カルディア大陸編13 紫の魔導士①
魔道士ノアと学院長セイントは、ゲイルとサーラに隠していた秘密を語った。
セイントの正体は管理者で、惑星マギナムを管理する役割があるという事、ストームは闘士で、有事の際に前線に立ち、星を守る役割があるという事を明かした。
そして、カリムと賢者という存在が宇宙上で動いており、地球を滅ぼそうとしている悪しき意志の集合体・エラドを打ち倒そうとしている事実も、彼等に簡単に説明した。
「うーむ……まさか、そんな想像も出来ないような世界が広がっているとは、信じられません」
「うん、この大陸の外のことなんか考えたこともなかったよ」
ゲイルとサーラは驚いた表情を浮かべて、見合わせた。2人共、今し方聞いた話をまだ現実のものとして受け入れられていなかった。その様子を見てノアは口を開いた。
「まぁ、唐突にスケールの大きな話をされても理解しきれないかな。まだマギナムじゃ、科学が進歩してないから、宇宙の概念もピンと来ないよね」
「ええ。……初めて聞く言葉ばかりで良く分かりませんよ。まさかこんな丸い球形の上にいるなんて、まだ納得がいかないですよ。ん?それにしても、ノア様……あなたは、どういう存在なのですか?」
ゲイルは目の前の星の模型に触れながら質問した。ノアは、微笑みを浮かべると口を開いた。
「私は、千年を生きる魔導士だ。昔は賢者候補でもあったんだけど、未来を視る能力が発現したから、特別な役割を担ってる。ま、舵取り人みたいなものだよ」
「え!?千年も……どうやって……」
「この身体は、時間が止まってる。成長する事も退化する事もない。私が人間だった頃、この身体に精神体として憑依したんだ。今は定着して完全に一体化してるけどね」
「そんな事が出来るなんて。それも、信じ難いです。……ふっ、私の想像の遥か上をいく話ばかりだ」
「はは、そうかい?でも、サーラの夢魔法にも似てるところがあるよ。自分の体から離脱して憑依する点は同じだしね」
ゲイルは想像を超える話が続いて、首を振りながら天井を眺めた。その姿を見てノアは更に目尻を下げ、穏やかな口調で話しながらサーラを見た。
「あ、ほんとだ!じゃあ、私にも出来るのかな?」
「どうかな?まぁ、おすすめはしないよ。千年生きてると、辛い時もあるからね」
「ふーん、そんなもんなんだ?」
「ではノア様、そろそろ話は終わりにしましょう。作戦会議の為、紫の魔導師達を呼んであります。もう下で待機しているでしょう」
ノアとサーラの話に、セイントは割り込むように口を開いた。彼はルセル卿の陰謀を阻止すべく、必要な人材を既に準備していた。
ゲイル達を招集したのも、秘密を明かす目的だけではなく、今回の対策を立て作戦の立案をするのが大きな目的だった。
「うん、そうだね。それじゃ私は退席しよう。ゲイル、サーラ……協力ありがとう。それじゃあ、セイントあとは頼んだよ」
「はい。お任せください」
ノアはゲイル達に礼を述べて立ち上がると、部屋の出入り口に向かって歩いていった。
「あ、そうそう。ゲイル、実はロックス君と私はもう友達なんだ。また会いにいくよ」
「え……ロックスと?」
「うん、彼は特別な能力を持ってる。とても大切な存在なんだ。また今度説明するよ」
ノアはそう言い残すと、扉を開き外へと出ていった。ゲイルは閉まった扉を眺めながら、急に息子の名前が出てきた事に愕然とし、思考が停止してしまった。
「……いや、どういう事だ?」
「まぁ、それについてもきちんと話すことしよう。その前に、作戦会議に付き合ってくれんか?1つ下の階に会議室がある。そこに移動しよう」
「はあ……」
セイントはゲイルに声を掛けると、全員を見渡し部屋を移動するように促した。
学院長室を出て階段を降りながら、セイントはゲイルに説明を加えようと話し掛けた。
「ルセル卿がダークエルフなのは、私も知っている……ずっと昔からな。今は敢えて泳がせていた」
「え、そうだったんですか!?」
「ノア様が視た未来に到達するまでには、定められた運命の流れがある。ルセル卿とお前達が対峙する事は必要な因子のようだ。ノア様は、運命の流れを変化させない為に尽力されているのだ」
「運命の流れ……ですか?」
「そうだ。その重要な因子の1つがお前の息子だ。そして、私もお前も、ストームも……その運命の流れの渦中に存在しているのだ」
ゲイルは、セイントの言葉に頷いた。自分だけではなく息子のロックスまでが関係している事実に、驚きの余り言葉が出なかった。
「先程も説明したように、邪悪なる者エラドがこの空の向こうに、存在しているのだ。全ては、奴を倒す為の道筋に繋がっている」
セイントは天を指差しながら話した。ゲイルは邪悪なる者とは何か、まだ想像出来ていない。だが事態は深刻な状況なのだろうと、セイントの表情から彼は読み取った。
セイント達が会議室に入ると、紫の魔導師達の3人が待っていた。魔方陣と月の刺繍が入った紫のローブを身に付けている。
3人は、セイントの前まで来ると片膝を着きお辞儀をした。その優雅な振る舞いは、育ちの良さを窺わせる。
「セイント様、王の勅命で馳せ参じました。私達、紫の魔導師達は貴方様の指揮下で動けとの御命令です。宜しくお願い致します」
真ん中に立つ、金髪で細身の男が代表して、挨拶をした。
「うむ、恩に着る。今回は招集に応じてもらったのは、今後の計画を伝えたいからだ。この者達と協力してもらいたい。こちらはアーガイル地区騎士団長のゲイルだ」
「アーガイル地区騎士団長のゲイルです。今回は、ご助力感謝いたします」
セイントに紹介されたゲイルは一歩前に進み、紫の魔導師達の3人にお辞儀をした。
「私はエリックと申します。紫の魔導師達の団長をしています。お見知りおきを」
エリックはゲイルに真っ直ぐ目線を合わせて、お辞儀を返した。彼は華奢に見える体つきだが、強者の雰囲気を持っている。エリート軍団の団長を務めるエリックは、強い意志を持ち、人並み外れた魔力を操る。
ゲイルとエリックは、簡単にお互いの仲間を紹介しあった。
エリックの後ろに立つ2人はカロメとアイシャという名前で、それぞれ副団長をしている。薄紅色の髪を持つ女と赤い髪の小柄な男だ。
ゲイルは、ストームとサーラを紹介した。作戦会議が目的なので形式的に挨拶すると、すぐに皆席についた。
誕生席に座るセイントを中心にして、ゲイル達とエリック達は、楕円形の円卓に向かい合うような形で座った。
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