第5部 第12話
翌日、俺はサナと一緒に再び廣野家を訪れた。
俺が刺青を入れるというと、組長は開口一番、こう言いやがった。
「で、サナはどんな模様にするんだ?」
「・・・サナが刺青入れるなんて一言も言ってないだろ?」
「どうせ、サナと一緒なら入れてもいいと思ったんだろ、お前は」
「・・・」
昨日、組長がサナを呼んだのは、ここまで予想してのことか?
いや、まさか・・・
もはやエスパーだぞ。
サナも、組長の隣の母さんも、苦笑している。
サナがヒマワリの模様にしようと思っていると言うと、
さすがに組長も驚いた。
が、すぐに笑い出した。
「いいんじゃないか、ヒマワリ。サナっぽいぞ」
「私も、いいと思うな。サナちゃんにピッタリ!一緒に入れに行こうね」
「はい!」
サナは少し照れたように笑った。
「ユウとサナのはそんなに時間がかからんだろうが、蓮のはかなりかかるぞ。
藤城に言って、早速始めさせよう」
「ちょ、ちょっと待った」
俺はサナと目を合わせて頷いた。
「その前にさ。最後にサナと一緒に海水浴に行ってこようと思って」
「海水浴?もう10月だぞ」
「ああ。だから沖縄に行く」
「・・・沖縄?」
さすがに勘のいい組長だ。
すぐに俺の意図を理解したらしく、微妙な表情をする。
俺とサナも、なんて言われるか予想がつかなかったから緊張した。
藤城さんに、弟さんの住所を教えてもらって、
組長には黙って行くこともできないではない。
でも、もしかしたら組長もその弟さんに何か言いたいことがあるかもしれない。
だからサナと相談して、思い切って正直に話すことにした。
逆に、会うなと言われる可能性もあるけど。
生来、空気を読む、ということができない母さん一人が、
沖縄なんていいわねぇ、なんて呑気に笑ってる。
「いいか?」
「・・・会ってどうする?」
「別に。挨拶してくるだけだよ」
「・・・」
「蓮、会うって誰に会うの?」
ようやく母さんがこの微妙なやり取りに気づいた。
「藤城さんの弟さん」
「?誰って?」
「ユウ。藤城っていうのは、彫り師のことだ」
「彫り師の弟さん、って・・・」
母さんの顔つきが一気に変わった。
な、なんだ?
「私も行く!!」
「はあ?」
「私も、蓮とサナちゃんと一緒に沖縄に行く!いいでしょ!?」
「い、いいけど・・・」
「ユウ、若いもんの旅行に同行するなんて野暮なことはするな」
おお!組長!ナイスプレイ!
だが、母さんは珍しく引き下がらない。
いや、いつもの母さんらしく引き下がらない、の間違いだ。
組長相手だと、どうも母さんらしくない気がするからな。
「統矢さん!私、絶対行きますから!!」
「ダメだ」
「ダメと言われても行きます!」
「どうやって行く気だ?金もないくせに」
「サナちゃん!貸して!」
「・・・貸しません」
「えー!?どうしてよ!?」
「お父さんの許可がないと貸せません」
「おお、サナ。いい子だ」
母さんはプーッと膨れると、
「統矢さんなんて大嫌いです!!!」
と大声で言い放ち、ドカドカと2階へ上がって行ってしまった。
さすがに、俺もサナも焦った。
「い、いいのか?」
「ん?いつものことだ。ほっとけ」
「いつものこと?」
「ユウは俺に対していつもあんな感じだぞ?昔っからな」
母さん、なかなか大物だな。
てゆーか、組長の前では母さんらしくない、って思ってたのは、
俺の勘違いか?
「いかにも仲が良さそうにしておかないと、蓮に悪いと思ったんじゃないか?」
「・・・」
「俺に逆らうのは、ユウの特技の一つだ・・・まあ、他に特技が思いつかないがな」
そんなくだらないところで気を使うなら、
もっと他のところで使ってくれよ。
今回の旅行のこととか。
「藤城の弟は・・・大輔というんだが、大輔はユウにとって大事な奴だったからな。
会いたい気持ちはわかる」
「だったら・・・」
「会いたいなら会いに行けばいいさ。だが今回、お前達に同行させてもいいのか?」
「・・・嫌だ」
「冷たい息子だな」
おい。
「まだ帝王切開の傷も治りきってないし、桃も小さいからな。落ち着いたら行けばいい」
「そうだな」
よかった。
組長の中でまだすげーわだかまりがあったらどうしようと思ったから。
「大輔によろしく言っといてくれ」
「・・・わかった」
こうして俺とサナはバタバタと旅行の手続きをし、
サナの誕生日である10月15日に沖縄へと旅立った。
旅費はサナの誕生日だから俺が出すと言ったけど、
「旅行に行けるだけでじゅうぶん」と言って受け取ってくれなかった。
が。
組長のヤロウが、「誕生日プレゼントだ」と、旅費を渡すと(しかもかなり余分に)、
ありがとうございますと言って、喜んで受け取りやがった。
ちなみに組長はもちろん俺の旅費は出さない。
いいけどさ。なんかムカつくぞ。
そんな話はさておき、俺もサナも初めての沖縄。
気分はすっかり修学旅行だ。
あそことあそこを見て、あれとあれを買って。
そうそう、これとこれは忘れないように鞄に入れとかないと・・・
と、行く前にしっかり計画を立てていたはずなのだが・・・
那覇空港にて。
「あ。水着忘れた」
「蓮ー。何のために沖縄きたのよ!?」
「ホテルで売ってるだろ。着いたら買うよ」
「もったいない!」
なんかサナ、母さんに似てきたな。
3泊4日の滞在だが、とにもかくにも「大輔さん」とやらに会わないことには
気持ちが落ち着かない。
だから、俺達は到着早々、本島から船に乗って、
大輔さんの住む小島へ向かった。




