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another story 追う者、待つ者

「何だ? あいつら……人間の動きじゃない」


 小銃を抱えた傭兵の男が、人とは思えない動きをする謎の2人に追われていた。数メートルは簡単に跳躍し、目にも止まらぬ速度で走る。銃を持った相手に、正面から銃弾を掻い潜り、刀や旋棍(トンファー)のみで制圧していく。


 12人いたはずの傭兵達も、自分1人になってしまった。他の人間は既に数人は息絶え、あとは捕獲されている。


 それは、あっと言う間の出来事だった。


 依頼された仕事が終わり拠点に戻った日の夜、彼らは襲撃を受けた。窓硝子が割れたかと思うと、赤い霧のようなものを纏った2つの影が、部屋に突入してきた。数秒で4人倒され、すぐに反応して銃を手に取った3人も、一瞬で刀で斬り伏せられた。


 死線を何度も潜り抜けてきた、経験豊富な傭兵達が、銃も持たないたった2人の人間に、あっという間に倒されていく。連射された弾丸は、目標を掠めることなく飛び、虚しく銃声だけが響いた。

 2人の後続に、目出し帽をした人間が数名突入してきた。そして、生き残った傭兵達は拘束されていった。


「何だ?……くそっ、やはり今回の依頼には裏があったのか」


 ウラル山脈の深い森の中の、警護が甘い自然保護施設を襲撃し、爆破するだけの……彼にとってはチョロイ仕事だったはずだった。

 自然保護施設を爆破までするなんて、怪しい依頼だとは思ったが、彼は依頼金の額が良かったため飛びついてしまった。


 彼は街の裏の林へと逃げ込んだが、暗い闇は全く意味をなさなかった。あっという間に追い込まれた。藪だらけの林を走り回された男は、呼吸が苦しくなり、足元も疲れでふらつき始める。彼は立ち止まって木に寄り掛かった。


「はぁ……はぁ、くそっ、限界だ」

「シーハン、そこにいるぞ!」

「な……、がはっ!」


 男は右後方からの声に反応して、振り向いた。その瞬間、頭に衝撃を感じ、そのまま意識を失った。彼は死角から後頭部に旋棍(トンファー)の一撃を受けたのだ。



「これで全員だな……。もうモスクワ支部の奴らが、生存者は拘束してくれてたよな」

「5名は死亡、2名は虫の息か……。生きて捕らえられたのは5名。お前は、斬り過ぎだぞ」


 日本刀を持つ男が、布切れで血の付いた刀身を拭いながら呟くと、旋棍(トンファー)を腕に装備した女が嗜める口調で話した。


「おいおい、あんだけ銃ぶっ放されたら手加減難しいだろ」

「お前は腕は良いけど、仕事が荒いな」

「……ちっ、そりゃあ悪かったな」


 ()()()()に所属する2人は、組織のロシア支部が幽閉していた少年が行方不明になる事件を受け、アメリカからロシアへと向かった。


 日本刀を操るのは、長身短髪で切れ長の目をした日本人・アラシだ。もう一人の女は、中国系アメリカ人のシーハンだ。長い黒髪を1つ結びにしており、筋肉質でスレンダーな見た目をしている。



 彼らは、組織を裏切ったシャゴムットを追っていた所、ロシアに渡った痕跡を発見した。そこで組織は、アラシとシーハンをロシアに派遣した。そしてそのタイミングで今回の爆破事件が起きた。幽閉していたはずの少年の死体は見つからず、行方不明だ。

 組織は、少年の存在を知るシャゴムットが関係していると考えている。


「あいつら、何か吐けばいいけどな」

「何か知っている可能性は低いだろう。……だが、契約書やメールのやり取りは残っている筈だ」

「にしても、爆破までするとはな。痕跡を辿るには骨が折れるぜ」

「……恐らく時間稼ぎだろう」


 アラシが面倒臭そうに頭を掻くと、シーハンは淡々とした口調で呟いた。爆破された建物が崩れ落ちたせいで、瓦礫の山を取り除きながら痕跡を探す作業は難航している。


「シャゴムットの野郎が、少年を拐ったのは間違いないだろうな。でも時間を稼いでどうすんだ?」

「封印を解く為かもな……。だが、奴の能力では無理なはずだ」

「けど……なんか、あいつは裏がありそうな奴だったよな」

「どの道、早く捕らえないとな。金色の輝きを持つ者を狙う可能性もある」


 シャゴムットは、組織の管理者(ディアス)という役割を担っていた。しかし数ヶ月前に忽然と姿を消した。その後、組織は彼を追い続けているが、まだ潜伏場所を特定できずにいる。


 そして先日、“金色の輝きを持つ者が現れた”という噂が組織の中で広がっている。組織にとっては、長年待ち続けていた貴重な存在だ。その価値を、シャゴムットも理解している。


「忙しくなってきやがったな」


 アラシは、夜空に浮かぶ星屑を眺める。その先には、黒い靄を振り撒きながら地球に近付いてくる()()()()がいる。彼はそれを想像し、星の煌めきの奥に続く闇を睨み付けた。







 ______その宇宙の遥か先に……カルディア大陸が存在している。天の川銀河を抜けた先にあるその惑星は、地球と深い関係がある。


 その大陸に存在する古びた神殿に、賢者(ソフォス)ヘイラーと、魔導師ノアの姿があった。神殿の天井を突き抜け、天空まで伸びる巨樹が彼らの前に聳え立つ。その前の祭壇に並んで、2人は会話している。


「ゴブリンが集団で出現してからは、特に何も起こってないのかい?」

「ええ、表立っては何もないですね。……ですが、ヴァーサノ山脈の魔人達が何か企んでそうですよ。まだ具体的に行動は起こしていませんけどね」


 その赤い髪を掻き上げながらヘイラーが質問すると、ノアは彼女の方を見て答えた。彼は、隙間風にクリーム色の髪を靡かせている。


 ダムス台地の窪地で、ゴブリンが大量発生した事件からは、もうすぐ2年が経つ。ヘイラーは宇宙空間からカルディア大陸に降り立ち、ノアと近況の情報交換をしに来たのだ。



「あんたの予知では、これから動乱が起こるはずなんだろ? 相手はその魔人達なのかい?」

「恐らくは。……私の能力は断片的に未来を見ているに過ぎません。詳細な過程までは、よく分からないのが正直なところです」

「ああ、そうだったね。未来の予知はあくまで、予知だものね」

「そうです。何かの強い作用で、運命が変化する事もありますよ。未来まで轢いたシナリオ通りに事を進めるのが、私の役割です。ずれてしまったら、その都度軌道修正していく他ないでしょう」


 魔道士ノアの能力は、“未来の運命を視る力”だ。彼はこれから起こる未来を予測して、カリムや賢者(ソフォス)と共に()()()()()()()を立てているのだ。



「地球でも動きがあったわ。あんたの読み通り、“金色の輝きを持つ者”が見つかったみたいよ」

「そうですか? 安心しましたよ。それじゃあ、そろそろロックス君に会いに行かないと」

「ん? そいつ、誰だったっけ?」

「ほら……ゲイルの息子ですよ。例の騎士団長の」

「あ~、そうだったね。まだ小さかったんじゃないの?」


 アーガイル地区騎士団長のゲイルには、息子が2人いる。その長男のロックスは、もうすぐ5歳になる。ノアの未来のビジョンでは、その子も重要な役割を持つとされている。



「そうですね。でも覚醒すると、彼にしかない能力が目覚めますよ。賢者(ソフォス)並の資質は持ってますから」

「へー、そりゃ楽しみね。でもまだゲイルには私達の存在は明かしてないんだろ?」

「そうですね。そろそろ明かしても良い頃合ですが、タイミングはセイントに任せています。まぁ、当面はこっそりロックス君に会いに行く事にしますよ」

「まぁ、大方はあんたに任しとくさ。私はイラ星雲の事件の対処でまだ時間がかかりそうなんだ」


 賢者(ソフォス)であるヘイラーは、カルディア大陸が存在する惑星を含む銀河を担当している。同じ銀河内のイラ星雲で、重大な事件が起こった。その星々の隙間に“悪しき意思の吹き溜まり”が出来たのだ。


 イラ星雲の中にある惑星がある。人間程の知能はないが、そこにも知的生命体が存在している。その生命体は好戦的で、その星では争いが耐えない。その影響で、悪しき意思が宇宙空間へ放出され続ける事態となっている。


「あれも……エラドと何か関わりがあるのでしょうか?」

「さぁ? でも吹き溜まりができるなんて、普通じゃ起こり得ない事よ。エラドの欠片はまだ発見されてないけど……何かあるわよね」

「放置するとまずいですね」

「ええ、早く原因特定しなきゃね。じゃ、そういう事で……もう戻るから」

「ええ、こちらはお任せください」


 ノアが頷くと、ヘイラーは微笑んだ。そして、彼女の分身体は薄っすらと光の粒へ変化していき消え去った。賢者(ソフォス)は、その能力で、分身体を本体とは別の場所へと遣わす事が可能なのだ。



 ノアは彼女を見送ると、神殿の出口へと歩き出した。外に出ると旭日の光が照っている。彼はそれを見て目を細めた。そして碧空を仰ぎ、遥か彼方の地球へと思いを馳せる。


「地球の管理者(ディアス)達も上手くやってくれればいいな。……コウ、待ってるよ」

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