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地球編5 謎の少年①

☆アリサ視点の話です。

「よし、開くぞ。警戒はしておけ」

「さて、何が出て来るのかしら」


 私達は、残る最後の扉の前に立った。重厚な金属製の扉は、まるで宇宙船の扉のような近未来的なデザインをしている。ハッカーによって電子錠のコードは解析され、既に解錠されている状態のはずだわ。


 扉には、中央に掌程度の大きさに縁取られた四角い枠がある。その枠をなぞるように、蛍光色の緑が発光している。ケヴィンは右手をその枠の中央に翳す。すると、扉は静かに開いていった。


 その瞬間……慌てて動いたような足音が、部屋の中から聞こえた。


「少し物音がしたな。慎重に進め」

「隠れて抵抗するつもりかしら? 無駄な事はやめた方がいいわよ!」


 扉の奥には、普通の1(ルーム)のような部屋があった。私の部屋とそう変わらない殺風景な部屋だわ。キッチン、テーブル、棚に冷蔵庫……部屋を仕切るカーテンの奥にベッドらしきものがある。勿論、地下5階の部屋に窓はない。天井からはダウンライトが1つぶら下がっている。


「おい、その棚に隠れてるな。大人しく出てきたら、危害は加えない」

「……く……う、撃つなよ。な、何だ、お前達は」


 左にある食器棚から、白い衣服の裾がはみ出ている。ケヴィンが銃身を構え近付くと、年齢が50代程の太った男が出てきた。面食らった様子で狼狽している。髭を蓄えており、目の下の皺が濃い。素っ裸の上に白いガウンを羽織っている。油汗で肌がテカっていて、その身体にはだらしない脂肪が垂れ下がる。

 まったく、少年以外の人間が居るなんて情報と違うじゃない。


「お前こそ何者だ?……少年はどこにいる? この部屋にいるはずだろ」

「………俺は、ここの施設責任者だ。…………ちっ……くそっ、ガキはそのベッドで寝てるよ」

「お前は拘束する。おい! 膝を曲げて、手を挙げろ!……アリサ、奥のベッドを確認しろ」

「分かったわ」


 責任者と名乗る男は、苦虫を噛み潰したような表情になった。ケヴィンは、その男の頭に銃口を突きつけて跪かせる。そして、そいつの両手を背中に回すと、結束バンド状のフレックスカフで縛った。私は奥へと歩みを進め、慎重に銃身でカーテンを開き、ベッドを覗いた。



 そこには、仰向けになった少年が寝転んでいた。黒髪で女性的な整った顔、スタイルの良いほっそりした身体をしている。彼は素っ裸のまま、無表情で天井の一点だけ見つめている。私達の存在を無視するかのように、宙を凝視している。


 その子の手足には拘束具が付けられ、痣が体中にあった。ムチで打たれたような跡もあり、赤く腫れ上がっている。

 そして、彼のお腹には粘り気がありそうな白濁液が、べたりと付いていた。


 ……ああ、そういう事ね。



 この自称責任者の男が汗臭かったのは、お楽しみ中だった訳ね。少年の様子を見る限り、この醜い豚(おとこ)の性玩具として扱われてきたのでしょうね。傭兵として派遣された戦場でも、民間人の少年が兵士にレイプされる姿が目撃された事がある。


 全く、虫唾が走る。


 私は考える間もなく、体が反応した。胸からハンドガンを取り出し、振り返る。そして太った男に飛び掛かると、感情に任せたまま、そいつの頭を銃床で殴りつけた。


「この獣が!!」

「……ひぃ……ま、待ってくれ!!」

「止めろ! アリサ!!」


 私はケヴィンの制止を振り解き、素早く男の額目掛け、2発鉛を撃ち込んだ。男の頭が跳ね飛ばされたように背中側に倒れる。男の瞳から生気は消え、赤い血液が床に伸びた。


「おい! 何してる!! 何故殺した!!」

「……ふん……こんな奴」

「ったく……………ん? あぁ、成程な。感情的になるのも分かるが……。まぁいい、その男はどの道計画外だ。お前は頭冷やしてろ。少年は俺が保護する」


 ケヴィンは私を突き飛ばし、怒鳴りつけた。しかし私が急に激昂したのを不思議に感じたのか、すぐに少年の状態を確認しに行った。すると、彼は状況を悟った様子で私の方を向き、声を掛けてきた。



 ______私にも、似た経験があった。


 14歳の頃、レイプされた事がある。


 通りすがりの男3人に、車に連れ込まれた。学校の帰りだったわ。そして、何処かも分からない廃墟で輪姦された。服は無理矢理引き裂かれ、強い力で抑えつけられた。


 痛くて、怖くて、堪らなかった。


 抵抗しようにも、当時の細腕じゃどうしようもなかった。最初泣き喚いて騒いだけど、途中からもう心が折れたわ。まだSEXもした事もなかった、無垢で純粋な少女の心は引き裂かれていった。


 全てが終わったあと、私のお気に入りだったワンピースは土埃に塗れていた。股の間から血が流れ、胸や太腿には痣を残した。


 その男達は上機嫌で笑い合いながら、私を残して消えた。その後は、どうやって保護されたかも覚えてもいない。



 私の胸に残ったのは、空虚。


 そして時間が経つにつれ、沸々と湧いてきた怒り。


 ……許せない、絶対に。


 深い心の傷を誤魔化すように、私は体を鍛え出した。男の腕力に勝てる術を学んだ。いつか、あの男達を見つけ出して殺してやる……その一心だったわ。


 結局、あの男達は見つけ出せないまま傭兵になった。傭兵になってからも、男達に色眼鏡で見られたし、性的な対象として迫られた事もある。そんな男達を捻じ伏せて、認めさせてきた。強くなりたいという気持ちだけで、ここまで来たのよ。


 この少年は、屈辱を味わい続けてきたはずよ。虚ろな表情を浮かべて、瞳には何の感情も感じなかった。その瞳を見たら、“代わりに鉄槌を下してやる!”という使命感が、私の心に湧いた。……そして、我を取り戻したときには死体が転がっていた。


 感情に支配されるなんて……傭兵としては、失格だわ。


「よし。無線で現在の状況は、報告しておいた。この施設は数分後に爆撃する予定のようだ。衝撃はあるだろう。少年の(そば)にいろ」

「……分かったわ……」

「……まぁ、深くは聞かん。どの道、その施設長の男は始末する予定だったようだ。あとは脱出することだけを考えろ。ここは、外の音が全く聞こえない造りのようだな。爆破の合図があるまで、俺は表を見張る」


 ケヴィンは、銀色の水筒を取り出すと2口ほど水を飲んだ。そして私に少年の近くに行くように促すと、部屋の外へ出ていった。少年は毛布に包まれて床に座り込んでいる。その隣りに並ぶように私は座った。



 その子は俯いたままじっと静かにしている。ただ見張ってればいいんでしょうけど……何か、ケアした方がいいのかしら?


「……ねぇ、あんた大丈夫なの?」


 私は少年に話しかけてみた。さっきと変わらず無表情。やっぱり強烈なストレスを感じ続けたんでしょうね。精神疾患を抱えている様子だわ。その瞳は焦点が合ってない様子で、どことなくぼんやり眺めている。


 私は構わず話しかける。


「あんた何者なの? こんな山奥に閉じ込められて。……何やらかしたのよ?」

「…………………」

「ま……答えるわけないか」

「……、……………」

「ん?あんた何か言いたいの??」


 私は返答の期待はしてなかった。けれど、少年は死にかけの魚のように、生気のない表情で口をゆっくり動かした。私は反応があった事に驚きつつも、彼の口元に耳を近づける。


「……エ、………ラド」


 振り絞るように掠れた声で、少年は訴えるように顔を向けた。私は驚愕したわ。その言葉の意味は分からなかった。だけど言葉を発した瞬間、彼の瞳に意志が宿ったのを見たのよ……。




◇ ◇ ◇ ◇ ◇



 少年を捕獲する任務を終えた私達は、ロシアの宇宙開発を行う国営会社・ロスコスモスの重役であるザハールから連絡を受けた。彼は私の叔父でもあるわ。


 私とケヴィンは捕獲した少年と共に、ベレズニキ市郊外の建物に待機するように指示を受けた。2階建ての部屋の内部は特別に改装されており、玄関からリビングに繋がる一本道には2つの強化扉がある。監視カメラも数台あり、簡単には侵入できない造りになっている。


 窓が一切無いリビングには、1つだけ部屋が接している。その部屋は防音壁で作られてて、リビングに接している壁の一面は、強化ガラスで透明になっている。よく刑事ドラマで見る、容疑者の面通しをする部屋みたいな造りね。


 少年はその部屋に収監してある。入口の分厚い鉛扉には大型の鍵を掛けている。そして、私達はリビングから彼の様子を監視を続けている。ここに着いてからは、少年は大人しくベッドで眠ったままでいるわ。



 私とケヴィンは建物に入った後、交代で3時間ずつ休憩を取った。ちょうど2人共休憩を取り終えた頃、ザハール(叔父)は到着した。彼は、恰幅のいい体に付いた雨滴を払いながら、リビングへ入ってきた。そして、その立派な顎髭を掻きむしりながら私達に笑顔を向けた。


「アリサ、ご苦労だったな。彼が例の少年か?」

「ええ、そうよ。ほんと、気軽に受けるんじゃなかったわ。施設を爆破させた後も、大変だったのよ。その少年を抱えながら、瓦礫と埃だらけの狭い空間から這い出したんだから」

「すまんな、苦労をかけた。素性がわからない人間より、お前達の方が信頼できたからな。ケヴィンは、英語もロシア語も喋れるしな」

「ま……昔ロシアに住んでたとき、あんたには世話になったからな。にしても、今回は胡散臭い依頼だったな。一体何だったんだ?」


 ザハール(叔父)はコートを脱ぎながら、私達に労いの言葉をかけた。私が文句を言うと、彼は苦笑いを浮かべながらケヴィンの方を見て頷いた。彼等は十年前から付き合いがあるらしい。最初に会った時、ケヴィンは数年間ロシアに住んでいたと、言っていた。何故かまでは知らないわ。



「まぁ、今回は色々と訳有りなのだ。これから話す事は、絶対に他言するなよ。今回の依頼について少し話そう」

「……ま、いい話じゃなさそうだな」

「長い話になりそうね。私はコーヒーでも淹れるわ」


 ザハール(叔父)は急に険しい顔つきになって、ソファーに腰掛けた。そして私とケヴィンに、テーブルを挟んだ対面に座るように、右手で差して促した。ケヴィンは促された通り、ソファに足を組んで腰掛けた。私はステンレス製のケトルに水を汲むと、コンロに置いて火にかける。



「お前達は、今宇宙空間で黒い靄が観測され、急拡大している話を聞いたことがあるか?」

「さぁ、知らんな」

「そうか。私等、宇宙関連の仕事についてる者の中で、噂は広まっている。実際、観測データも各国持っているはずだ。私もその写真を持っている。僅かだが、インターネット上でも情報が出回っているらしい」

「……それが、今回の依頼と何の関係があるんだ?」


 ケヴィンは、不思議そうに首を傾げる。私はインスタントコーヒーの粉を、3人分マグカップに入れながら聞き耳を立てている。今回の依頼と宇宙の話なんて、結びつきそうにもないわ。



「うむ。世界各国で観測されているにも関わらず、各国の政治家が圧力をかけて、その事実を揉み消そうとしている。マスコミも報道しないし、SNSも監視されている。ネットにアップしても直ぐにその情報は消されるようだ。我が社でも、観測データは消去させられた。そして、黒い靄は存在していないという話を、我社の公式見解として発表するように、国から命令が出た」

「何だそれは…………政府は何を隠してるんだ?」

「事実を公表しようとした親友の天文学者は、暗殺された。それ程の内容だ。そして、その少年とも深い関わりがある」

「……酷い話ね。それで、どう関係あるのかしら?」


 私はマグカップにお湯を回し入れながら、会話に加わった。コーヒーの粉が踊るように回転し、湯気が立ち上る。にしても、尋常じゃなく胡散臭い話ね。



「2ヶ月前、私に接触してきた男がいた。親友が殺された直後だ。その男が言うには、あの黒い靄は生命体だという話だ」

「おいおい。そんな話信用できるのか?」


 ケヴィンは馬鹿にしたように鼻で笑う。ザハール(叔父)は何度か軽く頷くと、1つ息を大きく吐き、背凭れに体を預けた。


「ま、私も最初は馬鹿な話だと思ったさ。しかし、あれは暗黒物質(ダークマター)とも違う。細かく解析をかけると、中央部のみに質量と熱源があるようだった。そして、物凄いスピードで地球に接近してきている」

「それって、隕石とかじゃないの?よく聞くじゃない」


 私はコーヒーを淹れたマグカップを、ザハール(叔父)の手元に置きながら彼の顔を見た。


「それだと熱源の周辺の黒い靄の説明がつかない。そして直線的ではなく、たまに意思を持つかのように軌道を変えている。生命体と云うのも、否定できない。いや、寧ろ、説明が付きやすいかもしれん」

「信じがたいな。そんな存在が、地球に向かってるなんて……あとどのくらいで到着するんだ?」

「推定で20〜25年後だろう。しかし軌道や速度も変化しているし、はっきりとは分からん」

「ふーん、まだ先の話だな。んで、その生命体は地球に侵略でもしに来るのか? くくく……映画みたいな話だな」


 ケヴィンはまだ信用してないのか、大して驚いた表情を見せない。彼は、私が差し出したコーヒーを受け取ると、一口飲んだ。まぁ、私も“地球外生命体が地球に近づいてる”なんて急に言われても、何の実感も沸かないわ。


「……その鍵を握るのが、その少年らしい。彼は接近中の生命体と、コンタクトが取れる能力があるかもしれん」

「おいおい、真面目に言ってるのか? そんな、SF映画の見過ぎだろ。あんたが、そんな笑えない冗談を言うとはな!」

「そうよ。あの子は多分心に傷を負ってるし、人に心を開くことさえ難しそうなのに……。宇宙の生命体とは、お話出来るっていうの?」

「信じられんか……まぁ、その接触して来た男も今日呼んである。もう少しで来るだろう。彼に会えば、お前達の常識は覆される」


 ケヴィンと私が軽い口調で嘲笑すると、ザハール(叔父)は真剣な顔つきになり、睨み付けるような瞳で私達を眺めた。……彼は、本気だわ。まぁ、この場で冗談なんて言うわけ無いわよね。



 各々が考え込むように、3人は無口になった。私は振り返って、ガラス越しに眠っている少年を見る。外見は何処にでもいるような、普通の少年のようだ。


 でもそう言えば……彼を保護した時、何か言葉を発したわね。その時、彼の瞳に意思が宿ったのを感じた。あれは言葉で説明が出来ないけど、確実にあの瞬間意思を感じて、私の心が掴まれるかと思った。


「エ……ラド? だったかしら?」

「!?……何故、お前がそれを知っている?」


 私は少年の言葉を思い出し、口に出した。すると、ザハール(叔父)は驚いた顔をして立ち上がり、私の方に体を向けた。


「いや、その少年がなんか言ってたのよ。私は何も知らないわよ……」



 ……その時、インターフォンから乾いた呼出音が鳴った。

読んでいただいて、ありがとうございます。

是非続きもご覧くださいませ。


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