第5部 第21話
この屋敷は、組員の家族は立ち入り禁止のはずなのに、
特例のサナはともかくなんで美優ちゃんがいるんだ。
「蓮がここに引越したって聞きつけて会いにきたんだって。駅で出くわしちゃったわ。
門のところで『蓮に呼ばれて、サナさんと来ました!』って言い張って、
私にくっついて入ってきちゃったの」
「・・・相変わらずいい度胸だな」
仕方なくサナと美優ちゃんを俺の部屋につれていくことにした。
この3人で何を話せというのか。
俺の心の叫びが聞こえたのか、
ただ単に美少女・美優の尻を追いかけてきたのか、
アルファ、ベータ、ガンマもついてきた。
かくして6畳間に
ヤクザ3名、
ヤクザか堅気かよくわからないの1名、
若大将1名、
リーサルウェポン1名
合計6名という高密度で、
サナが土産に持ってきたシュークリームを何故か食べることになった。
「おい。その子誰だよ?」
ベータが俺をつつく。
あれ。知らないのか。
いっそ、組長の隠し子だって暴露してやろうか。
でも色々と後が怖いからやめておこう。
「この子は、コー・・・」
そう言いながら美優ちゃんの方を見て・・・
言葉が続かなかった。
おーい、美優ちゃん?
どこ見てる?
さすがにサナも他の3人も美優ちゃんの異変に気づいた。
その視線の先は・・・
何故かアルファ。
「み、美優ちゃん?」
俺の声も耳に入らないようで、頬を赤くして、
ポカンとアルファを見つめている。
こ、これは・・・
アルファもこんな美少女に見とれられて悪い気はしないだろう。
照れながら頭を掻いてる。
アホらしくなった俺達は、二人を1畳の中で向かい合わせに座らせて、
放置することにした。
「・・・」
おー、うまいな、このシュークリーム。
「なんか、機嫌悪いわね、蓮」
サナが意地悪い笑顔で俺を見る。
「別に」
「あはは。振られたわね」
「振られてねーし」
「何?蓮、二股かけてたのか?」
「そうなのよ、ひどいでしょ?」
「蓮、怖いもの知らずだな。若大将がいながら他の女に手を出すとは」
「出してねーし」
「ちょっと、ガンマさん。『若大将』ってやめてよね」
なんだよ、なんだよ。
美優ちゃんの奴。
俺に一目惚れして、1年近くも追っかけ回してたくせに、
いきなり乗り換えるのかよ。
しかも、初めて俺に会った時と、明らかに態度が違うし。
なんか借りられてきた猫みたいだ。
・・・俺もこれで解放される訳だからさ、
別にいいけどさ、
てか、むしろ嬉しいけどさ。
ふん。
「蓮、相手がアルファだから余計に面白くないんだろ」
「なんでだよ、ガンマ」
「だって、アルファってコータさんの弟分だし組長もかわいがってるからさ。
蓮にとってはたださえでも目の上のたんこぶ、って感じじゃん?
そのうえ彼女まで取られて。そりゃおもしろくないよなー」
「別に」
ふん。
「アルファさんて、コータさんの弟分なの?」
「うん。コータさんが大学生の時、小学生のアルファを組長が拾ってきたらしい。
んで、コータさんがアルファの面倒を主に見てたんだってさ」
「へえ。残念ね、蓮」
「何が」
「また、強がっちゃって」
ふん。
3人には、美優ちゃんのことは、俺とサナの友達とだけ紹介し、
苗字はふせておいた。
ここで「コータさんの娘」と知れば、さすがにアルファも尻込みするだろう。
兄貴分の娘だからナ。
美優ちゃんも、色ボケになりながらもその辺は心得たもので、
俺に話を合わせた。
「蓮ってモテるんだなー。若女将といい、美優ちゃんといい、白雪ちゃんといい。
あ、でも美優ちゃんには振られたか」
「だから、振られてない」
「だから、若女将じゃない」
二人同時に突っ込みながらベータを睨む。
「それに俺、別にモテないし。その3人は珍獣だから変わった趣味してるんだよ」
「確かに」
「うんうん」
「シュークリーム没収」
「「ごめんなさい」」
お、なんだ?ベータもガンマも、俺と一緒で甘党か?
「そういや、若大将。この前、誕生日だったんだって?オメデトウ」
「若大将じゃないけどね、ガンマさん。アリガトウ」
「蓮に何もらったんだ?」
「物はもらってないけど、沖縄に連れて行ってもらったわ」
「・・・連れて行った、って言ってもサナの旅費は組長が出しただろ」
「じゃあ蓮は何もやってないのか?うわー、最低」
「だって、サナが何もいらないって言うから・・・」
「女がそう言っても、こっそり準備しとくんだよ、普通」
「・・・」
そうなのか?やっぱり?
コイツらに教えられてるようじゃ、俺も全然まだまだだな。
「ううん、本当に欲しい物がないからいいの」
「随分殊勝じゃねーか、若女将」
「浮世離れしてるな、若大将」
「おとうさーん!」
「「またまたごめんなさい」」
「よろしい」
ふんっとサナが威張る。
「・・・蓮はね、本当に昔からモテたのよ」
「は?そんなことなかったぞ?」
「そりゃ、蓮の側にはいつも私がいたからね。他の子は近づけなかったのよ。
でも、蓮のことを好きな女の子はいっぱいいたわ」
「へー」
俺を含め、男3人が声を上げる。
ちなみにアルファと美優ちゃんは、すっかり別世界へお散歩へ出かけている。
「その女の子達は、自分の誕生日に蓮と一緒にいたくても、いられなかった。
でも私は蓮と一緒にいたい時はいつでもいれたでしょ?
蓮のことを好きな女の子達から、いつも凄く羨ましがられたわ。
だから一緒にいられれば、じゅうぶん」
「・・・」
「若女将って、意外と純情なんだな」
「そんなんじゃないわ。ただ、一緒にいたくてもいれないことってあるでしょ?
蓮のご両親みたいに。一緒にいたい人と一緒にいたい時に一緒にいれるって、
凄く贅沢なことなんだと思う」
サナ、そんなこと考えてたのか。
そうとも知らず、俺はただ「サナは物欲ないなー」とか思ってた。
サナにとっての最大の「物欲」は俺だったのだ。
だからサナの「物欲」は既に満たされている。
そういう風に考えるなら、俺の「物欲」もじゅうぶん過ぎるくらいに、
満たされている。
組長と母さんも、そうだ。
だから母さんは組長に指輪の一つもねだらない。
「あ、そうだ。蓮のご両親と言えば」
サナが俺の方を向いた。
「お父さんがね、クリスマスイブにディズニーランドに行こう、って言ってたわよ」
はあああああ!?




