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18years  作者: 田中タロウ
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第3部 第1話

台所のテーブルに一冊の本が置いてあった。


見覚えのあるその表紙をチラッと見る。

たくさんの男性の写真が満載。


本というより月間誌だ。

月間男性アイドル誌。


おそらく、いや、間違いなく由美さんのだ。

由美さんはこの手の雑誌が大好きだ。


私は小さくため息をつく。

由美さんと違って、私はこういうのが大の苦手だ。


大嫌いだ。




-----------------------------------------------------------------------




「うわぁー!!!」

「すげー!!」

「かわいい〜!!!」


3月にしては暖かい、休日の午後。

廣野家の食堂では、これまた心温まる話題で盛り上がっていた。

珍しく統矢さんと組長まで参加している。


「だろぉー?かわいいだろー?」

「うん、よかったね、庄治に似なくて」

「どういう意味だよ」


と言いながらも庄治は満面の笑みだ。

そう、去年のクリスマスイブに生まれた庄治の長女の写真をみんなで見ているのだ。


「首が据わったら、ここにも連れてくるよ」


すっかり鼻の下を伸ばしてる。

それもそうだろう。本当にかわいい。

大きな頭に小さな手足。こんなかわいい生き物がこの世にいるなんて。

しかも、たぶん「赤ちゃんだ」ということを差し引いても、かわいい。

美少女だ。

本当に庄治に似なくてよかった。よくやったぞ、庄治嫁。


「あ。それで組長、お願いがあるんですが・・・」

「なんだ?出産祝いか?」

「違いますよぉー。統矢さんの昔の写真を見せてもらいたいんです」

「おい、なんだそれ!?」


一気に統矢さんの顔が曇る。


「そんなもん、なんで必要なんだよ!自分の子供の写真でいっぱいいっぱいだろ!」

「あ、いや、統矢さん、そうじゃなくて。俺も嫁も赤ん坊の行事って全く分からなくて。

廣野家ならそういうのちゃんとやってそうなんで、写真で教えてもらおうと思って」

「じゃあ、俺じゃなくてもいいだろ?」

「・・・統矢さんのしかないんじゃないですか?」

「親父のとか」

「俺のはダメだ」

「なんでだよ」

「俺が嫌だからだ」

「・・・」

「おい、お藤。統矢のアルバムを持ってこい」


統矢さんのアルバム!!!!

その場の全員が色めき立った。

見たい、そりゃあ見たい。

しばらく話題と笑いには困るまい。



お藤さんが持ってきた古いアルバムはとても大きくて立派なものだった。

いかにも「いいとこの家のアルバム」って感じ。

濃い茶色で、表紙には金色の細工が施されてあった。


組長がその表紙を開くと・・・

食堂は少なくとも3分間は大爆笑に包まれた。

その笑いに組長も加わっているので手に負えない。


「うわー!!!この赤ん坊、イジメたい!!!」

「・・・大輔・・・」

「統矢さんって、生まれた時から眼つき悪かったんですねー。かわいくなーい」

「・・・ユウ・・・」

「すごい・・・今の統矢さんをスモールライトで小さくしたみたい・・・」

「・・・コータ・・・」

「知らなかったー。統矢さんにも赤ちゃんの時があったんですねー」

「・・・由美・・・」


物凄く不機嫌な統矢さんを無視して、上へ下への大騒ぎだ。


「親父!!早く本題!!」

「あ、ああ。そうだな」


そう言って組長が次のページをめくる。

再び3分間の大爆笑。

だ、だめだ・・・こりゃ本題どころじゃないよ、統矢さん。


でもみんななんとか涙をこらえて、ようやく話は本題へ。


「この写真は?」

「これは生後一ヶ月くらいに子供の無事な成長を願って行うお宮参りだ。もうやったか?」

「いえ、まだ・・・統矢さんの額に赤く書いてあるのってなんですか?」

「『肉』って文字なんじゃない?」

「ユウ・・・お前じゃないんだから」

「これは『大』という文字だ。女の子なら『小』。口紅で書くんだ。俺の母親・・・

統矢の祖母が関西の方の出身でな、あちらの風習らしい」

「へええええええ」


ページを進める。


「あ、こっちは初節句ですね?」

「そうだ」


青い着物に立派な兜をかぶった統矢さん。

もうこの頃すでに、現在の風格がある、ような・・・。


「これは?」

「生後100日目にやるお食い初めだ。生涯食べ物に困らないように、という願いをこめてやる。

鯛のおかしら付きとか豆とかを赤ん坊の口につけるんだ。もちろんまだ食べられないがな」


行事以外にも色んな写真があった。

お屋敷の中や庭での写真、近くの公園での写真、海や山、動物園のなんかもある。


そして時々、その写真の中に登場する女性・・・統矢さんの母親だろう。

やっぱり統矢さんは母親似だ。


「あんまり組長は写ってないんですね」

「俺が一緒に行くとなると、運転手や付き人や護衛も一緒だからな。

かえって動きにくかったんだ。行事ごととか特別な時以外は一緒に出かけることはなかったな」


そういえば・・・と組長が呟く。


「統矢が3歳くらいの時だったか・・・ディズニーランドがオープンしてな。

母親にも統矢にも連れて行けとせがまれて、渋々行ったことがあるな」

「あ。それ覚えてるかも。すごい人でほとんどずっと並んでたような・・・」

「そうだったな」


おお。組長と統矢さんにもそんな普通の親子らしいことがあったのか。

ヤクザがディズニーランド・・・しかも組長と統矢さん・・・だめだ、また笑える。


「これは1歳の誕生日ですか?この背中に背負ってるのはなんですか?」

「早くから歩ける子は、親からの自立も早いという迷信があってな。1歳の誕生日に、

米や餅を子供に背負わせて、わざとこけさすんだ。そうすれば、親とその子供は長く一緒に

暮らせるというおまじないみたいなもんだ。・・・そういえば、統矢は10ヶ月くらいで

もう歩いてたな・・・」

「でも全然自立してないから、このおまじないは物凄く有効ですね」

「ユウ!!!」


すっかり父親の顔になった組長と、大笑いのみんなに、

さすがの統矢さんも諦めたのか一緒になってアルバムをめくり始めた。


なんか・・・組長と奥さんの、統矢さんに対する愛情がヒシヒシと伝わってくる写真は、

私には物凄く眩しかった。


私も子供の頃はこんな風に両親に愛されてたのだろうか?

物心ついた時には、すでに両親は完全に兄贔屓となっていたため、

私は随分とひねくれて成長したけど、

こんな風な私のアルバムとかも、実はあったりするのかな?


そんな幼少時代のことを思い返っていると、

門番をしていた人が食堂に入ってきた。


「ユウ。お前に客だ」

「客?」


その場に居た全員が声を揃えた。










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