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18years  作者: 田中タロウ
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第4部 第5話

「お宮参り?」

「うん、明日、日曜でしょ。付き合ってくれない?」


と、いい終わらないうちに後悔した。

コウちゃんの顔が見る見る不機嫌になったからだ。


「あ・・・嫌だった?部活?そっか、もうすぐ学年末テストだもんね」

「ネェちゃん、そうじゃなくて。なんで統矢さんを誘わないんだよ?」

「・・・」

「ネェちゃんは統矢さんの奥さんで、蓮は統矢さんの息子だろ?

何を遠慮してるんだよ。堂々と誘えばいいじゃん」

「・・・」

「そういえば、統矢さんの誕生日に入籍するって言ってたけど、したの?

もう統矢さんの誕生日終わったでしょ?」

「・・・」


コウちゃんは大きくため息をついた。


「何やってるんだよ、統矢さん・・・」

「コウちゃん。いいの、統矢さんのことは言わないで。大丈夫だから」

「どこが?全然大丈夫じゃないじゃん!」

「・・・お願い」

「・・・わかったよ・・・」


退院してからの一ヶ月ちょっと、統矢さんとは一度も会っていない。

私が産後ということでずっと蓮と寝たきり状態なのもいけないんだけど、

それにしても、どうして全然会いにきてくれないんだろう。


仕事でお屋敷の中にいるようではあるけど、いつ居て、いつ出かけてるのかさっぱりわからない。

でも、夜は相変わらずほとんどいないみたいだ。


統矢さんの誕生日も、今私が何をしても喜んでくれない気がして、怖くて何もできなかった。

でもそんな心配も不要だった。

その日は一日中、統矢さんは家にいなかったから。

そうだよね、愛さんと過ごすに決まってるよね・・・


統矢さんとは反対に、コウちゃんは毎日私と蓮に会いにきてくれる。

蓮にミルクをあげたり、オムツを替えたりもしてくれる。

統矢さんよりコウちゃんの方がよっぽど父親らしい。


「ネェちゃん、そんな泣きそうな顔しないでよ。明日付き合うからさ」

「ほんと?ありがと!」

「そうだ、統矢さんのお宮参りの時みたいに、おでこに『大』って書こうか」


亡くなった前の組長が統矢さんのアルバムを見せてくれた時のことを思い出す。


「あ!やりたい!口紅用意しとくね!」

「うん」



次の日は良く晴れていて、お参り日和だった。

でも、お宮参りと言っても何をしたらいいか分からず、取り合えず近くの神社に行き、

蓮のオデコに口紅で「大」と書いて、お参りした。

廣野家にはちゃんとお宮参り用の衣装があるのも知っていたけど、統矢さんに無断で持ち出すわけに行かないので、普段着だ。


日曜ということもあり、チラホラと私たちみたいにお宮参りに来ている家族が目に付く。

みんな赤ちゃんとその両親、更にはおじいちゃんおばあちゃんまで一緒だ。

なんか・・・私とコウちゃんという若い組み合わせは妙に目立つ。


「写真撮ったら帰ろうか」

「うん。ネェちゃん・・・」

「何?」

「・・・ううん、なんでもない」

「・・・ねえ、コウちゃん。コウちゃんは統矢さんから離れたりしないでね。

今までずっと、統矢さんの役に立ちたくて色々頑張ってきたんでしょ?

これからもそうしてね」

「・・・うん」


ごめんね、コウちゃん。

コウちゃんもニィちゃんとネェちゃんがこんなんじゃ嫌だよね。

早く、元に戻るから・・・もう少し甘えさせてね。


途中、雑貨屋さんによってフォトアルバムを買い、お屋敷へ帰った。


「今日はありがとね」

「いいよ。こういう時はいつでも呼んで」

「・・・うん、ありがとう」


コウちゃんがいてくれるから、私は頑張れた。


でもそれがいけなかった。

それ以来、私は蓮の行事ごとやお出掛けの時はいつもコウちゃんに頼った。

コウちゃんも喜んで協力してくれた。

そうなると私は無理して統矢さんに近づこうとはせず、ますますコウちゃんへと逃げた。


そんな悪循環。


最初だけ、と思って生活していた客間にも私はすっかり居つくことになった。


私の誕生日はコウちゃんがケーキを買ってきてくれて、一緒に食べた。

蓮の初節句の時は、「クラスの女子に教えてもらった」と言って、新聞紙で蓮に兜を作ってくれた。コンビニで柏餅も買ってきてくれた。

お食い初めの時も、デパ地下で鯛とか豆を買ってきてくれて、一緒にお祝いした。


なんか、もうこのままコウちゃんと夫婦になってしまいたいくらい。

いっそその方が楽で、幸せだろう。


でも・・・

統矢さん・・・


私のことをどう思ってるの?

蓮のことをどう思ってるの?





秋になる頃には、廣野組の中でも私と蓮の立場は微妙なものになっていた。


統矢さんはもう私と結婚する気があるとは思えない。

それどころか、蓮のことだって跡取りと思っているのかどうか・・・


もしかしたら統矢さんは本気で愛さんと結婚したいと思ってるのかもしれない。

本気で愛さんに跡取りを産んで欲しいと思ってるのかもしれない。


もう蓮が刺青を入れる日は来ないのかもしれない。


組員もそんな空気を感じ取って、私と蓮にどう接していいか困っているようだ。

私も、みんなに気を使われるのが嫌で、お屋敷に居るときは私の部屋と化した客間に蓮と引きこもった。

女中の仕事もしなかった。唯一、コウちゃんのお弁当だけは誰も起きてこない内に毎日台所で作ったけど。


食事も食堂で取りづらくなり、申し訳ないと思いつつも女中のみんなに部屋まで運んでもらった。


外出するときは、台所の勝手口からこそっと出て行き、一日中帰らず、夜にまたこそっと帰った。

赤ちゃんが遊べる場所は、行きつくした。

公民館の「赤ちゃん広場」なる遊び場ではすっかり常連さんだ。

そこにいる保母さんには「さすがに若いママだけあって、活発でいいですねー」と褒められるが、

ちがう、そうじゃないんだ。家に居づらいだけなんだ。


そんな中、もう高校3年生で受験勉強に忙しいコウちゃんだけが、毎日会いにきてくれた。

蓮もすっかりなついている。


でも、ちょっと心配なことがある。

こんな微妙な立場の私と蓮に、堂々と優しくしてくれるコウちゃんを組の人たちはどういう目で見ているのか。

統矢さんはコウちゃんを、コウちゃんは統矢さんをどう思ってるのか。


二人の間に変な壁を作って欲しくない。

コウちゃんには統矢さんの力になってほしい。


でも、私が本当に心配すべきなのはそんなことではなかった。


もっと大きな不協和音が広がっていた。

ちょっと考えればわかるはずだったのに・・・

私は何も気づかないでいた。


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