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18years  作者: 田中タロウ
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第2部 第10話

白い天井に、四角い照明。

パリッとしたシーツの手触り。

消毒液の香。


ここはどこ?


・・・って、おい、デジャブか?

わかんない人は、第2部の第1話を呼んでくれい。



「眼、覚めたか」

「・・・統矢さん?」


ベッドの脇の椅子に統矢さんが1人、腰掛けていた。


「ここは?」

「病院だ。気分はどうだ?」

「・・・頭が痛い、です」

「だろうな。ビール瓶で思いっきり殴られりゃ誰だって痛い。出血しなかったのが奇跡みたいなもんだ」


そうだ、私、マサさんにビール瓶で殴られたんだ。

で、気絶したのか。

気絶なんて生まれて初めてした。


「庄治は大丈夫ですか?」

「ああ。倒れたユウを見て二人ともすっかり酔いが覚めたみたいだ」

「・・・怒らないであげてくださいね?」

「ユウがそれでいいなら」

「それがいいです」

「わかった。1ヶ月禁酒ってとこだな」


それで済めば御の字だろう。

それにしても、なんだか統矢さんの声が妙に優しい。

嵐の前触れか。


「なんで庄治をかばった?」

「なんでって・・・まあ、庄治が怪我するより私が怪我した方が困る人は少ないかなと思って」

「それだけで?」

「はい」

「お前なあ・・・」


統矢さんはため息をついた。



それはそうと。

私は高そうな個室を見回しながら言った。


「あのー、私、保険証とか持ってないんですけど・・・」


統矢さんは眼をパチクリとした。


「お前、妙なところで現実的っていうか、地に足がついてんな。

ここはうちが昔っから懇意にしている病院だからそんなもん必要ない」

「闇医者・・・みたいなもんですか」

「みたいなもんだ」


ガラっと扉が開いた。


「お。噂をすれば。闇医者様の登場だ」

「誰が闇医者ですって?」


入ってきた50歳くらいの医者が統矢さんを睨んだ。

白髪交じりの小柄で優しそうなお医者さんだ。


「はじめまして。闇医者の安藤といいます」

「・・・はじめまして」

「こいつはユウ。うちの新しい女中だ」

「最近の廣野組では女中さんをビール瓶で殴るのがはやってるんですか?」

「・・・そんな訳ないだろう」


もちろん安藤先生は闇医者などではない。

この病院の立派なお医者さんだ。

ただ、弾傷なんかでしょっちゅう運びこまれてくる廣野組の人間を、

警察に通報することなく手当てするだけ、らしい・・・。


そりゃ保険証なんかクソ食らえだろう。


「一応MRなんかも撮りましたが異常ありませんでした。明日には退院していいですよ」


石頭万歳。




安藤先生が出て行くと、また統矢さんがため息をついた。


「統矢さん、今日はため息日和ですね」

「えらく詩的なことを言うな。ため息の一つもつきたくなるさ」

「私、ため息より何か食べ物が欲しいです。お腹すいた」

「・・・大丈夫そうだな」


コンビニに行ってくると、統矢さんも病室を出て行った。



部屋を見渡すと、その豪華さに改めて驚く。

個室は個室でもいわゆる「V.I.P」というやつだろう。

一体、一泊いくらするのか。

私なんかのために組のお金を使っていいのだろうか。


ふと、ベッドの横のワゴンに並べてある救急セットが目に入った。




あの時、美月さんは救急箱を抱えて私の後に食堂へ来た。



廣野組の食事を任されている美月さんが、毒を盛ることなんて簡単だろう。

毒なんて大げさな物じゃなくても、殺虫剤とかでも毎日少しずつ盛れば、

人の体をおかしくすることはできる。


統矢さんだって、そんなこと百も承知で美月さんを連れてきたはずだ。


でも、この10年間そんなことは起きなかった。

きっとこれからもずっと起きないだろう。


そう思えた。




「うーん。こんなもんでどうだ?」


統矢さんが、ガサゴソとコンビニの袋から商品を取り出す。

卵サンド、オムライス、プリン、カルボナーラ。

高コレステロールのオンパレードだ。


「これって統矢さんの好きな物ばっかりじゃないですか」

「そうか?そういや俺、会社でこんなんばっか食ってるな」


星の王子様は毒なんて盛らなくても死にそうだ。






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