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18years  作者: 田中タロウ
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第2部 第21話

「ごめん、ネェちゃん」

「いいよ、コウちゃんは何も悪くない」

「うん・・・」

「大丈夫、組長にも統矢さんにも黙っとくから」


別に組長も統矢さんもこのことを知ったところでなんとも思わないだろうけど、

色々と二人にお世話になっているコウちゃんとしては、

極力迷惑や心配はかけたくないだろう。


「ありがとう」

「ねえ、そんなことよりさ」

「そんなことと、ときたか」

「買い物があるから付き合って」


向かった先は、大型ショッピングモールの日用品コーナー。

およそ男子高校生には無縁の場所だ。


「こんなところで何買うの?」

「コウちゃんの新しいお弁当箱」

「え?今のままでいいよ?」

「もうすぐ寒くなるでしょ?保温機能のあるお弁当箱に買い替えようと思って。お味噌汁も入れれるんだよー。冬になったらシチューとかもいいね」

「だったら自分で買うよ。ネェちゃんに買ってもらうのは悪い」

「コウちゃん、空手も頑張ってるし1学期の成績もよかったでしょ?お姉様からのご褒美です」

「・・・ありがとう」


そう。コウちゃんは1学期の成績が学年で8位だったのだ。

8位ってなんだ。

私は2桁台の順位も取ったことないぞ。


「コウちゃんて、なんでそんなに勉強も運動も頑張ってるの?ヤクザにそんなもの必要?」

「将来、何でもいいから統矢さんの役に立ちたくってさ。今は取り合えず手当たり次第頑張ってる」

「へえ・・・コウちゃんてどうしてそんなに統矢さんに心酔してるの?」

「俺、中学2年の時家出してさ。チンピラにからまれてるところを統矢さんが助けてくれて、好きなだけ居ていいって廣野家につれてきてくれたんだ。それ以来、すっかりまいっちゃってる。空手やってるのも、昔統矢さんがやってたって聞いたからだよ」


中学2年にして、そんなに尊敬できる人物と巡り会えたのは幸運としかいいようがない。

さすがは「幸太」。


「でもさ、どうやったら統矢さんの役に立てるかわかんないんだ。喧嘩にしても組の仕事にしても統矢さんは1人でべらぼうにできるし。護衛も大輔さんがいれば問題ないし・・・俺には何ができるかなー」


コウちゃんがぼんやりと空を見上げて呟く。

そのとき、ふと思いついた。


「ねえ、弁護士になるっていうのは?」

「は?弁護士?」


コウちゃんが予想以上にビックリした顔になる。

お、なんだその反応は?


「うん。廣野組の為なら多少ヤバイ治療もやってくれる闇医者チックな安藤先生みたいに、

廣野組によく通じてる顧問弁護士みたいなのがいたら、いいんじゃないかなーって。

そしたらほら、統矢さんが警察に捕まっても助けてあげれるじゃない?」

「・・・物凄く嫌な前提だね、それ」


そういいながらも、ふーん・・・と呟く。


「そんなこと言われるなんて思ってなかったから、びっくりした」

「そう?」

「俺の父親、弁護士なんだ。事務所も持ってる」

「ええ!?そうなの!?」


なんたる偶然。

そうとは知らずに弁護士の息子に弁護士になるように薦めてたとは。



コウちゃんの家は、コウちゃんのお祖父さんの代から弁護士の事務所をやっていて、

コウちゃんと10歳離れたお兄さんが跡を継ぐことになっていた。

でも、お兄さんは親の反対を押し切り、高校教師になり家を出て行ってしまった。

お兄さんっ子だったコウちゃんは裏切られたような気持ちになり、すっかり落ち込んだ。

しかも跡取り息子が家を出て行ったということで、親の期待は急に当時中学1年のコウちゃんに

向けられるようになった。

結局、コウちゃんはその重圧とお兄さんがいなくなったショックに耐え切れず、家出した。


ちなみに今の学校は小学校の時から通っていて、統矢さんが「途中で転校するのもかわいそうだから」と、

そのまま通わさせてくれている。でも大学は国公立を受けるつもりらしい。



「なんか私と少し似てるかも」

「そうなの?」

「うん。私にも兄がいてね。勉強も運動も出来ない上に、だらしない性格だったけど、世渡り上手で見てくれがよかったもんだから、親とか周りにチヤホヤされてたの。でも私は兄とは違って『かわいげがない』『生意気』とか言われて、親も兄に夢中で。そんなこんなですっかり家出が癖になっちゃった」

「ふーん。中身は違うけど、俺達二人もブラザーコンプレックス、だね」

「そうだね」


それでコウちゃんとは気が合うのかもしれない。

コウちゃんは、居なくなった大好きなお兄さんの穴を埋めようと、「ネェちゃん、ネェちゃん」と、私に懐いてくれてるのかな。


コウちゃんのこんな家庭の事情、みたいなこと初めて聞いた。

私も初めて話した。

思えば、廣野組にいる人はどんなに仲が良くても組に入った経緯をお互い話したりしない。

(中には大輔みたいな、なんとなく、って人もいるけど)


みんな過去を捨てて廣野組にいる。

そこで家族のような、親分子分のような、新しい関係を築いている。

堅気の世界では出来なかったことを、ヤクザの世界でちゃんとやっている。

最初に少し失敗しただけ。できないわけじゃないんだ。


そして私も今廣野組のみんなを家族や友達のように慕っている。

これからも、ここを大切にしたい。




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