第2部 第13話
22時50分。
2階の廊下を大輔と歩く。
「ユウ」
「何も言わないで。ほっといて」
「うん・・・」
こうして一緒にいてくれるのは
私を励ましてくれているのか、
それとも逃げないように見張っているのか。
好意的に前者だと思っておこう。
「大丈夫か?」
「何にも言わないでって」
「でも、さっきまで統矢さんとしてたんだろ?しかも初めて・・・」
「ぎゃー!ぎゃー!!ぎゃー!!!何もゆーなぁ!!!」
「わ、わかったよ」
思い出すだけで顔が真っ赤になる。
しかも今から組長のところって・・・大輔が「大丈夫か」って聞くはずだ。
統矢さんが部屋から出て行った後、
私がお風呂から上がって台所に入っていっても、お藤さんは何も言わなかった。
怒ってる風でもなかった。
ということは。
統矢さんから事情を聞いたってことか。
「ユウ、どうしたの?まだ頭痛いの?寝てていいよ?」
由美さんが心配そうに声を掛けてくれた。
ってことは、お藤さん以外は知らないってことか。
由美さん・・・ありがとうございます。
その優しさが身にしみます。
頭は痛くありません。
別の意味で痛いですが。
落ち込んでいようが、恥ずかしさで死んでしまいそうだろうが、腹は減る。
という訳で、貪り食ってたら、バツの悪そうな顔をして大輔が台所に入ってきた。
「ユウ・・・ヤル前にそんなに食ったら吐くぞ」
今すぐ吐いてやろうか。
こうして現在に至る。
そしてついに組長の部屋の前まで来てしまった。
「頑張れよ」
何をだー!?
ノックをすると、すぐに
「入れ」
と返事あった。
「・・・失礼します」
初めて組長の部屋へ面接に来た時よりもはるかに緊張する。
組長は私をみると、「ああ、もう11時か」というような顔をした。
一瞬見せるこういう間抜けた表情は統矢さんとそっくりだ、
なんて思っていると、また急に顔が赤くなった。
「どうした?」
「なんでもありません!」
「じゃあ、こっちに来い」
組長がベッドに腰掛ける。
「・・・はい・・・」
するのか。
するんだよな、やっぱり。
あううう。
そろそろとベッドに近寄り、組長の前に縮こまって立つ。
「服を脱げ」
「え?自分でですか?」
「脱がして欲しいか?」
「いえ・・・」
でも自分で脱ぐって・・・脱がされるより恥ずかしい!
いっそのこと脱がして欲しいがまさかそんなこと言えない。
「あの・・・せめて電気消していただけませんか」
「ダメだ」
「じゃあ、あの・・・ベッドの横のスタンドだけつけて部屋の電気は消してください・・・」
「恥ずかしいのか?」
当たり前だー!
「まあいいだろう」
そういうと、組長は手元のリモコンを操作し、部屋の明かりを消すと同時にスタンドを点けた。
ええい!
女は度胸だ!!
思い切って服を脱ぎ捨てる。
「それもだ」
下着姿の私になおも無情なことを言う。
これもですか・・・
度胸がどこかへ飛んでいってしまった。
女の子らしくモジモジしてたら、組長が助け舟を出してくれるかと思ったが、
この人はそーゆータイプではない。
鳴かぬなら鳴くまで待とう、ホトトギスってタイプだ。
ちなみに統矢さんは、「殺してしまえ、ホトトギス」タイプ。
モソモソモソ・・・
欠伸がでそうなくらいゆっくりと下着を脱いだ。
男の人の前で全裸で立つ。
一度やってみるといい。
ベッドで強引に脱がされる方が百倍ましだ。
私は眼も開けられないほど恥ずかしくて、口もきけず直立不動で突っ立っていた。
すると・・・。
組長の手が私の身体の上を這い回った。
「・・・きゃっ」
思わず悲鳴が漏れる。
だってそれは、いわゆる「愛撫」ってやつではない。
「身体検査」に近いような・・・どんな身体をしているか調べられているようだ。
手が下へと伸びる。
「ユウ。さっきまで誰かと寝てたのか?」
あなたの息子さんですー!!
てか、身体触るだけでそんなこと分かるのか。
お風呂だってちゃんと入ったんだぞ。
「なかなかいい度胸しているな、お前」
「いや、あの、その」
しどろもどろに答えると、組長がはっとしたような表情になった。
「なるほど、そうか。統矢のやつか」
「はいぃ」
お、怒られるかな・・・
ところが組長は怒るどころか愉快そうに笑った。
「そうか、そうか。やってくれるな、あいつも」
「怒らないんですか?」
「誰を怒るんだ?俺は別に、お前に他の男とするなとは言ってないし、
お前とはするなと誰かに命令したわけでもない。好きにすればいいさ」
嫌です。
「ただし。俺が来い、と言ったときには必ず来い」
これからも呼ぶつもりですか。
それから私はベッドに寝かせられた。
さっき統矢さんに押し倒されたような乱暴な扱いではなく、
そっと寝かされたのだった。




