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another story クリスマスソング

本編が始まる前のお話です。まだデビュー前のコウのストーリーをお楽しみください。

 俺は高梨航。


 まだ駆け出しのシンガーソングライターだ。最近、スタジオに籠もっては自作曲の録音を繰り返している。生活費は飲食のアルバイトで何とかやり繰りしてる状態だ。ソロでのライヴ活動も再開したところだし、稼いだお金は音楽の活動資金に消えていく。


 でも、まだ始まったばかりだ。



 昨年、最愛の人・紗絵を亡くした。彼女と付き合った期間は2年も無かったし、世間的に見ればそんなに長い付き合いではないのかも知れない。


 でも俺にとっては、運命の相手だった。何故だか分からないけど、そう思えてならない。勿論、彼女が魅力的だったのもあるけど、もっと深い部分で繋がっていた気がする。


 元々あった糸を手繰り寄せたような……

 強い運命に吸い寄せられたような……


 そんな感覚が、本当にあったんだ。



 紗絵を亡くしたショックで、一時期は音楽さえ聞く気になれなかった。でも、姉に怒られた事がきっかけで彼女との約束を思い出したんだ。


『世界中の皆に、コウくんの曲聞かせようよ。私との約束ね』


 ……そんな、大それた夢みたいな約束だけど、果たしたいなって思ったんだ。



 2ヶ月程前、紗絵の1回忌に線香を上げに行った。その時、あるネックレスを彼女の家族から渡された。彼女が死んだ後、俺に渡しそびれていたそうだ。


 彼女が死ぬ間際まで、肌身離さず持ってたネックレス。……ターコイズブルーが綺麗に碧く光る。彼女にぴったりの華麗な色。デート中に2人で見つけて、そのままプレゼントしたんだっけ?

 ……それが、遺品になってしまった。受け取った時、彼女の笑顔を思い出して、胸が苦しかった。


 どうしようか悩んだ結果……そのターコイズの石をネックレスから外して、指輪に付けようかと思い付いた。


 結婚する約束したけど、果たせなかったし……。紗絵が身に着けてた宝石をリングに付けて、俺が指にはめたらさ、少しは結婚の約束に近付くかな、なんて。なんか、馬鹿みたいだけどさ。



 そして、奇しくも雨のクリスマス・イブの日に、指輪が完成したっていう連絡が来た。ジュエリーショップに注文してたんだ。

 まぁ、1人で家にいても、彼女がいた時の事ばかり思い出してしまいそうだ。外の空気を吸いたくなって、俺はクリスマス一色の街に出掛けることにした。



 ______街にはクリスマスソングが流れる。


 (みぞれ)混じりの雨が降る都会の路地には、カラフルな傘が咲き乱れるように並ぶ。街頭に立ち並ぶお店の窓を見ると、サンタやトナカイ、ツリーの飾り付けで溢れている。


 やっぱりクリスマスの雰囲気は良い。


 何か幸せな気がする。


 恋人達は、デートにときめく日。

 子供は、プレゼントにワクワクする日。

 親は、その子供の顔を見て楽しくなる日。


 でも、うーん、独り身の俺にとっては……どんな日なんだろうな?



 そんな事考えているうちに、アクセサリーショップに着いた。オーダーメイドやジュエリーリフォームもやっているショップを探して、ここを選んだんだ。


「いらっしゃいませ」

「あの、注文の品出来てるって聞いたんで。これ」

「あ、これですね。いやー、なんか特別な理由あるのかなと思って気合い入れて作りましたよ。ちょっと待っててくださいね」


 店員は注文書を見て、すぐに品物が何か気付いたらしく奥の部屋へ品物を取りに行った。確かに、女性物のネックレスから宝石を取り出して、男物の指輪を作るなんてあまり無いだろう。注文する時も、凄く驚かれた。


「はい。これ、確認して下さい」

「おお! 綺麗。思ったよりも自然ですね」


 ターコイズのブルーは相変わらず華麗で、宝石を囲む土台には美しい模様が彫られている。シルバーに碧が映えて見える。


「でしょ。ターコイズを少しだけ削り直して、シルバーの素材に丁寧に埋め込んだんですよ。外れることは無いと思います。はめてみてどうですか?」

「うん、ちょうどしっくり来ます。ありがとうございます」

「一応、箱も用意してますけど……そのままはめていかれます?」

「あ……そうですね。そうします!」


 俺は指輪を付けたまま空き箱だけ貰うと、店員にお礼を言って店を出た。丁寧な仕上がりに満足だ。



 店の扉を閉めると、サンタやトナカイにコスプレした学生らしき集団が目の前を通り過ぎた。クリスマスパーティーでもするのだろうか?……あ、そう言えば、サンタの帽子とトナカイのカチューシャを買って、紗絵とクリスマスパーティやったんだっけ。あれ、楽しかったなぁ。


 指輪を付けたまま、クリスマスで賑わう街を歩くと、少しだけ紗絵と一緒にいる気分になれた。



 結局、2人でクリスマスを祝えたのはあの一度だけか……。


 雑貨屋で買ったサンタのシールやクリスマスリースを一緒に壁に飾り付けた。ローストチキンにシチュー、そしてショコラケーキ。


 どれも安物ばかりだったけど


 なんて、幸せな空間だったんだろう。




 俺が幸せだった頃の回想に耽っていると、いつの間にか駅の近くまで来ていた。屋根付の駅前広場には、待ち合わせをしている様子の人達が複数立っている。

 ……あれ? 何処かでギターの音が鳴ってる気がする。辺りを見回すと、広場の隅の方でフォークギターを持っている女性の姿を見つけた。


 チューニングに苦戦しているのか、何度も弦を巻いたり、緩めたりしながら、チューナーと睨み合いをしている。音楽をずっとやってるせいで耳は鍛われてるから、なかなか合いそうで合わないその音を聴いていると、もどかしい気持ちになった。


「あの……チューニング上手くいかないんですか?俺、良かったらやりますよ」

「あ……え、ご、ごめんなさい。こんなとこで」


 俺が見ていられなくなって声を掛けると、その女の人は驚いた表情でこちらを見た。多分俺より年上の人だ。社会人かな? 怒られたと勘違いしたみたいだ。


「いや、その……チューニングやりましょうか? 一応、俺ミュージシャンなんで」

「え?あ……ほんとですか!? 助かります。全然合わなくて」

「じゃ……ちょっと借りますね。えっと………ん?ああ、なんか弦がペグの穴に上手く固定されてないですね。ちょっと付け直しましょうか」

「そうなんですか? いきなり弦切れちゃって付け直してみたんですけど、あんまり弦交換したことなくて」


 確かに、不慣れな感じの巻き方をしていた。俺は手早く弦を貼り直す。そして、弦を押すポジションを変えながら音を確認しつつ、チューニングを行った。


「はい。これで合ってる」

「えー凄い! チューナーも使わないでどうやってやったんですか?初めて見た」

「ああ、音が分かるようになれば出来るようになりますよ。あとこうやってハーモニクスを鳴らしたりするやり方もあるし」

「へぇ。もしかして、プロの人ですか?……何か弾き語りとか出来ます?私、下手なんですけど、勢いで弾き語りに来ちゃって。結局自信なくなってギターだけ触ってたら、弦切れちゃった……ってとこだったんです」

「そうなんですか? 俺、弾き語りは出来ますけど……いいんですか? 自分でやらなくて」


 彼女は感動したように声を上げた後、照れ臭そうに話した。俺は彼女の提案を受けて、差し出そうとしたギターを引っ込めると、軽く爪弾いた。


「はい。どうせ下手だし、度胸なくて。何かあなた上手そうだし、私のリクエストに答えてくれませんか?」

「……まぁ、良いですけど」

「じゃ、山下達郎の『クリスマス・イブ』。いけます?」

「ああ、いいですね。大丈夫」

「やった! お願いします」


 彼女は満面の笑みでそう答えた。そして、俺の向かい側に2メートルほど離れて立った。

 山下達郎の『クリスマス・イブ』か……確かに今日聞きたい曲の1つだよね。俺も歌いたい気分になってきた。再度チューニングを確認してコード進行を思い出すように軽く弾いてみる。


「じゃ、いきます」


 そして、フィンガー奏法で前奏を奏で始めた。原曲の前奏は、これから何か始まるようなトキメキを感じさせる。流石にギター1本じゃあの感じは出ないけど、少しでも雰囲気を似せてみる。



 雨のクリスマス・イブ。


 もう君が来ない事を理解して、独りで君へと想いを馳せる。


 夜更け過ぎには、多分雪に変わる。


 その光景を思い浮かべながら、孤独な聖夜を過ごす。


 ……そんな寂しい歌だったりする。でも心に寄り添うような温かいメロディだ。毎年何処かで聞くけど、1人でじっくり聞くとまた良かったりする。皆に愛される名曲。


 去年、哀しみを抱えたまま迎えたイブの日は、クリスマスソングなんて聞く気にもなれなかった。2人でクリスマスの準備をしたあの日の事がちらつく度、心が抉られる気がした。


 今年は、彼女とのクリスマスを思い返すと懐かしさで胸が温かくなる。もう振り返っても、心が抉られる事はない。


 

 俺は、紗絵(きみ)の想いを背負って前に歩いてく。


 そう決めたから。



 俺は1人になった悲しみと、紗絵との思い出が生む胸の温もりを、心に同居させて、歌声に気持ちを込めていく。



 悲しいけど、温かい。

 苦しいけど、嬉しい。


 紗絵(きみ)と過ごした時間は、確かに存在してた。

 その想いだけは、色褪せない。





 パチパチパチパチ……


 歌い終わると、十数人の人が足を止めて聞いてくれていた。温かい拍手に場が包まれる。歌をリクエストした彼女は、泣いてた。


「凄い、感動しました!」

「あ、ありがとうございます」

「素敵な歌声してるじゃないですか! 沢山の人が足を止めて聞いてましたよ。それに……ほら、見てください。曲中、雨が雪に変わりました! 奇跡みたいです」

「……あ、ほんとだ」


 街の通りを眺めると、白銀の雪華が夜空に舞散る姿を見せていた。ライトに照らされた粉雪が、地面にゆっくりと降りていく。


 さっきまで(みぞれ)混じりの雨だったはずなのに。歌詞通りに雨が雪に変わるなんて、変な偶然だけど、まんざらでもない気がした。こんな奇跡なら最高だ。


 あ、でも夜更けと言うにはまだ早いかな?


 人々が溢れる街はまだ色付いてる。


 クリスマス・イブの街には、きっと色んな想いが交錯している。



「私、コウさんの歌で救われました。ありがとうございます!」


 演奏後、彼女と少し立ち話をした。何か仕事も恋もうまくいかなくて、むしゃくしゃしてたらしい。でも、俺の歌を聞いてスッキリしたそうだ。彼女は最後にお礼を言うと、ギターケースを抱えて人混みに消えていった。


「俺の歌で救われた……か。ふふ、歌った価値があったかな」


 俺は顔を綻ばせて、ターコイズがはめられた指輪をなぞる。なんか、紗絵も一緒に喜んでくれてる気がした。



 雪は降り積もっていく。


 きっと、明日のクリスマスの朝は、真っ白の雪で覆われる。


 その純白の景色は、きっと色んな人の心を癒やすだろう。



「メリークリスマス」


 俺は雪の降る街が、愛おしくなった。

読んでいただいて、ありがとうございます。

是非続きもご覧くださいませ。


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