第3部 第2話
家出人の私は、現在の居場所を誰にも教えていない。
そんな私にお客?
「それってどんな人ですか?」
「背の高い男だよ。門のところにきてる」
ヤクザのお屋敷の正門に平気でやってくる背の高い男。
嫌な予感がする。
物凄く、物凄く、嫌な予感がする。
「あの・・・その人、結構かっこよかったりします?」
「ん?ああ、帽子かぶってサングラスかけてるから顔はよくわからんが、イケメン風だな」
うわああああああ!
アイツだ!
間違いなくアイツだ!!!
なんで!?なんで私がここにいるって知ってるんだ!?
異常なほど動揺している私を不審に思ったのか、
統矢さんが一緒に行くと言い出した。
まるで刑務所の廊下を歩く囚人のような絶望的な気分で私は門へ向かった。
隣には統矢さん。
後ろには興味津々な廣野組の面々。
庭を抜け、門の近くまで来て私は足を止めた。
門番達に取り囲まれるように立っている長身の人物が目に入る。
黒いキャップを目深にかぶり、顔には上半分に色がついたサングラス。
目立たないように顔を隠しているつもりらしいが、その服装は、
赤のスキニージーパンと、とてつもなく目立ってる。
やっぱり・・・
アイツだ。
私は足がすくみ、それ以上近づけなかった。
でも、アイツは私に気がつくと、満面の笑みで近寄ってきた。
「結子!!!」
そう叫ぶや否や私をギュッと抱きしめた。
統矢さんを含め、その場にいた全員が固まる。
私は、といえば、ただただ成されるがまま。
予想外の出来事に頭がついていかない。
でもそんな私にはお構いなしの、空気の読めないソイツはなおも続ける。
「結子・・・探したんだよ?なんでこんなとこにいるんだよ?」
こんなとこ、ってここはヤクザのお屋敷ですが?
そんな私の目配せもなんのその。
ソイツはサングラスを取り、私を熱い、いや、暑苦しい眼差しで見つめる。
「さあ、帰ろう?」
そのとき、私の後ろで由美さんの声がした。
「え!?もしかしてKAZU!?」
KAZUと呼ばれたソイツは由美さんの方を見ると、
100%営業スマイルでニコッと微笑む。
由美さんの悲鳴が聞こえた。
だけどソイツは視線を私の横の統矢さんの方へ移すと急に無表情になった。
「ねえ、こいつ誰?」
いや、お前が誰だ。
「結子の男?」
即座に否定すればよかった。
でも私は一瞬ためらった。
忘年会の夜以来、統矢さんと私の関係は復活し組内でも話題になっている。
私の中では、以前の二人の関係と今の二人の関係は明らかに違っているが、
統矢さんの本当の気持ちは今もわからない。
私の気持ちは統矢さんも知っているけど、統矢さんはそれに対して何も言わないし、
私の事をどう思っているのかも教えてくれない。
でも明らかに以前よりも激しく身体を求められるし、大切にされてる・・・気がする。
そんな微妙な関係。
だから「結子の男?」と聞かれてためらってしまった。
その一瞬をソイツは見逃さなかった。
あっと言う間もなく、ソイツの強烈なパンチが統矢さんに炸裂した・・・。




