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18years  作者: 田中タロウ
13/109

第1部 第13話

授業が始まる直前の教室を抜け出し、校門へ向かって走る。


校門の向こうに白いレクサスが見えた時、「しまった!」と思ったが、

今は後悔している場合じゃない。


俺はその車を無視して校門を飛び出し、歩道を駅に向かって駆け抜けようとした・・・

が、そうは問屋が卸さない。


「おー。俺に向かって一生懸命走ってきてくれたのかと思ったけど、そうじゃないらしいな」


コータさんが俺の腕をしっかりと掴む。



あの感動の欠片も無い親子対面から3日が経っていた。

ちなみに母さんには言っていない。


あの日、指定通りコータさんは俺とサナをバイト先の居酒屋まで送ってくれた。


店長にこってり油を絞られるかと思ったが、

あのヤクザ達が俺の知り合いだと勘違いしたのか、


「まあ、誰にでも失敗はあるから。次回から気をつけて」


と引きつった笑顔で許してくれた。


そして、しきりに俺の連絡先を知りたがるコータさんを振り切って帰宅したのだが・・・


そうか、大学名を教えちゃってたな。

それで待ち伏せかよ。

しまったなー・・・



だが、さっき言った通り、今はそれどころじゃない。


「急ぐんで離して下さい!」

「何かあったのか?」

「・・・別に何も」

「お前の母親のことか?」


いい勘してやがるな。


そう。

大学の昼休み、またサナの母親から電話があったのだ。


母さんが職場でまた倒れた。

今度は食あたりなんかでじゃない。

いきなり吐血したらしい。

正真正銘、癌の兆候だ。


意識もあり大丈夫とのことだったのだが、いてもたってもいられなくなり、

俺は教室を飛び出した。


顔に気持ちが出てしまったのだろう。

俺が言いよどんでいると、コータさんは言った。


「今どこにいる?送ってやるから」

「でも・・・」

「早く乗れ!統矢さんには言わないから!」


背に腹は変えられない。

俺は助手席に飛び乗った。


覚悟を決めて実家の住所を告げると、


「新幹線の方が早いか・・・」

「でも、新幹線の駅から1時間以上かかるんです」

「じゃあ、やっぱり車だな」


と言うやいなや、車を発進させ華麗なハンドルさばきで車を高速の入り口へと向かわせた。



車だと高速で飛ばして2時間ちょっと。

長いドライブになりそうだ。



「何があったんだ?」

「・・・母さんが倒れたんです、癌なんです」

「な!?おまえ、こないだ、元気だって言ってたじゃないか!」

「・・・」


コータさんの顔が青くなる。


「ひどいのか?」

「いえ、まだ初期なんで。手術すれば助かるらしいんですけど」

「・・・そうか・・・」



俺は窓の外の流れる景色をぼんやりと見つめていた。



高級車らしくとても静かな車だ。

だが、そんな車のエンジン音すらうるさく聞こえるくらい車内はしんとしていた。

どれくらい経っただろう。コータさんがふいに口を開いた。



「蓮、おまえさあ」

「はい」

「アソコにホクロあるだろ?」

「はい?」


アソコってどこ?って、アソコだよな。

ある。確かに。


「なんでそんなこと知ってるんですか」


俺がふくれっ面で訊ねると、コータさんはいかにも楽しそうに肩を震わせた。

こんなときに何言ってんだこの人は。



「全然父親らしいことしない統矢さんの代わりに、

誰が赤ん坊のお前のオムツ変えたり、ミルクあげたりしてたと思ってんだよ」


え?

なんだよそれ?

この人、赤ん坊の時の俺を知ってんのか!?


俺が眼をぱちくりしていると、コータさんは深々とため息をついた。


「お前、母親から昔のこと全然聞いてないんだな」

「はい、聞いてません」


そういいながら、俺は唐突にあることを思い出していた。


俺のアルバム。

母さんがこつこつと作っている。

その一番初めのアルバムは、俺が生まれた時からたぶん10ヶ月になるくらいまでの

写真が集められたものだ。


出産直後や、お宮参り、お食い初め、初節句・・・最後はクリスマスイブの東京ディズニーランド。


どの写真にも父親らしき人物は写っていない。

それどころか、写真の背景はどれも俺の知らない所だ。


昔から、「赤ん坊の頃は、俺は他の所に住んでたのかな」と思っていたが、

大して気にも留めず母さんにも訊ねたことはなかった。


そしてその最初のアルバムの写真の何枚かに、これまた見知らぬ高校生のお兄ちゃんが

写っているのだ。

一緒に写っている赤ん坊の俺の表情を見る限り、かなり懐いていたようだ。


その高校生の顔を思い出してみる。



「もしかして・・・写真の高校生って、コータさん!?」

「写真?」

「俺が赤ん坊の頃の写真」

「ああ、俺だろうな、たぶん」



それからコータさんは、18年前、廣野家で起こったことを話し始めた。











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