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カルディア大陸編11 セレネ魔導学院

今回から数話、カルディア大陸の話が進みます。

 セレネ城下町の中でも最も大きく、最も格式のある建物……それが、セレネ魔導学院だ。

 宮殿風の建物で、灰色の石垣が積み上げられた重厚な壁が威厳を感じさせる。横に広がる壮麗な建物の中央には、半円形の紫色の屋根が乗っている。


 実技訓練用の広場を囲うように建っており、学院全体は、周囲を煉瓦造りの壁で囲われている。

 入場門は緑と赤の2色で出来ていて、門の上部には風格ある大鷲の像が彫られている。そして、魔方陣と大鷲2羽をモチーフにした紫の紋章旗が、門の両脇に掲げられている。



 その建物の最上階には、学院長専用の一室がある。特定の魔力(マナ)を持つ者しか、その部屋の扉は開けない仕組みになっている。部外者は決して侵入することが出来ない。


 その部屋の中で、学院長セイントは魔導士ノアと密会中だ。


「それでは……金色の輝きを持つ者と、実際話をされたということですか?」


「うん、コウとは話せたよ。戸惑ってはいたけど、冷静に状況を見定めようとしていた。……きっと、彼は自分の運命を受け入れてくれるだろう」


「それでは、一先ず安心ですな」


 先日魔導士ノアは、ツナグモノ・ロックスの体を通して、地球にいるコウと話をした。この事実は、カリムと賢者(ソフォス)……そして、今彼が話しているセイントだけにしか共有していない。



「うん、後はロックスを保護したいね。彼も失うわけにはいかないからね」


「ちょうど、これから彼の父親であるゲイルと会うことになっています。そろそろ、彼にも秘密を明かし協力してもらいましょう」


「そうだね、運命の歯車は動き始めた。“沈黙の契約(ミスティ)”の代行だけ、私がしようか?」


「ええ、お願いします」


 セイントはストームからの連絡を受け、ゲイルを魔導学院に招くことにした。ルセル卿が、セレネ国に魔物の軍団を率いて、侵攻してくる可能性がありそうだ、という話だった。


 セイントは“風の王”からの知らせで、既にその状況は予測出来ていたが、ノアが視た運命の流れを壊さないように、自ら動くことを自粛している。彼は、ルセル卿の件はストームに任せるつもりなのだ。



「それより、気になる知らせが届いた。地球の賢者(ソフォス)からの報告なんだけど……藍色の邪悪な魔力(マナ)を操る者が、地球にも現れたらしい」


「……あの星は魔素(スティオ)の濃度が低いのでしょう?そんな場所に、管理者(ディアス)以外に魔法を使える者がいたという事ですか?」


「その通り、地球で魔法を使える者は管理者(ディアス)のみだ。だから、邪悪な魔力(マナ)を操る人間なんて、地球に存在しないはずなんだ」


「それでは、どうして?」


「このカルディア大陸の者かもしれない」


「……カリム様の能力以外で、星を行き来する事などあり得るのですか?」


 カリムの能力で、過去に地球からカルディア大陸に移動した例は過去にあった。ストームもその1人だ。


 カリムは、宇宙網に沿って精神の回廊(プネウディアドロモス)という道を、地球から大陸まで繋げている。カリムの魔法で、肉体と精神を量子レベルまで分解し、その道を通して星から星へと送る。

 賢者(ソフォス)が束になっても、そんな事は不可能である。カリムという存在以外、実現出来ない筈なのだ。


「さあ、どうだろう。最近、予測された未来が部分的にぼやけるようになった。何かが運命に干渉して来ている。魔人達の仕業なのか、もしくはエラドが関係しているのか……とにかく、彼等が何かを仕掛けてきているのは、確かだろう」


「油断ならない存在ですな。……やはり、エラドが地球に接近する程、何か事が起きやすくなるかもしれません」


「うん。我々も、地球と連携する必要が今後あるかもしれないね。……より慎重に、物事を進める必要がある」


「ええ、運命にまで干渉してくるとは……悩ましい問題になりそうですな」


「早めに特定して、対処しないとね」


 ノアは、未来のビジョンに靄がかかるようになったのが、最も気掛かりだった。彼は、恐らく自分と似た能力を持つ者が現れたのではないかと推測している。



「ん?……そろそろ、ストーム達が来る頃ですな」


 セイントは、午前9時を知らせる鐘の音がセレネ城下町に響き渡る音を耳にした。彼が窓の外を眺めると、鳥が羽ばたいていく姿が目に入った。その先には美しい城下町が広がる。まずは、この平和な光景を守らねばと、セイントは胸に誓った。





 ______セレネ城は、緑が美しい山間に囲まれた平野の中に建つ。小高い丘に聳え立つ白亜の城は、気品に満ちている。城下の街には川が流れ、その情景にアクセントを加えている。


 美しく磨かれた白い石を積み上げた城壁、その壁に付く窓一つ一つに美しく装飾がされてある。深碧の色をした屋根から、複数の塔が高く空へと延び、その塔にも深碧色をした円錐型の屋根が付いている。


 青い空に栄える、白璧のシルエット。それを初めて見た者は、誰もが思わず息を飲む。その美しい造形美は、見る者を魅了し心を震わせる。


「いつ見ても立派な城だな」


「うん。キレイ~! 私、初めて見た。ん?なんか城の屋根の上に、弓みたいな形したの乗ってるね。あれ何だろ?」


 ストームが城を見上げて、感嘆した声で呟く。隣に立つサーラは、掌を合わせて口許に持ってくると、感激して声を上げた。そして彼女は、城の上部に何かを見つけると不思議そうな顔をした。


「あぁ、あのアーチ状に曲がってるオブジェのことか? あれは、三日月っていうんだ。神話の話だが、月の女神がこのセレネ国を遥か昔から守っていると伝承されてる。……昔からセレネ国の象徴なんだぜ」


「つき……って何?」


「ああ……さあな。まぁ神話に出てくる何かだろう」


 元々地球人のストームは、本当は月が何かを知っている。しかし、カルディア大陸の住民達にとっては、星の概念すら明確ではないのだ。何より月は地球の衛星だ。彼は説明しようがないと思い、適当に誤魔化した。



 セレネ城下町は、セレネ城の丘の麓に広がっている。城の城壁の外側にもう1つ城下町を囲うように城壁がある。出入りする為には、跳ね橋を渡り城門を通らねばならない。

 監視している門番に、身分を証明する手続きが必要となっている。


「よし、手続きは済んだ。魔導学院に向かおう」


 ゲイルは手続きを済ませると、ストームとサーラの方へ近づいてきた。彼らは合流すると、城門を潜り、城下町へと足を運んだ。


 城下町には中央に川が流れている。その周りに市場や教会、ギルドなどが集まり、城門に近い入口の方に民衆が住む家が建ち並んでいる。物流の盛んな市場には、色鮮やかな果物や織物も売っている。大陸各地から集まってきている商人達が忙しそうに歩き回っている。




「流石は城下町だよな。いつ来ても、市場の種類も商人の数も豊富だな」


「あぁ、ここはセレネ国の物流の拠点でもあるからな。そういえばストームは、こないだカタスト国に行ってたな。向こうとは、やっぱり雰囲気は違うのか?」


「まぁ、カタストはもっと雑然としてるな。他の大陸から流れてくる、珍しいものも沢山あるぜ。セレネの城下町は、整然としてて品があるよな」


 ゲイルの質問に、ストームはカタストの街の様子を思い出して答えた。


「そ・れ・よ・り~。ストーム……何か忘れてない?」


 サーラは満面の笑みで、ストームの顔を覗いてきた。何かを催促する素振りで、目をパチパチと瞬きさせている。


「…………焼き菓子の店だろ」


「うふふふ」


 ストームが面倒臭そうに頭を掻くと、サーラは上機嫌にスキップした。彼は、城下町に焼き菓子の店がある事を口走ってしまったのだ。お陰で、買う約束をさせられる羽目になってしまった。


「またクッキー食べれるの楽しみ〜。……え……うわっ……きゃあ!」


「おいおい、はしゃぎ過ぎるなよ」


 サーラは更に心を踊らせ、大きく一歩跳ねる。すると、横道から飛び出てきた人にぶつかりそうになって派手に転んだ。その姿を見てストームは苦笑いしながら、彼女の元に向かった。

 ゲイルは2人のやり取りを見ていると、妻マリアと出会った頃の事が思い浮かび、懐かしい気持ちになった。



 3人が暫く歩くと、城が近くなるに連れ、建物も品格が高い雰囲気のものが増えてきた。


「この辺りが貴族街だな。それにしても、ストームが私より城下町に詳しいとはな」


 ゲイルは、いつも通る道よりも早く貴族街に到達したので驚いてストームを見た。城下町の地形にストームは詳しく、道案内をしてくれていた。


「ま、何度も来てるからな」


「そうか。まさか、お前がセイント殿と知り合いとはな」


「色々と訳ありなんだよ。今から色んな事を明かすことになるからな……」


 ストームは、これから知る事が、ゲイルにとって重い内容だと知っている。彼は複雑な気持ちになり、話し終わると目を伏せた。


「どういう話になるのやら」


「……そういえば、ゲイルは魔導学院出身じゃないんだな?騎士団って、学院出身者が多いだろ」


「ああ。私の父が、剣士ラドンと友人だったらしくてな。私はラドンに鍛えられたのだ。両親は幼少期に亡くなったからな」


「ああ、そうか、前にそう言ってたな。お前も苦労してきたんだったな」


「まあ、そうだな……」


 ゲイルは感慨深い様子になった。彼は両親の事は、あまり教わっていないのだ。母親の事は覚えているが、父親の事は記憶にない。

 ストーム自身は何も知らないが、セイントがゲイルの父親の事を知っていそうな口振りで話していた事を、彼は覚えていた。ゲイルが必要なら、いつか代わりに聞いてやろうと彼は思っている。



「わー大きな門が見えるよ! かっこいいね」


 その時、先に1人で歩いていたサーラが振り返って、ゲイル達に声を掛けた。彼女は先程転んだにも関わらず、初めてのセレネの城下町に興奮して、ずっと(はしゃ)いでいる。無邪気に店主と話しながら、店先の商品を興味深げに見たりもしていた。


 サーラは一足先に魔導学院の門を見つけ、後ろを歩く2人に手招きした。


「これが、魔導学院の入り口か……これは見事な像だな」


 魔導学院の前まで来ると、ゲイルはその造形に感心して門を見上げた。赤と緑の門を挟むように、大鷲の像が正面を見据えている。彼は何度もセレネ城には来たことがあったが、魔導学院の前まで来たのは初めてだった。



「アーガイル騎士団長、ゲイルだ。学長から召集を受けた」


 ゲイルは、目の前に立つ門番に学院長のサインが入った召集状を見せた。


「お待ちしておりました、どうぞ。ん?……後ろのお2人は?」


 門番は召集状を確認すると頷いた。そして、ゲイルの後ろに続いたストームとサーラを、怪訝な目で見た。


「おいおい、俺は何度も来てるだろ?」


「私の知り合いです。学長の許可は得ています」


 ストームは不服そうに門番に声を掛けた時、脇戸から青い武道着に身を包んだ男が出てきた。茶色のサラサラした髪を靡かせ、柔和な笑顔を浮かべている。


「そうでしたか?失礼いたしました」


 門番は慌ててゲイル達に一礼すると、後ろを仰ぎ見て門を開けるよう、部下に合図をした。



「ストーム、久し振り。学院長がお待ちだよ」


「ああ、お前も呼ばれたのか?……こいつは、ディーノ。優男だけど格闘家だ。この学院の教師でもあるんだぜ」


「そうか。私はアーガイル地区騎士団長のゲイルだ」


「私は魔道士のサーラだよ」


「君達がそうなんだ?話は聞いてるよ。さあ、どうぞ」


 ストームは、ゲイル達に男を紹介した。ディーノは微笑んで頷くと、ゲイル達を魔導学院の中へと案内した。フロントホールには、赤い絨毯が敷き詰められ、豪華なシャンデリアが吊るされている。奥まで続く柱も美しい彫刻が施されている。



「ストーム、その女の子も連れてきてよかったの?」


「ああ、問題ない。セイントさんに事情を話したら、『今は戦力が欲しい。お前が信頼出来るなら連れて来い』って言ってたからな」


「まぁ、確かに今は戦力が必要だね」


 ディーノは、3人を先導しながらストームに尋ねた。彼はゲイルの事しか聞かされていなかったのだ。ストームは、セイントに確認した上で彼女を連れてきた。彼は、サーラにも隠し事をするのは限界に来ていると感じていた。



「じゃあ、ここだ。今日は、あの魔道士ノアも来てるらしいよ。でも、君達しか通すなって言われたんだ。いいよな、俺見たことないんだよ」


「まぁ、謎の存在だもんな。ディーノ、ありがとな」


「ああ。じゃあ、また後でな」


 最上階の学院長室まで、ディーノは3人を案内した。彼は羨ましそうな口調で話した後、下の階へと戻っていった。

 ストームは彼を見送った後、目の前の重厚な扉に手を伸ばし、中央の宝玉に触れた。すると反応した宝玉は赤く輝き、扉の縁に沿ってその光が奔った。それと同時にゆっくりと扉が開いていく。


 ゲイルは、不安と緊張が入り混じった気持ちで、部屋の中へと足を踏み出した。

読んでいただいて、ありがとうございます。

是非続きもご覧くださいませ。


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