を引き続きお願いしよう」


 セイントは少し間を置いた後、全員の方へ向き直ると再び口を開いた。彼はそう話しながら、現状維持での調査しか行えない現実を悔やんだ。もっと魔人達の調査へ人員を裂きたい所だが、攻め込まれる可能性が高い現状、そうも言ってられないのだ。


「そして、ノア様に予言されている“魔王の出現”……これは、エラドを倒す為までの因子として必要な可能性が高い」


「では……これまで通り、“魔王の出現”を目の前にしても、暗黙のまま手を出すなという事カ?」


 セイントの言葉に反応し、彼の目の前に座るハーンが質問をした。


「致し方ない。その後の、“救世主の出現”に大きく関わる運命のようだからな……。“魔王”の正体や出現方法は、謎のままだ……そこだけは解明し、被害を最小限に抑えたい」


「ノア様の力でも、その部分が見えないという話だったナ」


「そうだ。ノア様の能力は、断片的な未来しか見えぬ。魔王に加え、“エラドの下僕(しもべ)”という存在が降り立つとなれば……我々だけでは、手に負えんかもしれんな」


「ああ、そうなると余り贅沢も言ってられないかもナ。眼前の火の粉を振り払うので精一杯ダロウ。………………予言された運命に沿う未来と、我々の意思で掴み取る取る未来……どちらが正しいのカ?」


 苦悩するセイントの隣で、ハーンも困難な事態に溜息をつくようにそう呟いた。


「それは分からぬ。だが私達には、ノア様の予言を信じる他ないだろう」

 セイントは立ち上がり、窓の外へと目を向けた。彼にももどかしさはあるが、動き出した運命の流れを変える訳にはいかないのだ。ノアの視る未来への道筋へと事態を向かわせるのが、自分の役目だと……セイントは己に言い聞かせた。




 _______カルディア大陸から、遠く、海を隔てて南に下った場所にある……ゼスト大陸。


 その場所に白い十字の形をした建物がある。


 円錐形を縦に長く伸ばしたような形の搭。その両脇から横方向にも円錐形が短く伸びている。窓は一切無い。赤と緑の色をした大きな門が入り口に立っている。


 内側から白い光を放つその建物は、見るからに神聖な雰囲気を漂わせている。


 カリムはその建物の中にある、祈りを捧げる祭壇の前に立っていた。真っ直ぐな白い道が、祈りの祭壇まで続いている。奥の壁には盾の紋章が描かれたステンドグラスがはめ込まれている。そこからは神々しく光が放たれている。



「カリム様、お目にかかれて光栄です」


 黒いロングコートを着た白髪の男が、背後からカリムに声を掛けてきた


「ああ……上手くいっているようだな。お前が今の責任者か?」


「はい、私はネル=ファーガソンと申します。今のところ魔力の蔵(マガポシキ)への転送は順調です」


 カリムが振り返ると、その男は跪いて答えた。彫りの深い顔に、尖った耳、白髪だが艶のある髪をしたハーフエルフだ。彼の黒いロングコートは、床に垂れて広がっている。


「そうか?……ルートヴィヒ家の人間もそろそろ来る頃だな」


「ええ、来月辺りに新しく補充されるでしょう。もう地球にも十分な量が蓄積されている筈ですが……魔素(マナス)も劣化すると魔力(マナ)への変換効率が悪くなりますからね」


「ああ、そうだな。あと……“器”の準備は、間に合いそうか?」


「はい、それも問題なく育っております」


「ノアの予言通りになるならば、それは必須だ。恐らく、数ヶ月以内に必要になるだろう。心しておけ」


「ええ、お任せください」


 ネルと名乗る男は、迷いのない表情で答えた。彼はある使命の為に、この場所に二百年以上留まっている。この建物の地下には研究所が存在しており、長年()()()()()が行われている。そこに立ち入る事が可能な者は限られる。


 このゼスト大陸自体も閉鎖された大陸だ。他の大陸から船で航行しても、この大陸に辿り着くことは不可能だ。周囲には強力な魔法結界が幾重にも張り巡らされている。

 そして……近付いて来た者には災害級の力を持つ海の魔獣(リヴァイアサン)が襲い掛かる。


 それが『始まりと終わりの島』……ゼスト大陸。その島に眠る歴史の真相を知る者は、カリムと賢者(ソフォス)だけだ。


「これから……大きく運命が畝る。エラドよ、今回こそお前を打ち倒そう。我生が終焉する前に、責務を全うせねばな」


 カリムは、祭壇に注ぐ光芒に触れながらそう呟いた。

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