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18years  作者: 田中タロウ
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第3部 第3話

ヤクザのお屋敷の敷地内で跡取り息子を殴ったのだ。


次の瞬間にはソイツは大勢に取り押さえられていた。

即、ボコボコにされても文句は言えまい。

いっそ、袋叩きにされてしまえ。


でも、私の脳裏に一瞬ソイツの職業がチラついた。

ほっておけばいいものの、私は思わず「やめて!」と叫んでしまっていたのだった・・・




場所は再び廣野家の大広間。

袋叩きは免れたものの、じゃあ帰っていいよ、という訳には当然いかず、

ソイツはここに連行された。


組長と頬っぺたに氷水を当てた統矢さん始め、多くの組員が並ぶ。

その中心にソイツと私。


組長と統矢さんは(ヤクザ的には)常軌を逸した事態に怒るのも忘れて目を白黒させ、

組員の目はギラギラ、

由美さんの目はキラキラ・・・


そしてその視線の先のソイツはまるで他人事のように平然としてやがる。



・・・・・・・・・・


だ、誰もしゃべらない。

沈黙が痛い・・・

あれか、やっぱりここは私がしゃべらなきゃ始まらないか。


「あ、あの、統矢さん、すみませんでした」

「・・・」


おい、統矢さん、返事するのも忘れてるぞ。


「コイツは・・・その・・・私の双子の兄の和彦、です・・・」

「双子の兄ぃ!?」


さあ、何人ハモったか数えてみよう。


「きゃあ!ユウ!!KAZUだよね!?その人KAZUだよね!?ユウのお兄さんなの!?」


由美さんが1人大興奮した。

それを皮切りに、大広間が急に騒然となる。


『ユウの兄貴って・・・似てねー』

『月とスッポン?』

『てか、あいつ見たことあるぞ』

『うん。テレビとか雑誌とかに出てる』

『KAZUとかいう芸能人だろ』

『あ!昨日みたドラマに出てたじゃん』


「KAZU」ってやめろー!!!

鳥肌が立つ!!

日本人なら正々堂々と日本語で勝負しやがれ!!!


「和彦・・・あんたが殴ったの、ここの跡取り息子さんだよ?」

「だから?」

「だからって・・・」

「結子をこんなところに閉じ込めとくのが悪い」

「閉じ込められてない!私が自分の意志でここにいるの!!」

「かわいそうに・・・そう言わせれてるんだね・・・」


だぁーーーーーーーー!!!!!


「だから!!!てゆーか!!なんで私がここにいるってわかったの!?」

「うん。これ、拾ったんだ」


そう言って、何かを鞄から取り出す。

へにょっとして枯れ果てたそれは・・・


「え?ブーケ?」


そう、私が去年フラワーアレンジメント講習会の最終日に作り、

男達に襲われたときに落とした青いブーケだ。


「うん。去年、街で見つけて拾ったんだ。ここにスマイルマークついてるだろ?ブーケにこんなマークつけるなんて変なのって思って、マークの後ろ見たら『you』って書いてあった。結子、昔からこのマーク好きだったから『あ、これは絶対結子の物だ!』ってピピッときたの」


ピピッと来るなよ。


「で。興信所使って結子のこと探したんだー」

「・・・」

「結子が家出したのが去年の4月だから、10ヶ月ぶりくらいだね!」


そーですね。


「だからさ、ね、帰ろう?」

「やだ。実家には帰らない」

「実家じゃないよ。俺んちだよ。一緒に暮らそう?」

「は?俺んち?」

「うん、俺今、六本木で一人暮らししてるんだ」

「ええ!?」


これには驚いた。

和彦は中学生の時に、ぬけぬけと自分で応募した何とかってゆーオーディションでグランプリを取ってデビューした。


高校生の時は仕事のたびに片道2時間かけて都心に出ていたため、事務所が気をきかせて、

「卒業したら一人暮らししたら?マンションは事務所で用意するから」

と言ってくれたのに、「家族と離れるのは嫌だ」と言って断ってしまった。

両親も両親で、「かわいい息子に一人暮らしなんてさせられない!!」とアホな事を言い出した。


親離れしていない子供に、子離れしてない親。

お似合いだ。


そんな和彦が一人暮らし!?しかも六本木!?(これは関係ないが・・・)


「なんで一人暮らししてるの?」

「だってさー。去年結子が家出して、いつまで経っても帰ってこないのに、

お父さんもお母さんも全然探そうとしなくって。さすがに俺、腹が立って、結子の真似して

家出しちゃった」


家出って真似をしてするもんじゃないぞ。

しかもどうせ事務所でマンションを用意してくれるんだから、家出とは言わないんじゃ・・・

それでも、スーパー箱入り息子の和彦が一人暮らし!

片足くらいは箱から出たか。


「だから一緒に暮らそう?」


だから、何が「だから」なんだ。

そーゆーセリフは女(除、妹)に言え。

ほら、後ろで目をキラキラさせてるお姉さんに言ったら、喜んでついて行くぞ。



「おい・・・」

「あ。統矢さん、いたんですね、忘れてた」

「・・・ユウ・・・」


超ぶっ飛びシスコンキャラの兄に全員が唖然としてる中、

ようやく統矢さんが口を開いた。


「おい、お前。勝手なことばっかりぬかすな」

「なんで?兄が妹を連れて帰っちゃいけないの?」


お願い〜

お願いだから、統矢さんにそんな口きかないでぇ〜(泣)


「兄だろうがなんだろうが、ここじゃ・・・」


ピルルルル!


な、なんだ?


「あ、俺の携帯」


和彦がポケットに手を入れる。

おい!電源切っとけ!

い、いや、切らなくてもいいけど・・・


「はい、もしもし」


出るんか〜い!


あああ、もう・・・私、おかしくなりそう・・・


「うんうん。えー、もうそんな時間?今、手が離せないんだよね。家出した妹を見つけてさ。

うん。ヤクザの家で監禁されてた・・・ええ?違うって、ドラマの話じゃないって!」


あはは、と和彦が笑う。

こっちが笑いたい。


もはや組長と統矢さんの方を見る勇気も出ない。


「えー、わかったよ。すぐ行くよ」


すぐ行くんかい。じゃあ、はじめっからくんな。


和彦は携帯を切ると、ニコッと微笑んだ。


「結子、そういう訳で俺行かなきゃ」

「・・・」

「はい、これ俺の住所と携帯番号。いつでも帰ってきてね」

「・・・」

「じゃあ、また来るから」



こうして嵐の男は去っていった。


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