表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
18years  作者: 田中タロウ
109/109

第5部 第22話

「ねえ、何乗る?」

「・・・うん」

「でもどれも凄い並んでるよね。どうしよっかなー」

「・・・うん」

「ちょっと、蓮!聞いてる!?」

「なあ、サナ!寒くないかな?風邪とか引いたらどうするんだよ・・・」


そう言って俺は振り返った。

そこには、組長と母さんとベビーカーに乗った桃夫。

今日ばかりはお付きも護衛もいない。


「全く。なんだかんだ言って、蓮はすっかり桃ちゃんにメロメロね」

「だって、まだ生まれて4ヶ月くらいしか経ってないんだぞ?

それなのに、こんな寒空の下に連れ出したりして大丈夫かよ?」

「私は寒さよりも、あんなにモコモコにされて汗かいてないか心配よ」


確かにモコモコだ。

肌着とかを何枚も着込んでる上に、一番上には分厚いピンクのコート。

もはや人間なんだかヌイグルミなんだか定かではない。

桃夫も迷惑そうだ。



ここはクリスマスイブのディズニーランド。

平日なので家族連れは少ないが、カップルの多いこと、多いこと・・・

まあ、俺とサナもそのうちの一つだけど。


組長と母さんと桃夫は、周りからどう見えるんだろう。

ラブラブな新婚さんなんですよー!と言いふらしてみたい。


それにしても。

ヤクザの組長がディズニーランド・・・

しかもクリスマスイブ・・・

3日は笑える。





サナから、組長がディズニーランドに行くと言っていると聞いた俺は、

組長のところへすっ飛んで行った。


「でぃ、でぃずにーらんど!?なんだそりゃ!?」

「お前はディズニーランドも知らないのか?」

「知ってるに決まってんだろ!なんでアンタとそんなとこに行かなきゃいけないんだよ!」

「誰がお前と行くと言った。ユウと桃とに決まってるだろ。ついでにサナも連れて行こうと思ってな」

「おお、行って来いよ」


が。

サナが「じゃあ、いってきます」と言うわけもなく、

当然のように俺もかり出された。


そりゃ俺だってサナと二人なら、ディズニーランドも楽しめるさ。


何が悲しくて、自分の母親と、それに18年生き別れていた父親と一緒に

ディズニーランドにこないといけないんだ!

しかも20歳も年下の生まれたての妹・・・じゃなかった、弟まで!


「第一、桃夫はまだ何にもアトラクションに乗れねーじゃん」

「乗れなくったっていいじゃない。ディズニーランドって雰囲気だけでじゅうぶん楽しいもん」


ね!と言って、サナが俺の背中をポンと叩いた。


「いってええ!!!」


俺は思わず大声を出してしゃがみこむ。


「あ!ごめん!大丈夫?」

「だ、大丈夫じゃない・・・サナ、俺を殺す気かよ・・・」

「ごめんってばー。刺青のこと忘れてた」

「いてえ・・・」


俺の背中には今、見事な虎の刺青が入っている。

完成まであとわずかだ。

藤城さんが、なんとか成人式までに間に合わせたいと頑張ってくれてる。

でも、そんな急ピッチで彫られてる俺はたまったもんじゃない。

彫られてる最中は麻酔で大した痛みはないけど、

麻酔が切れた後はもう・・・


今では俺もすっかり「うつ伏せ睡眠組」の仲間入りだ。


組長の罠にまんまとはまり、廣野家へ引越して早2ヶ月。

(「保健室攻撃」の逆襲だな・・・)

組員と生活しだしてわかったが、

背中に刺青が入ってる奴のほとんどは、組長や俺のようにうつ伏せで寝るクセがついている。

みんな個室だから並んで寝ることはないけど、

一度、大広間で枕を並べてみたい。

ズラッとうつ伏せに寝るヤクザ達・・・

なんか笑えるぞ。


サナの左肩には既に立派なヒマワリが完成している。

小ぶりだけど堂々としていて、

その花びらの細かさに目を奪われる。

よくこんな細かく彫れるもんだ。

サナもよく耐えたと思う。


母さんの刺青は桃でも蓮でもない。

肩から肘にかけて纏わり着くような龍の刺青。

えらく男前な刺青にちょっとビックリした。

「前の組長の刺青が龍だったの。かっこいいなあ、って思ってたからこれにしたの」

とのこと。

母さんの龍も小ぶりながら力強い。


そんな刺青一家でクリスマスイブにディズニーランド。


「なんか、キリストもミッキーも冒涜してる気がする・・・」

「何言ってるのよ。この日にここに来ることに意味があるんでしょ」

「・・・」


わかってる。

19年前のクリスマスイブ、組長と母さんはここで別れた。

そして18年間、別々の人生を歩んできた。


組長も母さんも、ここからもう一度始めたいのだ。

桃夫と一緒に。


「蓮も一緒に、よ」

「・・・何を今更」

「19年前の今日、蓮もここにいたんだよ?もう一度、ここからスタートしたらいいじゃない」

「何を?」

「第3の人生」

「第3の人生?」

「蓮は生まれてから11ヶ月、廣野家で過ごした。それが蓮の第1の人生」


そう言ってサナは人差し指を立てる。


「おばさんが蓮と廣野家を出て、お父さんと別々に18年を過ごした。それが第2の人生」


今度は人差し指に加え、中指を立てる。


「そしてお父さんとおばさんが結婚して、桃ちゃんという妹も生まれ家族が増えた。

それが今から始まる蓮の第3の人生よ」


最後に薬指を立てる。


「いつ第4、第5の人生が始まるかわからないんだから、しっかりと第3の人生を満喫しなきゃ!」

「サナってなんでそんなにポジティブシンキングなんだ」

「だって、悩んでても笑ってても、人には同じ時間が流れていくんだから。

それだったら笑って楽しく過ごした方がいいじゃない?」


そう言うと、サナは俺の手を取り歩き出した。


「と、言うわけで、時間がもったいないから、私たちだけでもどんどんアトラクションに乗ろう!」


俺は苦笑しながら、組長達の方を振り返った。



組長はぼんやりとシンデレラ城を見上げている。

母さんは、そんな組長の横でただニコニコとしている。

桃夫は二人の間で、今にも夢の世界へ旅立ちそうだ。



母さんは、

19年前のクリスマスイブ、組長が約束を思い出してここに駆けつけてくれた、

と、言っていた。


結局それが二人の別れになってしまったけど、

俺はほんの少しの間でも、

組長と、

いや、

父親と母さんと3人でここにいたんだ。


その時、母さんは幸せではなかったかもしれない。

今みたいにニコニコしてなかったかもしれない。


でも・・・

今の3人みたいに、こうしてここにいたのだ。



そう思うと、なんだか不思議な気分になった。


今、確実に幸せな二人に挟まれている桃夫がちょっとうらやましくなった。



・・・ほんと、何を今更、だけどさ。




左隣で嬉しそうに笑っているサナを見る。


俺もいつか、サナと子供と一緒にここに来よう。

それが俺の第何回目の人生に起こることかは分からないけど、

その時は、あの二人以上に幸せになっていよう。




ふと、母さんが組長の腕に触れ、空を仰ぎ見た。

組長も上を向く。





フワフワと白い雪が降ってきた。






――― 18years 完 ―――




9月から5ヶ月に渡り連載してきました「18years」、

ようやく、完結を迎えることができました。いかがだったでしょうか?

最後まで読んでくださった方、また、お気に入り登録してくださった方、本当にありがとうございました。

「18years」はタロウが初めて人に見せる用に書いた小説で、拙い部分も多々あったかと思いますが、ご容赦ください。

「18years」には、今のところ番外編として、時代順に、

「新しい人生」「白雪姫」「SECOND LOVE」「2days」「TRY」「これからも、ずっと・・・」「MSKプロジェクト」

の7つの小説があります。純粋な番外編から、本編に近いもの、シリアス、コメディーと種類は色々ですが、ご興味があれば是非ご覧ください。

また、現在連載中の「先生の彼女」はコータの兄の物語です。

こちらもよろしくお願いいたします。

「18years」の続編は・・・考えてはいますが、タロウに書くだけの余力と時間があるかどうかにかかっております・・・

もし、読んでみたいという方がいらっしゃれば、できるだけお応えしたいと思います。

長い長い小説にお付き合い頂き、本当にありがとうございました。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ