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18years  作者: 田中タロウ
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第3部 第8話

「え、じゃあ、今日は帰ってくるなって、組長に言われてんの?」

「うん」

「統矢さんが飲み会に行かなかったらどうするつもりだったんだよ?」

「『大輔と用事があるんで失礼しますー』って言って別行動するつもりだった」

「・・・それ、絶対統矢さん許さないだろ」

「やっぱり?」

「うーん、とにかく今夜どうするかなぁ」

「うーん、とにかくお腹すかない?」

「・・・そうだな」


という訳で、大輔と私は近くのファミレスで目一杯食べた。


「そういえば、大輔、和彦の家でガラス細工見てたね。好きなの?ああいうの」

「うん。なんか、ああいう細かい工芸品見てるの結構好きかも」

「芸術家の血だね」

「芸術家?」

「だって、代々彫り師なんでしょ?あの刺青はもはや芸術の域だよ」

「ははは、そうだなー」

「組長の龍もすごいけど、統矢さんの鷹もすごいよね」


そういって、思わず口をつぐんだ。

だって、二人としてる時に見たって言ってるようなもんじゃないか。

大輔相手に、なんて無神経なことを・・・


でも、大輔は気にせず続ける。


「だろ?親父、廣野組の跡取り息子の背中彫るっていうんで、すげー気合入れてたからな。

統矢さんが19歳になった頃から、親父と統矢さん二人で『あーでもない、こーでもない』って、

デザインとかについてよく話し合ってた」

「へー」

「ユウもいつか彫るんだろうなぁ」

「え!?」

「親父が彫るのかな、それとも兄貴かな」

「わ、私、刺青入れるの!?」

「廣野家の人間になればな」

「い、いや・・・だって、統矢さんですら、痛くて死ぬかと思ったって言ってるのに」

「その痛みに耐えてこそ、刺青を入れる意味があるんだろ」

「いやだー」

「ははは、まあ、統矢さんに相談するんだな」


それって、私が統矢さんと結婚するって意味か?

そんな日は果たしてくるんだろうか・・・

第一、統矢さんが私のことをどう思ってるのか、それすら怪しいのに。


結局その夜はカラオケだ、ゲーセンだ、なんだかんだで大輔と遊びまわった。

なんか、普通のデートじゃないか、これ。

こんなのも統矢さんとしたことないなあ・・・してるところ想像もつかないし。


廣野組で女中をするようになってから、なんだか全てが非日常的だけど、

思えばほんの1年くらい前まで、私もこんな風に普通に遊んだりしてたんだった。


こんな生活に未練があるかといわれれば、全く無いとも言えないけど、

それもまあ、統矢さんといられるなら捨てるのも惜しくないと本気で思えた。


それに・・・

ダメだ!!体力がもたん!!!


「おい。もう眠いのか、ユウ?まだ3時だぞ?」

「・・・ダメ・・・もうダメ・・・体力の限界・・・」

「だらしないな~」

「てか、なんで大輔はそんな元気なのよ。普段から遊びすぎだ」

「それはあるかも。仕方ない、ちょっと休むか」


じゃあホテルに、という訳にはもちろんいかないので、向かったのは漫画喫茶。

うお!これもなんか懐かしいぞ!!


四方を壁に囲まれた個室に入ると、「ユウは寝てていいから」と言って、大輔は漫画を読み始めた。


「ねえ。ここ、飲み放題だよね」

「ソフトドリンクだけどな」

「パンとかカレーも食べ放題だよね」

「・・・食いたいのか?」

「もったいないじゃん」

「・・・寝ろよ」

「うう、じゃあ朝になったら起こしてね!絶対食べるんだから!!」

「はいはい」


思いのたけをぶちまけた私は安心して横になった。

大輔はため息をつくと再び目線を漫画に戻す。

私はそんな大輔をぼんやりと見つめた。


今日は楽しかった。

心置きなく楽しみめた。

それもこれも、大輔が私のことを本当に大切に考えてくれているからなんだろう。


大輔はどうやら本当に私のことが好きらしい。

私なんかのどこがいいのか、本気で聞いてみたいけどさすがにそれはできないよな。


大輔は私のことを忘れるって言ってたけど本当に大丈夫だろうか?

勝手なことを言わせてもらえば、それはそれでちょっと寂しい気もする。

もし、統矢さんも大輔も私もこんな世界の人間じゃなかったら、どういう関係だっただろう。

大輔はどれだけ統矢さんと仲がよくても私のことを諦める必要はなかったかもしれない。


私の視線に気づいたのか、大輔が振り返る。


「なんだよ?」

「・・・本当にいいの?」

「何が?」

「ホテル」

「しつこい!」

「はーい」


私はクスクス笑いながら大輔に背を向け、目を閉じた。




数時間後、大輔と私は廣野家の勝手口の前にいた。


「組長になんて言おう・・・」

「だから、組長にはしたって言っとけって。もしバレてもユウが怒られないようにするから」

「そうじゃなくて・・・」


組長はきっと大輔を試しただけだ。

だからといって、私が素直に「大輔は私の誘いを蹴りました」と報告していいものか・・・

それって、大輔は組長に逆らいましたって、堂々と言ってるようなもんじゃないか。

でも、「寝ました」と言ったら、組長は私の嘘を見抜いてくれるだろうか。

嘘だとわかってくれないと、大輔への信用がなくなるだけだ。


いや、大丈夫だよな。あの組長だ。私の嘘なんてあっさり見抜くに決まってる。

よし、ここは建前上「寝ました」と報告しておこう。


覚悟を決めて勝手口の取っ手に手を伸ばした瞬間、勝手口が内側から開いた。


「あ、統矢さん・・・」


大輔と私は固まった。


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