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18years  作者: 田中タロウ
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第5部 第3話

「蓮、何時に行く?」

「何が?」

「28日の忘年会」

「何の?」

「廣野組に決まってるでしょ。誘われてないの?」


誘われてません。


「お父さんが、ぜひいらっしゃいって」

「そうですか、いってらっしゃい」

「もうー。蓮も一緒に決まってるでしょ!?」

「いやだ」

「何、子供みたいなこと言ってるのよ。7時からって言ってたから、6時半にうちにきてね。

一緒に行こうね」

「いやだ」

「じゃあ、もううちに入れてやんない。元々、お父さんに『蓮は連れ込んじゃダメだ』って

言われてるし」


それは困る。

サナのマンションは本当に居心地がいい。

大学からも近いし申し分ない。


ただ・・・

あのヤロウ・・・


家具も全て一流品で揃えられているこのマンション。

それなのに、ベッドだけシングルサイズだ。

いや、サナ一人ならじゅうぶんだけど・・・


組長め。

本気で俺の出入りを禁止したいらしい。




こうして12月28日、

俺は招待されてもないのに廣野組の忘年会とやらに行くことになった。


「うわ、すげーこのテレビ!でけー!」

「見て!このリモコン!!どうしてチャンネル以外にこんなにボタンがあるの?」

「こっちの日本刀もすげー・・・本物?」

「うわ。鞘から出したらダメかなあ・・・」

「これなんだ?この壁についてるボタン」

「押してみたら?」

「大丈夫かな、なんか発射したりしないかな」

「じゃあ、私が押しちゃう。えい!」

「・・・うわ!なんか天井から出てきた!」

「ああ!これ!スクリーンじゃない!?映画とか見れるんじゃない!?」

「すげー!!!」


貧乏人をこんなところに入れるもんじゃない。

気分はすっかり遊園地だ。


・・・ここは廣野家の大広間。

初めて来たときに組長と会った場所だ。

あの時は状況が状況だっただけに、ゆっくりと部屋を見物する余裕はなかったが、

改めて見ると、本当に凄い。


広さもさることながら、そこに置かれているテレビや機械や調度品・・・

俺とサナにとってはまさに宝の山だ。

猿山の猿よろしく、ウキャウキャと大騒ぎ。


そんな俺達を遠目に見つめるヤクザ共。

珍獣扱いもいいところだ。


まあ、組長の息子と、組長を組長とも思わず「お父さん」と呼ぶ女だ。

珍獣の中の珍獣だろう。




「あの・・・すみません。忘年会の準備をしたいんで、少し大広間から出て頂いていいですか?」


廣野組の女中さんの一人が俺達に申し訳なさそうに声をかける。

確か、美月さんとかいう人だ。


「あ。すみません」

「私、手伝います!」

「あら。サナさんでしたっけ?よろしいんですか?」

「はい!」


ふふふ、とその女中さんが笑う。


「サナさんて、なんだか昔の奥様にそっくりだわ」

「え。母さんに、ですか?」

「ええ。この元気のよさと、ヤクザを全く怖がらないところがそっくり」

「わあ、嬉しいなあ」


サナ。これって褒められてないんじゃないか?


だけど美月さんは別に嫌味を言ったわけでもなさそうで、

純粋にサナと昔の母さんが似ていると思っているようだ。


サナと美月さんは、女中さんと一緒に忙しく動き回っている母さんの方へ手伝いに行った。


母さんの話によると、6人の女中さんのうち、二人が18年前からいるそうだ。

1人が今の美月さん。

歳は、組長と同じというから、46歳くらいかな。

地味な感じではあるけど、しっかりしていて綺麗な人だ。

もう1人は・・・


「蓮!ボケッとつっ立ってないで、どきな!」

「・・・お藤さん。なんか手伝いましょうか?」

「かえって邪魔だよ。その辺で小さくなってな」

「・・・」


85歳って嘘だろ。

絶対俺より長生きするぞ、この婆さん。


俺は仕方なく廊下に出て、縁側に腰をかけた。


後の4人は、母さんも知らないらしい若い人たちばかりだ。

みんな20代か30代前半だろう。


ふと、後ろからいい香りがした。


「あ!うまそう・・・」

「え?」

「ああ、すみません。邪魔ですよね、退きます」

「い、いえ。大丈夫です」


その女中さんは申し訳なさそうに俺に微笑んだ。

女中さんの中では、この人が一番若い。

20歳くらい?

小柄で色白。ボブの髪型がすごく似合っているかわいい感じの人だ。


「それ、美味しそうですね」


ホカホカの厚焼き玉子だ。


「これ、中に明太子が入ってるんです。組長の大好物なんですよ。

忘年会が始まったら、是非召し上がってくださいね」


そう言って嬉しそうにニコッとして、いそいそと大広間に入って行った。

・・・なんか癒されるなあ・・・


それにしても、あの組長。

卵料理が好きなのか。

くそう。

俺も大好きだ。

血は争えないな・・・



その時、玄関の方からドタバタと足音がした。

振り向くと、コータさんが携帯電話にむかって、なにやら早口で捲くし立てて、

大急ぎでこっちに歩いてきた。

と、思ったら、あっという間に俺の後ろを通り過ぎて2階に上がっていった。


なんだ?なんかすげー難しい言葉ばっかりでなんの話をしているか、全くわからなかった。

そうか、コータさん、弁護士だもんな。

法律の専門用語じゃ俺もわからない。

って、俺、法学部なんだけどな・・・。


そんな大急ぎのコータさんと入れ替わるように、2階から組長が降りてきた。


「なんだ、蓮、来てたのか。呼んでないのに」


ほんとに期待を裏切らない男だ。

だが、やっぱりこの男は俺の理解の範囲を悠に超えていた。


「ところで蓮。お前いつ廣野家に帰ってくるんだ?」

「帰ってくる予定は一生ありませんが?」

「何言ってるんだ。お前、俺の跡を継ぐと言っただろ。まあ、俺が死ぬまでに帰ってくればいいがな」

「はあ?言ってねーし」

「言っただろ。初めて来たときに」


・・・

そういえば、言った。

確かに言った。

しかし。


「俺が継いだら、即解散だって言っただろ?」

「かまわん。お前が組長になったらこの組はお前のものだ。好きにすればいい」

「・・・」

「だが、コータは困るだろうな。雇い主がいなくなるわけだから」

「・・・」

「いや、コータは弁護士の資格を持っているからマシか。それ以外の、ここにいる全員は路頭に迷うな」

「・・・」

「さっきお前が鼻の下伸ばして見てた、あの女中もな」

「・・・伸ばしてねーよ」

「そうか?おい、サナ!いるか?ちょっと来い!」

「ま、待て、待てよ!!」


サナは時々物凄くヤキモチを妬く。

俺に下心のある女が近づくと、ピピっと反応する。

通称「サナレーダー」。

通称も何も俺しか呼んでないが。


しかも、「これは妬くなー」という時は意外と妬かなかったり

「なんでこれで妬くんだよ!?」って時に妬いたりする。


サナレーダーはその感度とスイッチに大いに問題があるようだ。

とにかく、こんなところでスイッチオン!という訳にはいかない。


「蓮。お前男だろ。男に二言はなしだぞ」

「・・・何、古臭いこと言ってるんだ」

「ヤクザだからな」

「・・・」

「おーい、サナ!」

「わ、わかった・・・考えとくから・・・」


俺がアタフタとそう言うと、組長はニヤリと笑って言った。


「ちなみにさっきの女中は白雪しらゆきって名前だ。かわいいだろ」


うん、かわいい。

白雪さんか。

なんかピッタリでいいなあ・・・


って、それどころじゃないゾ。

なんか流されてないか、俺。

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