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18years  作者: 田中タロウ
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第5部 第18話

「えっ?拳銃で撃たれて死んだ?」

「そうだ。いかにも、極道の女って感じの死に方だよな」


なんだ、それ。

初耳だ。

そもそも、俺は母さん以外、親戚とかがずっといなかった。

だから今更、俺のおばあさんはもう死んでる、と言われてもビックリもしないが、

拳銃で撃たれたって・・・

現実なのか、それ?


「統矢さんのお母さんは元々他の組の幹部の娘だったんだ。生まれも育ちもヤクザ、って言う、

組長の妻にはもってこいな人だったらしい。人格的にも申し分なかったってさ」

「・・・」

「ネェちゃんは堅気の世界で普通に育った女だけど、自分でここの女中になるって決めたんだ。

そしてこの組のことを好きになった。次期組長とわかっていて統矢さんのことも好きになった」

「・・・」

「でもサナちゃんは違うだろ。普通の男である蓮のことを好きになって、今までついてきた。

で、急にお前がヤクザの息子であることがわかった。

しかも廣野組なんて大きなヤクザの組の跡取りだ」


コータさんが一息つく。


「まさか蓮が、統矢さんみたいに女関係で問題を起こすとは思えないけど、こんな世界だからな。

いつ何があるかわからない。統矢さんの母親みたいなことだってある。

サナちゃんはその辺のことわかって、刺青を入れていいって言ってるのか?

お前は、サナちゃんと自分が結婚したら、彼女がどういう立場の人間になるかわかってるのか?」

「・・・」



大輔さんが別れ際に言った「サナちゃんを大切にしろよ」という言葉を思い出す。

あれは、きっとこういう意味だったんだろう。



考えたことがなかった。


俺にとって、サナはサナでしかなくって、

俺と結婚したら、普通の奥さんになって普通に一緒に生活していくもんだと思ってた。


廣野組の跡取りになるとかならないとかの話が出たとき、

俺の人生、どうなるんだろう?と思った。

組長なんかになったら、もう普通の社会人として生活できないじゃないか!とも思った。


でもそれとサナとを結びつけたことはなかった。

俺は、俺の妻としてのサナしか想像したことがなかった。


だけど、俺が組長になるってことは、当然サナは組長の妻だ。

「俺に組長なんて務まる訳ない」って不安はずっとあった。

でも「サナに組長の妻が務まるか」なんて考えもしなかった。



俺は・・・

自分のことしか考えてなかった。


サナはどう思ってるんだろう。

何も考えず、昔のまんま、ただ単に俺と結婚したいと思ってるんだろうか?

それとも・・・





コータさんが帰った後、

俺は一人でベッドに寝転んで考えた。


でも、考えはしたけど悩みはしなかった。


サナを危険にはさらしたくない。


じゃあ、サナと別れてそれこそ美優ちゃんみたいなヤクザの女と結婚するか?

それとも廣野組とは完全に縁を切ってサナと結婚して普通に暮らすか?


そんなの悩むまでもないじゃないか。


俺は、布団をかぶると、そのまますぐに眠りについた。






「蓮ー?いる?」

「・・・サナ?」

「あれ?もう寝てたの?まだ11時よ?」

「うん・・・」


ぼんやりする頭をなんとか回転させ、自分がコータさんの部屋にいることを思い出した。


「どうした?」

「見て、これ!さっき藤城さんが持ってきてくれたの!」


そう言って、ヒマワリのデザイン画を数枚広げた。

相変わらず素晴しい。

しかも、俺の虎とは違い、バリエーションも豊かだ。


種の部分が大きいコミカルなもの

花びらが強調された力強いもの

ゴッホのヒマワリのようにどこか恐々としているもの

しっとりとした和風のもの


本当にどれも凄い。

だけど・・・


「凄いよねー!どれにしよう?悩むなぁ」


サナは無邪気に笑う。


「蓮は、どれがいいと思う?」

「・・・」

「私はこれがいいかなあ。この力強いやつ。

こういう感じのじゃないと、蓮の虎と並んだとき貧相に見えそうじゃない?」

「・・・」

「蓮?どうしたの?」


黙りこくる俺に気づいたサナは心配そうに俺を覗き込む。


「眠いの?疲れた?ごめんね、明日にしようか」


そう言ってデザイン画をかき集めた。


「じゃあね、おやすみ」

「サナ」

「何?」

「やっぱりいいよ。刺青。入れなくていい」

「・・・どうして?」

「俺、廣野家とは縁を切る。だからサナも刺青なんて入れなくていい」

「急にどうしたの?何言ってるの?」


サナが顔をしかめる。


「サナを極道の女にしたくないんだ」

「極道の女?」

「俺がもし組を継いだら・・・いや、継がなくても、俺が廣野組の人間である限り、

俺と結婚したらサナは極道の女だ。そんなのイヤだ」

「・・・」

「いつ何があるかわからないし」

「蓮のおばあさんみたいに?」


え?


「知ってたのか!?」

「ええ!?」


サナが驚いた顔をして、そしてすぐに笑い出した。


「あははは!私、蓮のおばあさんのことなんて、ずっと前から知ってるわよ?

蓮、知らなかったの?変なのー!」

「・・・」


俺は呆然として笑い転げるサナを見た。


「なんで知ってるんだよ?」

「お父さんをね、初めておばさんのとこに連れて行った時。

ほら、私が蓮に相談せず、実家の近くの病院に勝手に連れて行った時よ。

あの時、病院に向かう車の中で、お父さんが話してくれたの」

「・・・」

「お前は蓮と付き合ってるのか?蓮と結婚するのか?

蓮なんかと結婚したらお前は立派な極道の女だぞ。

それどころか蓮は組の跡取りだから、組長の妻になるんだぞ。

覚悟はできてるのか?

俺の母親は銃で撃たれて死んだんだぞ。

それでもいいのか?」

「・・・」

「って、散々脅されたわ」

「・・・それでなんて答えたんだよ?」

「別に」

「へ?」

「そうなんですかーって」

「・・・」

「そんなこと聞いたからって、気持ちが変わる訳じゃないし」

「・・・組長はなんて?」

「なんて言ってたかな。ああ、そうそう。

『お前、ユウみたいなやつだな。だから蓮はお前に惚れたのか。ただのマザコンじゃないか』って」

「・・・」

「まあ、殺されちゃったら蓮と結婚したこと後悔するかもね。天国で散々愚痴っとくわ」


それが何か?という顔でサナが俺を見る。


「ねえ。このヒマワリでいいよね?明日オバサンと一緒に早速入れに行くんだー。

蓮も行く?でも入れてるとこ見たら、自分が入れるの怖くなっちゃうかもね」

「サナ・・・」

「何?」

「やっぱ、お前凄いな」


そう?と、サナは笑った。




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