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カルディア大陸編15 ゼスト大陸①

 赤と紫の魔力(マナ)の激突により、暴走したエネルギーが暴風の如く渦を巻き、更に舞台と周囲の魔法障壁を削り取っていく。


「くそっ、このままじゃ崩壊する……」


「はい、そこまでネー」


 その時、諦めかけたディーノの脇を人影が通り過ぎた。今にも暴発しそうな魔力(マナ)の塊の中に躊躇なく入っていく。

 激しいエネルギーが稲光のように地面を抉りながら走ると、舞台を形成する硬い鉱石も簡単に砕け散っていく。これ程強烈に渦を巻くエネルギーの中に入れば、普通の肉体なら灰に化すはずだ。


 しかしその人影は、身体を緑の魔力(マナ)で覆った状態で、まるでそこに何もないかのように魔力(マナ)の激流の中を進み、中央で足を止めた。そして、腰に差した大きな扇を2本取り出し、左右に広げた。


「ふぅ……面倒な規模まで膨らんだナ」


 その緑に光る人影が扇を両手で大きく振る度、2つの色の衝撃波が吸収されていき、次第に弱まっていく。


「なんだ?」


「何が起こっている?」


 その様子を視界に入れ、驚いたゲイルとエリックは我に返った。2人はぶつかり合う魔力(マナ)が弱まっていく事に気付き、互いの技と魔法を解いた。


 暫くすると、衝撃波は萎んでいき、そのエネルギーの激流は緩慢な動きに変化した。すると、縮小した魔力(マナ)の塊は、軽い破裂音と共に弾けて消えた。



「はぁー危ないじゃないのサー」


 強い癖毛の茶髪の男が、衝撃波によって生み出された大量の煙塵の中から出てきた。長身で細身の、鷲色の瞳をしたタレ目が印象的な男だ。両手の大きな扇で、煙を扇いでいる。


「ハーンさん! 助かりました」


「もの凄い魔力(マナ)だったナ。分解するのも一苦労だったヨ」


 ディーノはその男に近付いて声をかけた。舞台は抉れ、周囲には塵と砕石が大量に散乱している。ハーンと呼ばれた男は、周りを見渡して呆れるように話した。


「あの量の魔力(マナ)を鎮めるとは……あの男、何をしたんだ?」


 ゲイルは、まだ砂塵が舞う煙の中から目を細めて、ハーンという男を見た。彼は、舞台の両脇にいるゲイルとエリックを見つけると、呼び寄せるように手を振った。


「ちょっと熱くなりすぎでショ。お2人さん」


「あぁ、私としたことが……頭に血が上っていたな。すまない」


「う……俺もちょっと熱くなってやり過ぎたな。悪かった」


 ハーンは子供を叱るような口調で、近付いてきたゲイルとエリックに話しかけた。2人は見合わせた後、ばつが悪そうに周囲を見回して謝った。嵐が起こった後かのように、舞台を中心に地面は抉れ、幾重にもあった魔法障壁も破壊されている。観客席の一部も崩落しており、審判のディーノも呆れ返った表情をしている。



「全く。もう少しで舞台と観覧席が全壊するところでしたよ!あなた達2人は、立場もあるんですからちょっとは考えて下さい!!……特にエリック、あなたはここの卒業生なんだからルールは熟知してるはずでしょ!」


「……その通りだ、申し訳無い」


「悪かったな。で、そちらは?私達の魔力(マナ)を見事に吸収するとは……」


 本気で怒っているディーノを横目に、エリックは俯いたまま何も反論できない。ゲイルはバツの悪そうな顔で、ハーンの方を見た。


「この人は、教頭のハーンさんです。魔力操作の達人ですよ。教頭が来てくれてほんと助かりました。止めてくれなかったらどうなってたことか……」


「セイント学長から、何かあったら止めるように連絡が来たんダ。来て驚いタ、まさかこんな規模で魔力(マナ)が暴れているなんて……災害級の事故が起こるところだったヨ」


 ディーノがほっとした様子で話すと、ハーンは首を振った後、呆れた様子で肩をすくめた。


「すまない。つい、本気を出してしまった」


「……ふぅ、まさかあれを正面から受け止められるとはな。俺の最高ランクの魔法を、互角の力で押し返されるとは想定以上だ」


「あぁ。私もあまりの魔力(マナ)に、冷静さを失ってしまった。良い戦いだったな、久しぶりに血が騒いだよ」


 エリックが握手を求めると、ゲイルは笑顔でそれに応じた。本気で戦った者同士、分かり合えた部分があった。魔力(マナ)の質は、個人の資質や性格も反映する。互いに戦闘経験豊富な2人だった為、信頼に値する相手だというのを直感で理解出来たのだ。


「良い関係になれたようで、良かったですね。……ですけど、補修費の一部は請求させてもらいますからね!ここは、学生も使うんですから」


「え……わ、分かったよ」


「う……仕方ないな」


 ディーノは良好な雰囲気になった2人を見て安心した様子を見せた後、腕組みをして2人の顔を交互に見ながらニヤリと笑った。ゲイルとエリックは、彼の言葉に苦笑いしながら見合わせた。




「なーんだ、結局勝負つかなかったな」


「でも、凄かったよ。団長さん強いんだねー!」


 ストームとサーラは、いつの間にかゲイルの側まで来ていた。彼等は魔力(マナ)の暴走が収まったのを見て、状況を確認しに来たのだ。


「なかなかの戦いでしたわね。そこの傭兵さん……勝負をつけたいなら、私お相手してもよろしくてよ」


「もうアイシャやめろって。こいつらに実力はあるの、分かったろ」


 アイシャがストームをまた挑発すると、カロメはそれを諌めた。2人もエリックの背後に立っている。


「アイシャが失礼な態度をとって、悪かった」


「……ま、まぁ、それなりに実力は持たれてるようね。期待しているわ」


 カロメがぶっきらぼうな口調で、ストームに非礼を詫びた。彼は、ボサッとした赤い髪をしていて片目が髪で隠れている。アイシャは相変わらず上からの物言いだが、前ほど馬鹿にしている様子はない。


「……ふん、仕方ない。俺達も協力してやるさ」


 ストームも憎まれ口を叩きながらも、顔は笑っている。彼も強い仲間が出来たことは単純に嬉しかったのだ。ただ、自分が対立する火種を作ってしまったこともあり、何となく素直になれないでいるだけだ。


「もうっ、ストーム素直じゃないな~。でもこの人、優しいとこもあるからね」


「………か、かわいい」


「ん……?」


 サーラがアイシャとカロメに笑顔を向けると、カロメは顔を赤くして、小声で呟いた。サーラは何と言われたか、聞き取れず不思議そうな顔を彼に向けた。



「さーて、皆さん親睦会は終わりましたかネ?」


「え、親睦会って……」


 ハーンが生徒を相手にするような様子で声を掛けたのを見て、ディーノは苦笑いした。


「じゃあ、セイント学長からの伝言デス。『ルセル卿が動き次第作戦開始する。各自、すぐに動けるように準備をしておけ』そして、『ディーノ君は、伝令役としてゲイル殿と一緒にいるように』……分かりましたカ~?」


 ハーンは全員の顔を見回して、伝言を伝えた。ゲイルやエリック達は、彼の言葉に意を決するように頷いた。


「では、ここで一度解散しましょう。ルセル卿の動きに合わせて、また連絡を取り合いながら細かい部分はまた調整しましょうか」


「了解した。では、エリック殿これからよろしく頼む」


「あぁ、こちらこそ。作戦中は部下が世話になる。何かあれば遠慮なく言ってくれ。また俺からも連絡する」


 ディーノが解散を促すと、ゲイルとエリックは再び握手を交わし、再会を誓って別れた。




 ______ゲイル達が闘技場を出ると、日は高く登りきっていた。


「流石、紫の魔道士(モヴマギア)だったな。怪我の痛みが今頃出てきたよ」


「ああ、強かった。俺が火種になったのは悪かったな。サーラ、傷の手当をしてやってくれないか?皆腹減っただろ?俺は昼食用にパンでも買ってくる……今日は俺に奢らせろ」


「あはは、分かった。じゃ、団長さんそこに座って」


 3人は1階の広場のベンチの周囲で、一息つく事にした。ゲイルの太腿や両手にはまだ生傷があった。サーラは彼を座らせると、回復魔法をかけ始めた。暫くすると、ストームは昼食用にパンとソーセージを買ってきた。3人はベンチでそのまま昼食を摂った。


 食後もその場で寛いでいると、建物の奥から、荷物を持ったディーノが近付いてきた。


「ストーム、今日から僕も君達に付いていく事になった。よろしく頼む」


「そうか?じゃあ、一緒にアーガイル地区に行くのか。俺は構わんが、ゲイルもそれでいいか?」


「ああ、勿論さ。色々と心強そうだしな」


「はは、任せてくれよ!……あ、お任せ下さい」


 ゲイルは快くディーノを受け入れた。彼は調子に乗った口調で答えたが、まずいと感じたのか……教師のような口調で言い直した。


「いや、ストームを相手する時と同じで、砕けた言葉でも構わんさ」


「……あ、そうか、良かった。僕も本当は堅苦しいの好きじゃないんだ」


 ディーノは、ゲイルの言葉に安心したように返事をした。



 4人は、1階の広場に馬車を用意してもらった。帰り支度が済み次第、まだ日がある内に直ぐに出発する予定だ。4人が積み荷の確認をしていると、ハーンが姿を現した。すると、手招きをしてストームとディーノを呼び寄せる。


「2人にはまだ話がある。もう一度、学院長の元に来てくレ」


「あぁ、分かった」


「承知しました」


 ストームとディーノが近付くと、ハーンは2人に声を掛けた。ストームは、一瞬戸惑った表情を見せた後、振り返ってゲイルに話し掛けた。


「じゃあ、俺とディーノはもう少し時間かかりそうだ。さっき、クッキー売ってる店の地図貰ったから、買い物でもして待っててくれ」


「あぁ、分かった。では、城下町の入り口辺りで待ち合わせよう」


「わーい、クッキークッキー♪」


 ゲイルはストームから地図を手渡されると、位置を確認するように注意深く眺めた後、頷いた。サーラも隣からその地図を覗き込んで、すぐに嬉しそうに飛び跳ねた。


「じゃあ、またあとでな」



 ストームとディーノは、ハーンの後に続いて建物の奥へと進んだ。ひんやりとした空気に変わり、赤い絨毯が敷き詰められた廊下が真っ直ぐと伸びる。


「で、セイントさんからまだ他に依頼があるのか?」


「あ~、今カリム様が来られているんだヨ。ルセルへの対策案を話すために、ちょうど皆集まっていたからネ。急遽、会議をすることになったヨ」


 ストームが背中越しにハーンに話しかけると、彼はそのまま前を見ながら答えた。


「!?………カリム様が!」


 ストームは驚愕のあまり、声を失った。今回はただ事ではないと思っていたが、それほど重い事態なのだと改めて認識した。惑星マギナムまでカリムが来ることは、かなり珍しい事なのだ。


「やはり……事態は深刻そうだな。カリム様なんて、初めて見るよ」


「ああ、想定以上の事が起こってるのかもな」


 ディーノが心配そうに呟くと、ストームもいつになく深刻な表情に変わった。

読んでいただいて、ありがとうございます。


是非続きもご覧くださいませ。




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