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18years  作者: 田中タロウ
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第5部 第7話

「サナー。腹へらない?」

「別に」

「今日、サナんち泊まっていい?」

「ダメ。お父さんに蓮の連れ込み禁止されてるもん」

「じゃあ俺んち」

「狭いからヤダ」


おう。天下無敵の4畳半だもんな。


「・・・そんな怒るなよ」

「怒ってないし」

「・・・」


間宮家からの帰り道。

俺は、スタスタと歩くサナに後ろから声をかけるが、この始末。

未だかつてない程、お怒りだ。


コータさんが帰りも車で送ると言ってくれたが、

サナと話がしたかったので断った。


・・・間宮夫妻もちょっと話合った方がよさそうだったし。


「サナー」

「なに」


おお。本当に怒ってる。

・・・仕方ない。


俺はサナの隣に並んだ。


「美優ちゃんさ」

「なによ、『美優ちゃん』なんて馴れ馴れしく呼んじゃって」

「・・・」

「ふん、だ」

「俺達より2学年下なんだな」

「そーね」

「9月28日生まれって言ってたな」

「よく覚えてるわねー」


やれやれ・・・。


「聞けって」

「何をよ?」

「母さんが俺を連れて廣野家を出たは、俺が数えで1歳になる年の12月25日だろ?

その時、まだ組長と愛さんはつきあってたんだ。その日に別れたって言ってたけど」

「だから?」

「そして次の年の9月28日に美優ちゃんが生まれた。俺達の2学年下だからな」

「・・・」

「赤ん坊って、10ヶ月以上母親のお腹の中にいるんだよな?」

「・・・じゃあ・・・」


そう。

似ているのだ。

美優ちゃんと、組長の目元が。

そして俺の目元が。


たくっ・・・何、やってんだよ、組長。


「ねえ、蓮」

「何?」

「今日、うち来ない?」


サナが俺の腕を取り、満面の笑みで言う。

女ってコワイ。


だけど俺は次の日、「女の怖さ」をもっと体験することになるのだった・・・





「間宮家では、校門で待ち伏せするのがはやってるのか?」

「えへへへへ。パパに蓮の大学聞いて来ちゃった」


翌日、講義を終えて校門を出ようとしたところで、美優ちゃんにつかまった。

・・・コータさんにつかまった時の事を思い出す。


それにしても、美優ちゃんの目立つこと目立つこと。

大学で高校の制服姿というだけでも目立つのに、

この美貌だ。

振り返らない奴はいない。


しかも、タイミングが悪い時は悪いもので、

俺の左隣にはサナが。

まあ、昨日結局サナの家に泊まり、

「今日、私講義ないから蓮の大学に見学に行きたい」と言ってついてきただけなのだけど。


でも、サナは昨日とはうって変わって、余裕の態度。


「あら、美優ちゃん。こんにちは」

「あら、オバサン。こんにちは」


こ、堪えろ!堪えるんだ、サナ!!

俺の必死の心の叫びが通じたのか、サナは美優ちゃんの「オバサン」発言をスルーし、

ニコニコと笑顔を保っていた。


偉いぞ、サナ。

後でお菓子を買ってやろう。


そんなサナの態度を不審に思ったのか、

美優ちゃんは胡散臭そうにサナを見る。


「ふーん、私と蓮が異母兄弟と知って、ヨユーって訳?」

「!!!」

「図星みたいね」

「・・・美優ちゃん、知ってたのか」

「舐めないでよ。もっとも、パパもママも、私が知ってるって知らないけど」


怖いな間宮家。

愛さんはもちろん、コータさんだって、美優ちゃんの本当の父親が組長だって知ってるはずだ。

そして組長も気づいているはず。

俺でもすぐわかったんだからな。


だけど、おそらく組長とコータさんは、お互い知っていると知りつつ、知らない振りをしてると思う。

あくまで俺の勘だけど、あの二人ならそうだろう。


そして美優ちゃんも知っている・・・

でもそのことはコータさんも愛さんも知らない・・・

組長は、美優ちゃんが知っていると知ってるのだろうか?

実はコータさんと愛さんに気づかれないように、親子の再会を果たしてたりして。


ややこしい。

てゆーか、マジで怖い世界だな。


何も知らずに無邪気にいるのは、龍太君だけじゃないか。

頑張れ、龍太。



「ふふふ」


俺が一人、頭の中で混乱していると、美優ちゃんが不敵な笑みを浮かべて、

俺の右腕にしがみついた。

そして、ひょいっと頭だけ俺の前に出して、左側のサナを覗き込む。

こういう仕草が凄くかわいく見えるのは、女としてかなり得だろう。


「サナさん。残念だけど、私と蓮が異母兄弟って証拠は何もないわ」

「・・・」

「私、パパの子供として産まれたから、戸籍上は生まれた時から間宮幸太の娘よ。

廣野統矢とは赤の他人」

「・・・」

「だから、私と蓮は戸籍上結婚できるのよ。誰も文句は言えないわ」

「だからって・・・!」

「何か問題でも?」

「あるに決まってるでしょ!!!近親者同士で子供を作ったら・・・」

「子供に影響が出る?そうかもね。でも私、蓮といれるんだったら子供なんていらないわ。だけど・・・」


そう言うと、美優ちゃんは俺の前にきて、俺の首に両手を回す。

身長差があまりないから、俺のすぐ目の前に美優ちゃんの顔が現れ、

俺は思わず目を逸らした。


「試してみる?」


美優ちゃん。

確かに組長の娘だという証拠は何もないが、その口の上手さは間違いなく組長譲りだな。


ああ、もう・・・

今晩はまた、サナのご機嫌取りだ・・・



しかし。

結局その必要はなかった。

ご機嫌を取る間もなく、サナに追い出されたから。

・・・俺、なんか悪いことしたか?


サナの家からの帰り道、

一人トボトボと歩いていると(寂し過ぎるぞ・・・)、

携帯が鳴った。


コータさんからだ。


『蓮。悪いな。うちのリーサルウェポンが出動しただろ?』

「・・・はい。間違いなく」

『蓮の大学教えろ、って首絞められてさー』


あの美優ちゃんのことだ。本気でやったのだろう。


『大丈夫だったか?』

「全然」

『あはは。やっぱりなー』

「コータさん・・・俺と美優ちゃんって、DNA上、結婚できませんよね?」

『お。さすがだな。気づいたか。その分だと美優も知ってるんだな』

「いいんですか?」

『あいつも子供じゃないしな。今更そんなことで家族なんて壊れやしないよ』


コータさん、余裕だな。

でも確かにその通りかもしれない。

家族って血の繋がりよりも大事なことがあるよな。


そういう意味では、組長と俺はやっぱり家族ではない。


「なんか・・・いいですよね。コータさんの家族って。愛さんと喧嘩とかしたことないでしょ?」

『何言ってる。昨日は大変だったんだぞ』

「お互いさまです」

『喧嘩しない夫婦なんていないぞ。いたとしたら、仮面夫婦だな』


それもそうだ。


『5年くらい前だったかなー。くだらないことで愛と大喧嘩してさ。

あいつ、実家に帰らせていただきます!って美優連れて家飛び出して行ったんだ』

「うわー・・・ハードですね」

『うん。でも俺も段々冷静になってきて、仕方なく愛の実家に電話したんだよ。

そしたら、愛のお母さんが、「幸太さんお久しぶりね、愛と美優は元気?」とか言うんだ。

皮肉でもなさそうだったし、「なんだ愛の奴、さすがに実家には帰ってないじゃないか」って

安心したんだ。そしたらさ・・・』

「・・・」

『俺の親父が、泣いてる愛をつれて、いきなり怒鳴り込んできたんだ。

「お前、愛さんに何をした!」ってさ』

「それって・・・」

『愛の奴、「私、幸太と結婚したんだから、私の実家は幸太のお父さんのところです!」って、

俺の実家に帰ってやがった』

「立派じゃないですか」

『だろ?俺もそう思った。でもよく考えたら、俺って養子じゃん?

愛は、結婚しても実家は間宮家のまんまだろ』

「・・・確かに」

『俺がそう言ったら、「そう言えばそうね」ってさ。それで仲直り』

「あははは」

『夫婦なんて、そんなもんだよ』


確かにそうなんだろう。

もうダメだ、と思っても、ちょっとしたことですぐに何事もなかったように、

元に戻れる。


母さんは昔、「もうダメだ」と思って廣野家を出た。

そして18年と言う長い年月を経て、

まるで何事もなかったかのように、組長と結婚した。


二人は離れ離れだったけど、

この18年間、ずっと夫婦だったのかもしれない。


だけど、俺は?

生まれてから今まで一度も自分に父親がいるなんて考えたこともなかった。

いや、いるに決まってるんだけど、それはもはや家族としての父親ではなかった。


今更、「父親です」と言われたところで、

「はい、そうですか」と急に家族にはなれない。


俺は・・・

俺は、これから二人の間でどうしていけばいいんだろう?

生まれてくる二人の子供の兄になれるんだろうか?

かわいいと思えるんだろうか?



「そういえば美優ちゃん。戸籍上は問題ないから俺と結婚できる、って言い張ってましたよ」

『さすが、法律家の娘だな。法律の範囲内なら何でもアリだ』


ヤクザの弁護士らしいセリフだな。


『ま、よろしく頼むよ』

「何をですか!?」


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