第3部 第10話
「不機嫌度数」と言うものがあるとすれば、
翌日の土曜日の、私のそれは軽く200%を越えていただろう。
親の仇のような勢いで私は鶏肉を叩き切った。
「ユウ」
「何よ?」
「・・・どうした、すごいオーラが出てるぞ?」
台所に入ってきた大輔に振り返ることなく、不機嫌オーラ全開で答える。
「別に。組長の昼ごはん作ってるだけ」
「昼ごはん?」
「鶏肉と野菜の蒸し料理。もう絶対カラアゲなんて作ってやんねー」
「・・・」
「統矢さんにも、もうオムライス作らないもん」
「・・・そうか」
クスクスと大輔の笑い声が聞こえる。
私は相変わらず背を向けたままだ。
「何よ?何か用?」
「用ってゆーか・・・良心の呵責に耐えかねて・・・」
「はあ?」
そこでようやく私は振り返り、大輔の顔を見た。
「!!大輔!!何、そのバンソウコウ!?」
「これ?由美がやった」
「・・・ちょっと!大輔!!由美さんに何したの!!」
「おい・・・何もする訳ないだろ。由美は手当てしてくれたの。殴ったのは統矢さん」
「え。統矢さんが大輔を殴ったの?なんで?」
「なんで、って・・・心当たりはありませんか、ユウさん」
おう。ありまくりだ。ありまくりだが・・・
「昨日私が行った時には全然普通だったよ」
「そりゃあ俺を殴ってスッキリした後だったからだろ」
「・・・」
「昨日、会社から帰ってくるなり統矢さんに呼ばれてさ。部屋にいったら、『親父に言われてのことだろうから怒ってないけど、イライラが収まらないから一発殴らせろ』って言われて、返事する間もなく全力で殴られた」
「・・・」
「統矢さんてさー、俺より小さいし細いのに、なんであんな強いんだ。意識飛ぶかと思った」
「・・・」
「しかもさー。その後、『顔、元に戻るまでユウに会うな』だってさ。自分がイライラしてたことをユウに隠しておきたいらしい」
ははは、と大輔が笑う。
「でもこのままだった、そのまな板と包丁が可哀相だから、言っておこうと思ってさ」
良心の呵責って、まな板と包丁に対してだったのか。
「じゃ、そーゆーことだから」
そう言うと、大輔は台所から出て行った。
・・・なんだよ、全然平気じゃなかったんじゃないか。
私は大輔によって私から救い出されたまな板と包丁を眺めた。
よし、今日のお昼のメニューはカラアゲに変更だ。
統矢さんにはユウ特性オムライスだ!
ついでに・・・私も一緒に食べよう、かな。
「おい」
「なんですか?」
「なんで、俺のオムライスよりユウの方がデカイんだ?」
「何言ってるんですか、統矢さんのは特製オムライスですよ?」
「旗立ってるだけじゃねーか。てゆーか、今時こんな旗どこに売ってんだよ」
「ユウお手製です」
「・・・お前、こんなテキトーな旗作るって・・・マジ暇なんだな。仕事増やすぞ」
「テキトーじゃありません。ブルンジって国の旗です」
「・・・」
統矢さんは無言で自分と私の皿を取り替えた。
「あー!ひどい!!統矢さん、もう半分以上食べてるのに!私まだ3分の1も食べてないんですよ!」
「うるさい」
強制的に交換した元・私の皿を統矢さんはあっと言う間に空っぽにした。
「ユウ」
「はい」
「俺の皿返せ」
「・・・どんだけ勝手なんですか。そんなに食べたら太りますよ?」
「大丈夫、今から運動するから」
「そーですか。頑張ってください」
「お前も一緒に頑張るんだよ」
おー・・・
「じゃあ、コレはやっぱり私が食べますね」
私は皿を抱え込み、必死にほお張った。
なんとか統矢さんに奪い返されることなくオムライスを平らげると、
統矢さんが立ち上がった。
「いくぞ、ついて来い」
「へ?どこに?私、お皿の片付けしないと・・・」
「じゃあ、それが終わったら駐車場に来い」
「駐車場・・・私、そんな趣味ないんですが」
「・・・お前、ホントにアホだな。でもそれも面白いかもな。今度試すか」




