地球編8 ダリアの告白①
☆コウ視点の話です。
「やぁ、エヴァン。遅くなってごめん、地下鉄1本乗り損ねてさ」
〘おう、来たかコウ。まだダリアは来てないぜ。まぁ上がれよ〙
インターフォン越しにエヴァンと話すと、自動扉が開いた。俺はマンハッタンにあるエヴァンの自宅を訪問した。エレベーターが6台も付いている高級マンションだ。ここは彼の自宅ではあるが、もう1つ本宅としてマイアミに豪邸を所有してるらしく、こっちはビジネス上の拠点として使用しているようだ。
俺は50階以上ある高層マンションの1室に通された。開放感のあるリビングからは、ニューヨークの摩天楼を一望できる。大理石の壁に絵画が掛けられていて、ラグジュアリーで光沢のあるカーペットの上には、本皮の高級ソファーが並べられている。流石は、セレブのお家だ。全ての家具の質が桁違いに良さげだ。
奥には黒の光沢の艶が美しいグランドピアノが見える。あれはもしかして、ベーゼンドルファーのお高いやつなのでは?商業ベースとは無縁の丁寧な手作業によって作られるそのピアノは、プレミアムな価格がする。
「あれ、気になるのかよ?まぁ、限定モデルだから希少だしな。お前、ピアノも弾けるのか?興味あるなら触ってもいいぞ」
「少しだけなら弾けるよ。じゃ、折角だし、ちょっと触らせてもらおうかな?」
「いいぜ。まぁ、話が終わってからゆっくり触ればいい。もう少しでダリアも来るから、そこのソファーで寛いどけよ」
俺は、“夢”の件でエヴァンに呼び出された。この胸の痣も消えずに残ったままだ。どうやらダリアが、色々鍵を握っているらしい。エヴァンもまだその内容は詳しく聞いてない。今日、ダリアが詳細を話してくれるみたいだ。
「一体この痣、何なんだろうね?あの夢も……俺もここ数日色々考えたけど、非現実的な空想しか浮かばなかったよ。エヴァンはどう思う?」
「だよな。夢の話といい、この紋章みたいな痣といい……現実とは思えない。まるで、映画の中の話みたいだな。アベンジャーズとか、知ってるか?」
「勿論!俺達、スーパーヒーローになったりしてね」
「はは、それ悪くないかもな。俺も、昔ヒーローに憧れていたんだぜ。MARVELのアニメやコミックは今でもたまに見るしな」
俺達は不安を押し殺すように、軽い口調で冗談を言い合った。まぁ、“夢”とは言ったものの俺とエヴァンは確実に何かを体験している。それは2人共、直感で分かってる。絶対、通常じゃ想定出来ないような、突拍子も無い話になるのは間違いない。
「お、来たみたいだな。…………おう、ダリア、上がれよ」
その時、玄関のチャイムの音が鳴った。ダリアが到着したようだ。エヴァンはモニターを確認すると、インターフォンでダリアに話し掛けて玄関を解錠した。
「あら、もうコウも来てたんだ?ごめんね、お待たせしたわね。……って、エヴァン、コーヒーくらい準備したらいいのに!」
「あ、あー……その辺、あんま気が利かないんだよ。俺は」
ダリアが入ってくると、俺に気付くと手を振った。俺達の手元に何も無いのに気付くと、エヴァンを叱ってキッチンの方へ向かった。彼女はこの部屋には、仕事で寄ることがよくあると言っていた。何が何処にあるかもよく分かっている様子だ。心配してたけど、いつものダリアの調子で少し安心した。
暫くして、ダリアは3人分のコーヒーを淹れるとテーブルに並べた。良い香りが漂う。少し砂糖とクリームを入れ、かき混ぜるとコーヒーカップの中で、ゆっくりと白い泡が回転していく。俺とエヴァンは、テーブル越しにダリアと対面するように並んで座った。
「なんか……緊張するわね」
「ま、いいから話せよ。普通の話じゃない事は俺もコウも覚悟してるさ」
「うん。なんか不思議過ぎてよく分からないしね。深刻な話になるのは聞いてるよ」
ダリアは一口コーヒーを飲むと、息を吐いて深く頷いた。そして、覚悟を決めたように静かに話し始めた。
「2人共、巻き込んでごめんなさいね。……あなた達が見た夢は、夢じゃなくて現実よ。あれは精神だけが、別の惑星に飛ばされた状態なの……っていきなり、よく分かんないわよね」
「……あ、ああ。何言ってんだと思ったぜ。精神が飛ばされるって何だそりゃ?」
「いい?スケールの大きな話になるわ。私達は地球という星に住んでいる。それは太陽系の一部でしょ。で、その太陽系は、天の川銀河に属してる……そこまでは、聞いたことあるわよね?」
「宇宙の話だよね。なんか理科の時間を思い出すよ」
エヴァンと俺は見合わせると、首を傾げた。何故、唐突に宇宙の話になったのか理解できず、呆然としながらダリアの話に耳を傾ける。
「銀河も、宇宙には数え切れない程あるわ。実はその無数の銀河を統監している存在がいるの。それが、カリム様よ。あなた達が夢と呼んでるものに出て来た、白髪の魔道士の姿をした人……うーん、まぁ人って呼ぶのも少し違うんだけど」
「あのよ、……お前真剣に話してるのか。あ、アニメの見過ぎだろ?それとも、変な宗教に入ったわけじゃないよな?」
「違うわよ。本当の話!……まぁ、信じろって言っても難しいわよね。とりあえず説明を続けるわね」
エヴァンは戸惑うように頭を掻いて、疑惑の目でダリアを見ている。俺もあまりの内容に胡散臭いなと思ってしまった。ダリアは俺たちの反応を見て、仕方ないという顔で溜息を1つ吐いて、そのまま話を続ける。
「私にも役割があって、知的生命体が住む星を管理する管理者と呼ばれる存在なの。管理者は、その星の住人から選ばれていて、地球では私以外にも複数人いるわ。そして、その資質はエヴァン……あなたにもある。カリム様に胸に手を翳されて、緑色に光ったんでしょ?」
「あ、ああ……そうだ」
「そして、コウ。あなたは金色に光った……賢者の資質がある貴重な存在よ」
「え……な、何それ?」
「賢者は、知的生命体が住む銀河を管理する者よ。時には沢山の銀河が集まる銀河団の担当をすることもあるわ。大きな銀河の中には、知的生命体が存在する星が複数存在する場合がある。つまり、私達管理者より上位の存在になるわね」
エヴァンと俺は再び顔を見合わせる。彼は首を傾げている。急に小難しい話になったし、内容が内容だ。俺も彼女の言葉に啞然とした。なんか、銀河とか星を管理する者……って、本当にアニメの設定みたいだ。
でもダリアは真剣な表情で話してるし、冗談を言う状況でもない。さっき俺達が冗談で話していたスーパーヒーローの映画みたいな話になってきた。隣でエヴァンは天井を眺めながら、両手を上げて肩を竦める。まだ現実として受け止められて無い様子だ。
「えーと、ちょっとまだ頭が追いつかないんだけど……。その話が本当だとして、俺達が見た夢は、結局何だったの?」
「あれは、カリム様の試練よ。あなた達が本当に適応力を持っているかを調べる為のね。精神だけを近くにある過酷な環境の惑星へ飛ばして適応があるかを試したの」
「精神を惑星に飛ばすって……どういう事?」
「カリム様は、宇宙に張り巡らされる宇宙網を辿って、精神を別の惑星に飛ばすことが出来るらしいの。その飛ばされる精神の事は、“思念”って呼ばれているわ。私達管理者にも、原理がよく分からない程の特別な力ね」
俺は質問してみたものの、何かよく分からない。あの老人はとにかく凄い人?で、宇宙レベルで何かしてるようだ。ダリアは、SFアニメに影響受け過ぎなんじゃないかな?余りに現実離れした話に……俺も彼女の言ってる事がまだ信用出来ないでいる。
「そんで……俺達の適応力を試して、どうしたいんだ?」
「私達の仲間になって欲しいの。だから、私はあなた達を推薦した。多くの場合、才能のある芸術家から管理者は選ばれるわ。魔法を使うとき、イメージを具現化する力が必要なの。芸術家はその訓練を、自分の作品を作る事で自然と行ってるのよ」
「仲間?つまり俺達に、何だ……その管理者って奴になれって事か?」
「ええ、本当はあなた達を巻き込みたくなかったけどね。魂体の質が高くないと、魔法は使えない。あなた達は魂体の質が高いのよ。……特にコウ、あなたはずば抜けてる。とても貴重な賢者の候補者よ。だから、存在を無視するわけにはいかなかったの」
エヴァンは質問したものの、困惑の表情を見せている。俺も言葉を失って、ソファーの背凭れに体を預けた。彼女の話だと、俺は何か貴重な存在らしい。マナスとか、魔法とか……何かよくわからない世界だ。
ダリアは俺達が戸惑って黙り込んだ様子を見て、一度頭を抱えた。けれど、気を取り直すようにコーヒーに再び口をつけた後、話を続けていく。
「とりあえず、説明を続けるわよ。……火、土、水、風の四大元素の試練があって、それを乗り切った者だけが管理者になれるの。賢者については、他にも条件があるけど私もよく知らないわ」
「じゃあ俺が見た夢は、火と土の試練ってことか?……それに落ちたら管理者って奴にならなくても済むのか?」
「そうね。その場合は、試練についての完全に記憶を消すわ。胸の紋章も綺麗に無くなる。まぁ、元々資質があると思われる人を選んでるから、殆ど受かるけどね」
「……なんか、内容が凄過ぎてよく分かんないな。ほんとに映画とかアニメの世界だよね。まぁ……でも、この痣は現実に確かにあるからなぁ。あ、そうだ……他の人には夢の事を話せないのも、何か理由があるの?」
「ええ。実はあなた達には、“沈黙の契約”っていう魔法がかけられてるのよ。カリム様が試練前にね。その魔法の契約がある者同士でしか話は出来ないし、契約内容に抵触する場合は行動が制限されるわ」
エヴァンと俺は戸惑いながらも、彼女の話を受け入れながら質問していく。彼女が言ってる事は突拍子も無いが、俺達の体験を考えれば納得は出来なくもない。でも非現実的な話が続いて、頭が混乱してしまう。
「ちょっと情報量多すぎて、何だか頭がパンクしそうだ。とりあえず、俺とコウにはその管理者や賢者の才能があって、お前が推薦したってことだな。そんで、そのボスがカリム様って奴か……何者なんだ?」
「そうね。カリム様の素性はよく分からないけど、途轍もなく長い時を生きていて、賢者達を束ねている存在よ。元々は別の銀河の星で産まれた生命体って話を聞いたことがあるわ。でも容姿は、私達地球人とそっくりよ。私達、管理者が使える魔法も、元はカリム様が産まれた星の住人の能力だったっていう説もあるわ」
「ふぅ……ま、色々突っ込みたいんだが。魔法って、さっきから普通に言ってるけどよ。流石にそりゃ、アニメの世界に没入し過ぎじゃないか?魔法なんて、空想の世界の話だろ」
「そうよね〜。まぁ、話だけじゃ信用してくれないか。仕方ないわね。これで、少しは信用してくれるかしら?……ヒュドロ」
エヴァンはダリアの言葉に苦笑いした。すると彼女は、溜息をついた後に真顔になった。そして左手を自分の顔の高さまで挙げる。そして何かを唱えると、彼女の掌が緑色に輝き出した。
するとその掌の上に、何処からともなく水が湧き出てきた。それは、次第に球状の水の塊に変化した。彼女は見せつけるように、俺達の眼前に左手を差し出す。ダリアの掌の上で水の塊は渦を巻いていく。水飛沫が飛び散り、テーブルやカーペットの表面に小さな水滴が染みを作る。
「は?……え……??」
「ちょ……な、なんだ?」
俺は顔に飛んできた水の雫を拭って、本物の水かどうか指の感触を確かめる。やっぱり……これ、本物の水だ。目の前の光景に頭の回転が追いついていない。隣でエヴァンは、固まったまま目を見開いている。俺も訳が分からず、言葉にならない。
「これは水の魔法。形状を変えたり攻撃する事も出来る。まだ信用できないなら、壁に穴でも開けてみようかしら?」
ダリアは笑顔でそう言うと立ち上がり、左手の水の球を槍状に変化させて両手で構えた。その先端は鋭く、触れるだけで壁に穴が開きそうな程尖っている。その回転数は更に増えていき、それと伴って水飛沫が勢いを増して飛び散っていく。
「おい……ちょっと、ま、待てよ」
エヴァンは驚愕しながらも、ダリアを制止しようと立ち上がる。すると、槍先を俺達の方へ向けてきた。エヴァンは咄嗟に後退りする。俺は目の前の水の槍の迫力に圧倒されて、動けない。こんな事漫画の世界みたいだ。あり得ない、この光景こそ夢なんじゃないだろうか。俺は右手で頬をつねった。……ちゃんと痛い。
「あなた達には信用してもらわないといけないの。私にも色々理由があるのよ」
ダリアは殺気立った瞳で睨みつける。俺達を串刺しにする意思を持つかの如く、その槍先は更に回転力を高めていく。
え、急に何?ダリア、超怖いんですけど。
読んでいただいて、ありがとうございます。
是非続きもご覧くださいませ。
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