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18years  作者: 田中タロウ
36/109

第2部 第22話

統矢さんと私の関係が無くなって3ヶ月以上が過ぎた。


街にはジングルベルがあふれる12月。

普段落ち着いている教師でも走るほど忙しい「師走」の12月。


走り回っているのは教師だけではない。

廣野組の女中も負けないくらい忙しい。


廣野組では毎年年末にお屋敷に住んでいる人たちと、住んではいないけど組で重要な役割を果たしている人たちで忘年会をするらしい。

参加人数は約100名。

誰が準備すると思ってるんだ。


加えて新年を迎える準備もある。


忘年会が終わったら故郷に帰る人もいるけど、

当然、故郷?そんなもんはない、というヤクザも多い。

そんな孤独なヤクザと、組長と統矢さんは年末年始もお屋敷にいる・・・

ということで、おせちなんかも必要なのだ。


これまた誰が準備すると思ってるんだ。

休みをくれ、休みを。


愚痴っていても仕方ないので、年末年始の自分の仕事について頭の中でシュミレーションしてみる。


まずは、あの料理の下準備をして、あそことあそこを掃除して・・・あ、組長と統矢さんが着る、新年の挨拶回り用の袴も準備しなきゃ。

それに、クリスマスイブに二人ともどこかのパーティーに行かなきゃいけないらしいので、

それ用のスーツも用意しておかないと。。。


まだまだ他にもするべきことがある。

紙にでも書いておかないと忘れてしまいそうだ。


という訳で、夜、こうして1人で台所にこもっている。

そうは言っても、後2時間もしたら組長の部屋に行かなくてはいけない。


すると、美月さんがいつもの米研ぎの為に台所に入ってきた。


「ユウさん、ちょっといいかな?前から聞きたかったんだけど・・・」


おお!ハルマゲドン再来ですか!!そんなもん、何度もきたら地球は滅亡しまくりだぞ。


「どうして統矢さんと・・・その・・・なくなったの?」

「ああ・・・そのことですか」


廣野組の人たちにも幾度となくされてきた質問。

いつもは適当に「さあ。いい加減、統矢さんも飽きたんじゃないですか?」と答えてきた。

でも・・・

美月さんには本当のことを言っておきたかった。


「もうこないで、って私が言っちゃったんです」

「え・・・そうなの?どうして?ユウさんは統矢さんのこと好きじゃないの?」


そんなバカな。

勝手に押し倒してきたんですよ、あの王子様が。


「好きじゃないです、全然」

「でも・・・統矢さんはなんとなく元気がないし・・・」


美月さんにはそう見えるのかな?

私には今まで通り飄々として見えるけど。


「統矢さんて、口は悪いけどすごく優しくて真面目でいい人よ?

いつも自分の部屋にユウさんを呼ばずにユウさんの部屋にきてたのも、2階でユウさんが組長の部屋と統矢さんの部屋の両方を出入りするのは嫌だろうと気を使ってたからだろうし・・・」


え?


「統矢さんがユウさんのところにこなくなってからも、いつも通りユウさんに気軽に接してるのは、ユウさんがこのお屋敷の中で気まずい思いしなくてもいいように、って思ってのことだろうし。ほら、組長の息子なんかと気まずくなると、他の組員とも気まずいでしょう?」


え?


「それにね。私の両親は昔、廣野組の抗争に巻き込まれて死んだんだけど、

警察に見つかったらマズイからって、二人の遺体は遠くで統矢さんがこっそり埋葬したの。

でも、毎年命日には一緒にお墓参りに行ってくれるの」


ええ?


って、あれ?それってもしかして・・・


「もしかして、9月くらいに二人で出かけた時のことですか?」

「そうよ。知ってたの?物凄く遠いところだから、一泊しないと帰ってこれなくて・・・」


美月さんが、ハッとした表情になる。


「ユウさん・・・統矢さんと私のこと何か勘違いしてる?

統矢さんがユウさんのところに来なくなったのって、その頃からよね?」

「え・・・勘違いも何も、私には関係ないってゆーか・・・」

「ふふ」


あ。美月さんが笑ってるの初めてみた。


「統矢さんと私はそんなのじゃないわ。統矢さんは私に少し責任を感じてるだけ。

・・・それだけよ」


「それだけ」という美月さんの声はどこか悲しげだった。



私は部屋でベッドに転がった。


美月さん、もしかして自分でも気づいてないかもしれないけど、統矢さんのことが好きなんじゃないのかな。

一体どんな気持ちで、統矢さんが隣の私の部屋に来ているのを見てたんだろう。

それなのに、こうして私なんかの心配してくれている。

なんて優しい人・・・いや、強い人なんだろう。


それに比べて私は、子供じみたイライラで統矢さんを拒否してしまった。

いや、この際正直に言うと、私は美月さんにお門違いな嫉妬してたんだろう。


「あ〜あ・・・」


私は、わざと大きなため息を吐いて、眼を閉じた。




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