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18years  作者: 田中タロウ
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第3部 第18話

統矢さんの挨拶の後はもう乾杯だった。


何か儀式のようなものがあるのかと思っていたけど、

廣野組は大事なところさえ押さえていれば、余計なことはやらない主義。

意味のないことはやらない。


この式で大切なのは、新組長の心意気を聞くことだ。

それが終われば後はお祝いのお祭り。


さあ!女中の腕の見せ所だ!!頑張るぞ!!!


乾杯後、さすがにほとんど組員は引き上げる。

こんなに多くてはみんなろくに動けないからだ。


残ったのは、幹部やその他の上層部、それにお屋敷の住人、安藤先生もいた。


女中と何人かの組員で協力して、料理と酒を並べる。


その間、統矢さんは帰っていく組員から挨拶を受けていた。


料理と酒が揃えば、後はもう忘年会のようにどんちゃん騒ぎだった。

統矢さんも、故人の前だから・・・と言って遠慮するようなタマじゃない。

ほとんど無礼講で飲んでいる。


女中も一仕事終え、宴会に合流したところで、

唯一この宴会で決められた儀式が始まった。

といっても偲び酒だ。

組長が好きだったお酒をみんなで回して飲む、それだけ。

廣野組らしい。


まず最初に統矢さんが飲む・・・が、とてもまずそうだ。

そういえば組長が好きだったお酒って・・・ものすごく強くてクセのあるお酒だ。


「俺が死ぬときは、もっとうまい酒を偲び酒にするように遺言状に書いておこう」


と、本気で言っている。

実際、本当に美味しそうに飲んでるのはお藤さんだけだった。

すごい・・・さすがだ。


私の隣のコウちゃんも、うげーっと言いながら何とか飲み干す。


「はい、ネェちゃん。吐かないようにね」

「いくらなんでもこの席でそれはしないよ」

「どーだか」


確かに・・・どーだか・・・だって匂いだけでも相当なもんだ。

でも偲び酒だ。思い切ってグイッと飲む。


「ふぅ~」

「大丈夫?」

「うん・・・うーん・・・」

「ええ?ネェちゃん、いくらなんでもあの量で酔わないでよ?」

「・・・」

「ネェちゃん?」


あれ??なんか世界がグルグルと・・・う~ん、目が回る・・・き、気持ち悪い・・・


「ネェちゃん!!」

「お、お水・・・」


それ以上言葉が出なかった。というか、話したら吐きそうだった。

お藤さんが慌てて私のところに来た。


「ユウ、大丈夫かい?宴会の前に着物を脱いだほうが良かったね。由美、水持ってきな」

「はい!ユウ、ちょっと待っててね」


そう言って由美さんが駆けていった。

お藤さんとコウちゃんが私を支えて、縁側に連れ出してくれた。


お水を飲んで夜風にあたると、吐き気は少し落ち着いてきたけど、ぐったりとしてしまった。


「ユウさん!大丈夫?」


安藤先生が小走りにやってきて、私の瞳孔と脈を確認する。


「ユウさん、僕の指見て!これ、何本か分かる?」

「い、一本・・・」

「脈も正常だし・・・うん、大丈夫だよ」

「おい、ユウ、どうした!?」


統矢さん・・・

統矢さんが動いたことで、みんなの視線が私に向けられた。

こんなグテっとしたとこ見ないでよー、恥ずかしい・・・

でもそんなこと言う余裕もない。


「安藤先生、ユウは大丈夫か?」

「ええ、大丈夫です。何も問題ありません」


安藤先生がニコッと微笑む。


「ただのツワリです。ここ数日の疲れも出たんでしょう」

「そうか、ただのツワリ・・・え?」


その場で全員が固まる。

あ・・・先生・・・それは、まだ・・・


「ツワリって・・・妊娠してるってことか?」

「もちろんそうですよ。え?統矢さんご存知ないんですか?もう4ヶ月ですよ?」


しーん・・・・


と言う音が聞こえてきそうなほど大広間は静まり返った。

み、耳が痛い・・・


でも、静かなはずなのに、みんなの頭の中の電卓の音が聞こえてくる気がした。

引き算くらいできるだろう!頑張れ、ヤクザども!


そして全員が聞きたくても聞けないことを、お間抜けキャラ・由美さんがさらっと聞いた。


「それって、誰の子?」



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