第3部 第5話
仕事?
私にやってほしい仕事?
女中の仕事じゃなくって?
意味がわからない、という顔をしている私に組長は言葉を続けた。
「ユウは俺と統矢の女であると同時に、廣野組の組員でもある」
「はい」
「だから、組長である俺の命令は絶対だ。わかるな?」
「・・・はい」
「嫌なら断ればいい。でもそれは追放を意味する」
何だ?そんな深刻な仕事なのか?
「わかりました」
「よし」
組長は一呼吸置くと、とんでもないことを言い出した。
「一つ目だ。ユウ、大輔と寝ろ」
「は?」
目から鱗どころか、魚自体が落ちた。
「え?大輔と?ええ?」
「大輔の気持ちに気づいてないのか?」
「・・・」
気づいて・・・た。
でも、気づかない振りをしていた。
自分の為にも大輔の為にも。
「この世界で上役の女に惚れるということは最悪だ。刺される覚悟で奪うか、諦めるか二つに一つだ」
「・・・」
「大輔はこれからの廣野組にも統矢にも必要な男だ。もやもやした気持ちのままで居てほしくない」
「はい」
「だから、お前のことはすっぱり諦めてもらう。ただ、大輔は今までも組と統矢の為に随分尽くしてきてくれた。だからせめて一度お前と寝て、そして忘れてもらう」
「・・・」
ご褒美と引導。
それを同時に大輔に渡せと言うことか。
「わかったか?」
「・・・」
「嫌か?」
「嫌です」
大輔と寝るのが嫌なんじゃない。
大輔は気持ちをちゃんと隠してくれてる。
なのになんでそんなことしないといけないんだ。
それに、組長に「誰かと寝ろ」と命令されれば寝ないといけないのか。
・・・いや、正直に言うと、そんなことよりもっと嫌なことがある。
「ふふっ」
「・・・何がおかしいんですか?」
「お前は何でも顔にでるな」
「・・・」
「俺にそんなこと言われるのが嫌か。俺に道具のように扱われるのが嫌か?」
そう。
そうなのだ。
組長は私が他の男と寝ても平気なんだろうか?
やっぱり私はただの「寝る用の女」なんだろうか?
「俺だって嫌だ」
「じゃあ・・・」
「だが、統矢の代になったら、統矢は例え一晩でもお前を他の男に貸したりしないだろう。そうなると、大輔は一生お前への気持ちを隠すことになる。大輔がそれで我慢できるならいいが、我慢できなくなって、組を離れるようなことがあれば困るのは統矢だ」
「あ・・・」
そうか、そういうことか。
「・・・組長は、本当は嫌だけど組と統矢さんの為に泣く泣く私を他の男に抱かせる、って自惚れておいてもいいですか?」
「ふっ。ああ、それでいい」
「わかりました」
「そうか、やってくれるか」
「はい」
やってやろうじゃないか、私は自称「組長の女」なんだから。
「よし、じゃあ二つ目だ」
そう言って、組長は私にもう一つの仕事の内容を説明し始めた。
翌朝。
窓から差し込む光で目が覚めた。
初めて組長の部屋に泊まった朝と同じだ。
でも、あの時とは違って、隣に眠る組長の姿はなかった。
私は・・・一人きりでしばらく泣いた。




