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18years  作者: 田中タロウ
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第5部 第4話

そうこうしているうちに、忘年会が始まった。

すごい人数だ。

百人くらいはいるだろう。

これでもまだ全体の一部だというのだから、

廣野組のデカさがよくわかる。


そしてそのトップは、他ならぬあの組長だ。



忘年会のスタートはその組長の挨拶。

こういう時どんな話をするのか、ちょっと興味ある。


「うーん。ま、今年1年おつかれさん。かんぱい」


おい。

大学のコンパの方がよっぽどマシだぞ。

一応結婚したんだし、母さんについての話とかないのか。


その母さんは、というと、普通ならおそらく組長と一緒に上座に座るんだろうが、

「昔からここだから。落ち着くの」と言って、何故か女中さんたちと末席に座っている。


その横には、これまた絶対末席に座るべきではないであろうコータさんが陣取っている。

コータさんはさっきとはうって変わって、いつもの優しげな表情だ。

切り替えが素晴しい。

この普段のコータさんも好きだけど、さっきのキビキビと仕事しているコータさんは、

かっこよかったな。


ちなみにサナも女中さんたちに混じって楽しくおしゃべりをしている。

で、俺は、というと・・・


「お前、本当にあの蓮か?」

「どの蓮かはわかりませんが、蓮です」

「デカくなったなー」

「あの赤ん坊が・・・」

「なつかしいなぁー」


と、周りにヤクザさんがゾロゾロ・・・

ここはヤクザのお屋敷だから当然全員ヤクザなんだが、

こうも群がられるとさすがに引くゾ。


40歳以上くらいになると、全員が俺のことを知っていた。

若い連中はさすがに俺のことを知らないらしいが・・・


「あ。あの時の」

「い、いつぞやは失礼いたしました!組長のご子息とは知らずに!!」


そう、俺のバイト先の居酒屋に来ていた3人だ。


「ご子息なんていいモンじゃありませんけど・・・。

俺の方こそ、ビールかけちゃって、すみませんでした」

「そんな!とんでもない!!」


あの時とは違い、低姿勢もいいところ。

とまあ、こんな風に「組長の息子」と言うだけで俺は一目どころか十目くらい置かれてる。


俺は俺だぞ。

組長とは違うんだぞ。

何も凄くないんだぞ。

空手は強いが、殴り合いの喧嘩なんかしたことないから、

寄ってたかられれば、負ける自信あるぞ。

そんな何目も置いてないで、こっち来い。


すると、若いとは言いかねるが、

40歳くらいの人の良さそうな男が声をかけてきた。


「ほんと、なつかしいな。蓮、俺がユウをこの屋敷に連れてきたんだ」

「え?そうなんですか?」

「お前が産まれたときも、コータと一緒に病院にいたしなぁ」

「ええ!ほんとですか?えーっと・・・」

「ああ、俺は庄治」


そう言ってニヤっと笑う。

ところが他の男が庄治さんの肩を組み、すごいことを教えてくれた。


「ほら、あそこにいる女中さ、コイツの娘なんだよ」


その指がさす方向にいるのは・・・

なんと、あの白雪さん!!!!


「え!?」

「親子で、しかも父親と娘で、ヤクザやってるなんて珍しいよなー」

「うるせー、ほっとけ」

「似てませんね」

「おお、蓮。さすが組長とユウの息子だな。遠慮って言葉、知らんのか」


いやー・・・だってマジで似てない。

白雪さんは母親似か。

よかった、よかった。


そんな俺の視線に気づいたのか、白雪さんがこっちへやってきた。


「お邪魔してよろしいですか?」

「どうぞ」

「組長の息子さんとは知らず、先ほどは失礼しました」


組長の息子さんとは知らず?こんだけ似てるのに?

この人、ちょっと抜けてるな・・・

父親の庄治さんもさすがに呆れている。


「白雪。今日は組長の息子が来るってあらかじめ聞いてただろ?こいつの顔みりゃわかるだろ?」

「うん・・・。言われれば、似てるかなぁ?」


おお。立派な天然さんですな。

そう言うと、白雪さんは急に頬を赤らめた。

最初は自分の粗相に(?)照れているだけかと思ったが、

そうではないようだ。


・・・なんか、視線が熱っぽいんですが?


「なんだ、白雪。蓮に惚れたか?」

「お、お父さん!!何バカなこと言ってるのよ!そんなことある訳ないでしょ!」


白雪さんは本気で怒ってる。


「・・・白雪。いくらなんでも自分の気持ちくらい自分で気づけ」

「だからそんなんじゃ・・・」


そう言ってますます赤くなるばかり。

かわいいことには変わりないが、

ここまで天然だと笑えてくる。



それからはみんなピッチが上がり、どんどん酔っ払っていった。

さすがに俺もついていけなくなり、自然、白雪さんと二人でマッタリ飲むことになった。


「いくら父親がここにいるって言っても、白雪さんみたいな人がよく廣野組に入りましたね」

「私の母親が結婚前にここで女中をしてたそうなんです」

「お母さんが?」

「はい。それでどんな世界なんだろう、って興味を持ったんです。

高校を卒業した後、思い切って入ったんですけど、

組長がとても素敵な方だったんで、頑張ってお仕えしようと思って」


そう言って、また顔を赤らめる。

どうやらこの白雪さんは組長のことが好きなようだ。

恋愛感情かどうかは別として。


だから組長とそっくりで、しかも歳も自分と近い俺に興味を持ったのだろう。


もっとも、組長と俺が似ていることも、自分が俺に興味あることも、

自分じゃ全く気づいてないようだけど・・・。



それにしても、あの組長、「素敵な方」からは程遠いと思うが。

天然の白雪さんが言うことだから、あまりアテにはならないかな。



組長の方へ視線を移す。

組長の周りにもたくさんの人が群がり、なにやら談笑している。

そんな人望があるのか?あの組長に?

でもコータさんも随分と組長に心酔しているようだし、

俺にはわからない魅力のようなものがあるのかもしれない・・・



今度は、チラッとサナの方を見る。

俺が白雪さんとずっと話しているから、

もしかしたらサナレーダーが反応しているかと思ったのだ。

しかも白雪さんの視線は相変わらず熱っぽいし。


偶然、サナも俺の方を見た。

別に妬いている様子もなく、少し俺に向かって微笑むと、

また女中さんたちとの会話に戻った。


よかった・・・

サナレーダーには引っ掛からなかったらしい。

よくわからんぞ、サナレーダー。


とにかく俺は、小さく胸をなでおろした。


その時、サナの近くに座っていた母さんが俺に、手で廊下に出るように合図した。

なんだろう。


「白雪さん、ごめん。俺、少し外します」

「あ。はい。ご遠慮なく」


と、ちょっと残念そうに言う。

おい、サナ。この素直な可愛らしさを少し分けてもらえ。



さすがに冷える廊下で肘をさすりながら待っていると、

母さんがそっと出てきた。


「何?」

「うん、ちょっと話があってね」

「話?」

「実は・・・」

「?」

「できたの」

「何が?」

「・・・赤ちゃん」


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