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カルディア大陸編2 疑惑と噂

○カルディア大陸編のあらすじ


アーガイル地区騎士団長ゲイルは、ダムス台地でゴブリンの一軍の討伐作戦に参加した。その戦いは圧勝に終わった。

戦いの後に、謎の洞窟が発見された。その奥には魔竜という存在が巣食っているという隠された伝承がある。その洞窟からゴブリンが出てきた形跡があった。


不信感を抱いたゲイルは、何かが起こりそうな胸騒ぎを覚える。彼は将来を案じるように、強力な魔物が巣食う、北のヴァーサノ山脈の方角を見つめた。

 ______カルディア大陸。その大陸は、地球から遠く離れた……とある星に存在する。豊かな自然を有し、様々な種族がそれぞれの文明を築き上げている。


 その大陸の南に位置するセレネ国……その場所が将来、カルディア大陸全土を巻き込む大乱の起点となっていく。


 大陸の秘密を知る2人の魔道士は、既にその大乱を見据え、動き始めていた。



 セレネ国のとある場所に、()()()()と呼ばれる場所がある。ある契約をした者しか立ち入れない、封印された祠の奥に、それは存在している。


 今にも風化しそうな石畳の奥に、不気味な存在感を放つ巨大な大樹が立っている。それは魔力(マナ)の素となる魔素(スティオ)を産み出す、魔樹と呼ばれるものだ。



 その幹は小規模な城程の大きさがあり、一部の樹皮は剥がれている。巨大な幹には洞窟の様な穴が空いている場所もある。幹に続く根は畝るように絡み合い、その魔樹の不気味さを際立たせる。その根は大陸の奥深くへと張り巡らせる。


 天井を見上げれば、樹冠を視野に入れることが出来ない程、枝葉が高く伸びている。枝葉の隙間からは皓皓(こうこう)とした光が差し込む。


 建物の白壁は、その大樹を取り囲むように建てられている。その素材には継ぎ目も無く、風化した部分が一切見られない。建物内は薄暗い空間だが、柔らかな光が大樹の前に立つ台座の周辺を照らす。


 魔樹が産んだ魔素(スティオ)が拳大の塊となり、白い光を放ちながら無数に空間に浮いている。神秘的な雰囲気を持つその場所は、限られた者にしか知られていない。



 その台座の前で、2人の魔導士が密談をしている。1人はセレネ国の魔導学院長セイントだ。人並み外れた魔力を持ち、彼は生ける伝説としてセレネ国で尊敬を受ける魔道士である。


 白髪は短髪に切り揃えられ、端正な髭を蓄えている。彼の左目の周りには火傷の痕がある。魔導師にしては筋肉質な体をしていて、もう70才は超えているはずだが、年齢以上に若々しい。


 そして、もう1人は……運命を司る魔道士・ノアだ。千年の刻を生き、未来の運命を視る能力を持つ大魔道士。彼の存在も、限られた者以外には知られてはいない。



「地球で、金色の輝きを持つ者が現れたようだよ」


「!?……そうですか……ついに、運命が動き出すのですな」


「そうだね、エラドを倒す為の長い戦いが始まる。セイント、計画通りに事を進められるように……頼んだよ」


「分かりました。……ノア様……これから、多くの血が流れてしまうのは、仕方ないのですね?」


 ノアは、セイントの言葉に寂しそうな表情で頷いた。天井から隙間風が吹く度、そのクリーム色の長髪が靡く。装着した長いローブの胸には玉虫色の宝石が煌めいている。


 彼は未来を視る能力で、この大陸に巻き起こる大乱の断片を見据えていた。



 絶望の中に埋もれる希望を掴み取るために、彼は千年もの間かけ、シナリオを準備してきた。



「例の親子の事も頼んだよ」


「ええ。ストームには、彼らに協力するように伝えています。詳細は何も伝えてませんが、それで良いのですね?」


「うん。運命は意志が働きすぎると、反転しまうこともある。慎重にいきたいね」


「分かりました。私達は計画通りに事を進めます。何があったとしても、運命の定めのままに……」


 セイントは覚悟を決め、言葉を発した。彼の鋭い目つきはより険しくなる。今後の運命の行く末を思うと余りに重い責務だ……彼は、未来を託す者達の道を示さねばならない。


「頼むよ。……もう、運命の歯車は動き出している」


 ノアは、遠い未来を視た。強大な敵を倒すまでの道筋は、彼にしか分からない。だが、彼の能力でも運命に翻弄される時がある。それ程強い運命の力に翻弄されながらも、彼は歩み続ける。






 ________その頃、アーガイル地区のジェネレス家では、5歳になった息子ロックスに翻弄される父親の姿があった。


「ロックス、今から剣の稽古でもしようか?」


 ゲイルは、必死にロックスを剣の稽古に誘っているところだ。彼は、息子の身体能力の高さに気付き始めていた。ロックスが友達と平原を走り回ったり、川で小魚を追いかけたりする姿を、ゲイルは最近観察していた。他の同じ年頃の子供よりも、明らかに素早くて力がある。


 この身体能力なら優れた剣士になる素質があるはずだが、ロックスは剣の稽古に興味を持ってくれない。最近のゲイルの悩みの種だ。


 今も彼が稽古に誘ってみたら、ロックスは部屋の奥に隠れてしまった。



「全く、困ったものだ」


「まだ早いんじゃない? 焦らなくても大丈夫よ」


 妻・マリアは、腕を組んで仏頂面になったゲイルを見て、笑いだした。セレネ国で勇名を轟かす騎士も息子相手では分が悪い。その姿が可笑しかったのだ。



「ロックスの身のこなしを見たことあるか? 私より優れた剣士になる資質があるのに」


「あの子は優しいのよ。こないだ片足をなくしたバッタをみて本気で心配してたわ。剣士向きの性格じゃないのかも」


「まぁ、慈愛の心を持つのも大切だが、優しすぎるのも困りものだな」


 ゲイルは、口をへの字にして呆れ顔になった。彼も騎士団長としての仕事が忙しく、なかなか父親として接する時間を持てていない。ロックスを騎士の子として厳しく育てねばと思うのだが、思うようにいかない。



「まぁまぁ。剣士だけじゃなくて、傷を癒す僧侶になる道だってあるんだから」


「んーむ、騎士の子だし剣を覚えて欲しいのだが。なかなか難しいものだな。……ターナーは興味持ってくれるか?」


 去年産まれた次男ターナーを、マリアは愛しそうに抱いている。まだ1歳に満たないターナーは、あどけない顔で父親の方を見て手を振っている。


「そうか、お前は剣士になってくれるか」


「うふふ、まだ言葉は分かってないわよ」


 ゲイルは、母親の胸に抱かれるターナーを撫でると微笑んだ。貴族からの依頼で、長期に家を空けることが多いゲイルだが、帰るたびに大きくなっていく息子たちに会うのが1番の楽しみだった。




 ダムス台地でのゴブリンとの一戦から、もう2年が経つ。あれから、単発的には魔物や野盗が暴れる事件があったが、組織だった動きは見られていない。


 そのダムス台地での戦いで活躍したストームと、ゲイルは今でも連絡を取り合っている。

 そのストームが先日セレネ国に来ていた。ゲイルは彼をアーガイルに呼んで、夕食を共にする事にした。相談したい事があったのだ。



「久しいな、ゲイル」


 アーガイル街で1番美味しいと評判のパブ・海船亭の一室に、高い背を縮めながらストームが入ってきた。


「よく来たな。ふふ、すまないな。ここは天井が低いんだ」


「確かにな。まぁ構わんさ、座ったら同じだ。にしても騎士団長様が、こんな庶民的なとこで飯食ってて大丈夫か?」


「まぁ、たまには気晴らしになるしな。ここの店主とは昔馴染みだし、融通がきく」


「そうか、それで個室に通されたのか」


 テーブルの間を通るのも苦労するほど、店内は繁盛している。4人座りの円卓が複数置かれた店内には、料理の良い香りが漂う。所狭しと店員が走り回る度、床の軋む音がする。そのホールの更に奥の部屋に、ストームは通された。


 その個室は普段、休憩室として使われている。ゲイルと友人の店主が特別に部屋を開けてくれたのだ。 


「おい、俺もエールをくれ!」


「あ、はい」


 窓の外で店員が、店内を忙しなく動いている。ストームは窓から顔を出して声をかけた。



「にしても、くたびれたよ。カタスト国の商人ときたら、腹黒いしケチだしな。あれの護衛は割に合わん」


「カタスト国まで行ってたのか?」


 ゲイルは、驚いた顔でストームを見た。カタスト国はカルディア大陸の南西に位置する商業国だ。セレネ国は反対側の南東にある。南の中央にある農業国ゲオールを挟む形で東西に位置する。


 カルディア大陸には南に5つの人間国家がある。北には、ビースト国家、エルフ国家が存在しており、他に多種族が住む森林が広がっている。更にその北に強力な魔物が巣くうヴァーサノ山脈が聳えている。


 人間国家の中で一番北に位置するのは、東西に広い領土を持つジェナミ帝国。


 位置的にヴァーサノ山脈に近いこともあり、強い魔物も周辺に出現する。なので必然的に強い武力が必要とされる。人間国家の中で最も強力な軍隊を有しており、鍛え上げられた帝国騎士団アフティビトスの強さは圧倒的である。


 帝国が管理するギルドが地方に点在しており、傭兵業もさかんに行われている。北の大地は天候や土壌も悪いため、農作物が育たない。南の人間国家へ傭兵や労働者を派遣し、見返りとして食物や貿易品をもらう関係が成り立っている。


 その為、各国のジェナミ帝国大使館の一角には国営ギルドが存在している。現在、傭兵ストームは帝国とセレネ国の2つのギルドに所属している。



「あぁ、帝国へ献上品を持っていくからって護衛の依頼が来てな。中身は知らんが貴重な代物だったらしい」


「ストームはカタスト国のギルドには所属してなかったよな? ジェナミの大使館ギルドを通じて、と言う事か……それは、訳ありだな」


「あぁ、余程大事なものだったんだろうよ。遠くまで出向いた割りには、安い報酬だったがな」


 下唇を尖らせて、不満そうにストームは答えた。彼は内容に見合った報酬でないと受けないと決めている。しかし、今回は世話になっている貴族からの頼みで断れなかったのだ。



「それはそうと……何か用事があるんだろ?」


「あぁ、それは……」


「はい、お待ちどお!」


 ストームの質問に、ゲイルが何か答えかけた時……店員が、エールと一緒に料理を運んできた。鶏肉をぶつ切りにして素揚げした上に、照りのある黒いソースを絡めてある。鶏肉の香ばしさと甘辛く濃厚な香りが食欲をそそる。



「まぁ……ストーム、まずはこれを食べてみろ。アーガイルで1番旨いぞ。一度お前にも食べさせたかったんだ」


「あぁ………んむ?……お、こりゃ旨い!」


「そうだろ? これはセレネ城下街でも食べれないんだ」


「こんな旨いのは、なかなかない!でも……何かの味に似てるな。昔、食べた味なんだがなぁ」


 ストームは舌鼓を打つと興奮気味に話した。そして二口目を口にする。口をモゴモゴ動かしながら、何かを思い出そうと頭を捻っている。



「ん?帝国にも似た料理があるのか?」


「いや、帝国の料理は不味い。頭に来るくらいな。……ああ、そうだ!竜田揚げに味が似てる」


「……タツタ? 初めて聞く料理だな」


「……あ、いや、あれだ……。若い頃、()()()()から来た話を、前にしたろ。あ……そうそう!こっちに来る前に、食べてたよなぁ」


 ストームはしまったという顔をすると慌てた素振りで腕を振り、しどろもどろになりながら答えた。ゲイルは不思議そうな表情で、彼を眺めている。



「興味深いな。その()()()()とは美食が多いのか?」


「いやー忘れた忘れた! あれだ、好物だったから、それだけ覚えてたんだ」


 以前も、ストームは()()()()から来たとゲイルに話していたのだが、それに関してはいつもはぐらかして、多く語りたがらない。彼も何か事情があるのだろうと、ゲイルは考えていた。



「いや、それよか、貴族街の外で会うなんて、初めてじゃないか?」


「あぁ、向こうではしづらい話をしたくてな」


 アーガイル地区の街全体は外壁で覆われていて、庶民が住む街や市場が入口の門から奥に向かって広がる。そこから更に高台の方に進めば貴族街がある。


 メルド公爵が貴族街の中央に大きな邸を構えて、地区を治めている。その周りに貴族や騎士が住む家が立っていて、ゲイルも貴族街に住んでいる。貴族や騎士が庶民のパブで食事すること自体が珍しいのだ。


 ゲイルは、昔馴染みの海船亭店主に頼んで特別に個室を用意してもらっている。これまでも内密に人と会うときに利用した事がある。



 ゲイルは一口エールを飲んだ後、ストームの目を見据えて話を切り出した。


「ストーム、ダムス台地の近くにある地下洞窟の存在に気が付いてるだろ?」


「え、相変わらず鋭いな。……魔竜マギアドラゴンの事だろ、国家機密なのも知ってるよ」


「まったく、どこから情報仕入れてるんだ?」


 ゲイルは呆れたように、息を吐いた。


 ストームは、重要な情報を何処からか手に入れていた事が何度もあった。かなり重要な機密でも、すでに知っていたりするのだ。ゲイルは不審に思いながらも、彼はセレネ国の重要な人物と知り合いなんだろう……と結論づけていた。



「それは言えん。でも口外しないから安心しろ」


「ま、その点は信頼してる。お前にも参加してもらったダムス台地でのゴブリン討伐戦があっただろ」


「あぁ、2年前くらいのやつな」


「あの後、ゴブリンが通ってきたと見られる地下洞窟の入口を見つけて、魔法結界で封印したんだ」


「ふーん。そうか、やっぱり魔物の通り道になってるんだな」


 ストームは推測していた通りという顔をした。まるで彼は既にそれを知っていたかのような口振りだった。ゲイルはその様子を見て、疑問を持ちながらも話を続けた。



「……おそらくな。だが、魔法結界を破ろうとした痕跡が最近発見された。まぁ、大魔導師セイント作の結界だし、簡単には破られないだろう。犯人は特定できたのだが、見つけたときはすでに殺害されていた」


「ほう……きな臭い話だな」


「あぁ、私はメルド公爵が関わっていると見ている。洞窟があるガアル地区に、メルド公爵が非公式に出入りしていた目撃談がある」


 ゲイルは声のトーンを落とし、ストームに顔を近づけて話した。個室の外の店内は騒がしく、誰も聞いていないはずだ。

 しかし、店員に聞かれてもまずい話なのだ。メルド公爵は、アーガイル地区の良き領主として慕われている。



「……この地区の公爵が、あの洞窟を何かに利用しようと考えてるのか?ま、碌な事じゃなさそうだな」


「あぁ。探りを入れたいが、公爵相手に騎士団長の私が動くと目立つ。ギルドで信頼できる、スパイが得意な人間はいないか?」


「ま、心当たりはある……。色々と面倒だが、打診してみよう」


 ストームは、頭の中で思い当たる相手を見つけた……が、すぐに顰めた顔をした。信頼できる相手なのだが、依頼する時に気苦労する事が多いのだ。



「よろしく頼む。それと、最近北の方に動向はあるか?」


「まぁ単発的に魔物は出現するが、帝国周辺でも大きな動きはない……だが……」


「?……だが?」


 ゲイルは、途中で話を止めたストームを不思議そうな顔で見る。彼は考え込んで沈黙している。しかし、何か閃いたように一度頷くと、ストームは口を開いた。


「魔物を率いる人間が現れた噂がある」


読んでいただいて、ありがとうございます。

是非続きもご覧くださいませ。


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