表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18years  作者: 田中タロウ
57/109

第3部 第9話

「・・・ご出勤ですか?」

「うん」

「・・・いってらっしゃい」

「ああ」


統矢さんは何事もなかったかのように、去っていった。


組長でさえ大輔の気持ちに気づいていたのだ。

いつも大輔と一緒にいる統矢さんが気づかない訳がない。

そこにこの朝帰りときたもんだ。

・・・誤解されたか・・・されたよな・・・。


大輔と私は眼を合わせるとため息をついた。


統矢さんはいつも通りだった。

それが逆に怖いのだ・・・。

怒ってるぞー・・・あれは、きっとすごく怒ってるぞー・・・



その日の夜。

統矢さんはこれまた何もなかったかのように「ただいま」と勝手口から帰ってきて、

そのまま2階へ上がっていった。

私はすぐにでも追いかけていって統矢さんと話したかったが、台所仕事の最中だ。

しかも今朝も朝帰りのため仕事をしていない(事前にお藤さんに許可は取ってあるけど)。

仕方なく、できるだけ早く仕事を終わらせると、私は2階の統矢さんの部屋へ走っていった。


「あの!失礼します!」

「ん?ユウか。どうした?」

「あの、えっと!」


えーっと・・・なんて言えばいいんだ?


「今朝のことですが!」

「今朝?」

「あの、その」

「ああ、大輔のことか?」

「は、はい!そうです!あの、あれは・・・」

「どうせ、親父になんか言われたんだろ」

「・・・え?」


なんだ、分かってるのか。

そうだよな、うん、そうだよな。組長の息子だもんな。さすが統矢さん・・・

でも、何もなかったんです!って統矢さんに言っていいのだろうか。

それって組長の命令に逆らったって言ってることになる訳だし・・・。


昼間、組長には「してきました」と報告した。

組長は、私をじっと見ると、別に身体を確かめたりもせず、ただ「わかった。ご苦労様」とだけ言った。

私はほっとした。

私の真意を組長はきっと汲み取ってくれた。

その上で怒らなかったのは、大輔が組長より統矢さんを選んだことに満足したからだろう。


で。

この王子様だ。


せっかく組長と大輔と私の間で、事実承知の上での猿芝居が成立したというのに、

ここでぶち壊す訳にはいかない。


統矢さんが今朝の朝帰りを見て、

組長命令とは言え大輔と私が寝た、と誤解して怒っても仕方ない。

いつか私が事実と統矢さんに対する大輔の忠誠心をちゃんと話せばいいことだ。


「で、何?」

「へ?」


あれ?怒ってないのか?

私は大輔と寝たんですよ?(ってことになってるんですよ?)


「何って・・・」

「何もないなら、俺仕事あるから。金曜は残業したらダメなんだけどさ、終わらなかったから持って帰ってきたんだよなぁ」


そう言って統矢さんはパソコンを開いた。

うっ・・・本当に怒ってない・・・

そういえば、私は統矢さんの恋人でもなければ「他の男と寝るな」とも言われてない。

だから別に他の男と寝てもいい訳で・・・統矢さんが怒る必要はない訳で・・・

私、なんで統矢さんが怒ってると思ってたんだろう・・・


「失礼します・・・」


私は人生最大の肩透かしを食らったような気分で部屋を出た。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ