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華国2

レーダーに映る十五の光点。


その一つ一つが艦を沈めるだけの能力を持っていた。一機につき、対艦ミサイルは二発搭載しているはず。ならば、少なからず三十発撃ち落とせばいい。


CICの中央モニターに映し出されている画面を見つつ、護衛艦『ちょうかい』艦長の白木一佐はそう考えていた。試験艦『あすか』を守るため臨時編成された艦隊。その指揮を白木は任されていた。この海域にいる唯一のイージス艦の艦長としても、その責務は重いものがあった。


しかし、その重圧に負けるわけにはいかない。プレッシャーを握りつぶし、


「これより本艦隊は敵ミサイルを迎撃すべく対空戦闘に入る!『ちょうかい』は長、中距離のミサイルを迎撃、『すずつき』は中距離のミサイルに専念。『さみだれ』は短距離のミサイルを迎撃しつつ、対潜警戒。『あすか』に一発のミサイルも通すな!」


各艦に通じるマイク。それを握り指示を出した。大まかであるが防衛体制の命令、それを聞き、全隊員が即座に行動を始める。


その時、


「電測。敵編隊、三方向に散開。全て五機編隊。本艦隊の前方及び右舷、後方より接近。」


レーダー画面を凝視しつつ、電測員が事務的な口調で報告を飛ばしてきた。数人は焦りの表情を浮かべたが、『ちょうかい』の砲雷長は動じなかった。


「了解。『ちょうかい』砲雷長より各艦に達す。本艦隊前方の敵編隊をa群、右舷をb群、後方をc群と呼称。統制する。迎撃については、先の指示と変わらず。オーバー。」


CICの中央モニターに映る散開した光点を見、即座にヘッドホン式の無線機に口を開いた。


それから数秒、各艦から了解の旨が届く。静まり返るCIC。誰もが息を殺していた。矛を放つことを許されない狩られる側の立場。獣は、はるか空の上にいる。ここにいる人の息遣いなど聞こえる訳もない。


だが、全員が浅い息をしていた。これが生物としての本能なのか。この時、客観的にモノを見れる者は皆無だった。ただ、目の前の任務に全神経を集中させていた。


「c群より小型目標分離。高速で近付く。数六。対艦ミサイルが発射された模様!」


訓練より遥かに早く報告出来ていた。電測員は早口で言い終った後、そう感じた。

しかし、感じた彼の額には汗が流れていた。左腕で軽く拭い、再び画面に視線を戻す。


「数六、了解。長距離につき『ちょうかい』が迎撃する。二艦は撃ち漏らしに警戒。」


来た。実戦だ。早まる鼓動を抑え、『ちょうかい』の砲雷長は反射的に指示を出す。

そして続けるようにして、


「対空戦闘。SM2攻撃始め。発射弾数六。目標、敵ミサイル。」


冷静な口調で射撃管制員に指示を飛ばした。瞬時に発射態勢が整えられる。


「砲雷長、前部VLA、SM2発射用意良し!」


指示から間もなく、射撃管制員から報告が届いた。刹那、


「発射始め!って!」


レーダーに映る敵ミサイルを見つつ、砲雷長はその一言を言い放った。直後、『ちょうかい』の艦体前部から火柱と白煙が立て続けにあがった。


それと同時に、発射に伴う振動が艦体を揺らした。それを体で感じつつ、


「SM2の発射、正常飛行が確認されたならばコース再確認。管制員は次弾発射に備えよ。」


表情一つ変えることなく砲雷長は指示を送る。

受け取った海曹海士らは命令を行動で応えらるよう奮闘していた。やらなければ死ぬ。その思いがプラスされたことで、艦は一つになっていた。


「六発全弾迎撃。」


発射から30秒弱。再び電測員から報告が飛んできた。

その内容に、砲雷長は安堵から軽く息を吐き出した。しかし、まだ戦いは始まったばかりだ。

そう自らを律し、


「見張り員及び電測員の両方で迎撃したミサイルの数を掌握。電測、状況!」


今出来る最善を尽くす。その軸を持ち、指示を飛ばす。


「c群、旋回中。a、b群依然動きなし。本艦隊と距離をとり滞空中。」


レーダーから視線を逸らすことなく、電測員は報告の声をあげた。

しかし、砲雷長はその内容に眉をひそめた。


それは、砲雷長の隣席に腰を降ろしている艦長も同様だった。


「こちらの能力試しか?」


三方向からの同時多発的な攻撃ではなく、一方向からの攻撃。

不信感から艦長は、砲雷長にそう問い掛けた。


「分かりません。しかし、本艦がイージス艦であることは、敵も承知済みの筈です。能力を試す意味がない。」


思考を巡らしつつ、砲雷長はそう答えた。その時だった。


「本艦四時方向!小型飛行目標!距離5000!ミサイル!数2!低空接近!」


突然、電測員が焦燥感の隠せない表情で口を開く。距離5000では、手段がない。


血の気が引く思いに、全員がかられた。


だが、


(『すずつき』、『さみだれ』、CIWS射撃中!)


艦内スピーカーから、その声が聞こえた。艦橋からの報告だった。そして、


(ミサイル迎撃。爆発閃光視認。)


救われた。


すぐさま入ったその内容に砲雷長は深く息を吐いた。


「電測!低空の敵も見逃すな!」


安堵しながらも、砲雷長はそう叱咤した。しかし、


「ですが、砲雷長。レーダーには遠方に十五の機影、低空で撃ちようがありません。」


報告が遅れたと思われた海曹は思わずそう反論した。


「見えない敵機が・・・。」


その意見に答えようと砲雷長は口を開いたが、自身の言葉に詰まるものを感じた。

同時にとてつもない恐怖感が彼を襲った。考えついた最悪の状況、しかし現状にあてはまる条件はいくつもあった。的中しないでくれ。そう願ったが、次の報告は、それを確信に変えるものだった。


「本艦二時方向!ミサイル!距離15000。数1!低空接近!」


またか。その空気がCICに流れる。ミサイルだけが感知され、それを放つ本体が分からない状況。

しかし、今はミサイルを墜とすことだけを考えなければならない。


「主砲攻撃始め!」


その思いから、艦長は砲雷長より先に指示を下していた。


「本艦の右60度。真っすぐ突っ込んでくる!」


主砲発射の指示。それを受け、砲術士が直ちに操作に入った。


『ちょうかい』の前部甲板に腰を据えている127ミリ速射砲。その砲身がミサイルの方向に回転を始める。そして、


「砲斉射!主砲撃ちぃ方始め!ってー!」


ミサイルの方向を捉えたのとほぼ同時に、砲術長が発射命令を下した。

直後、砲術士がトリガーを引く。


連動する形で、主砲の射撃が始まった。凄まじい発射音と同時に灰色の煙が『ちょうかい』を包む。


きな臭い火薬の臭いが艦橋を巡る中、見張り員はミサイルが来る方向を凝視していた。


やがて、連続して放たれる主砲弾は、接近してくるミサイルを捉えるに至った。

艦体のすぐ近くで爆発が起こり、見張り員らは爆風から身を守るため即座に身を低くした。


「爆発閃光視認!ミサイル撃破!」


ミサイルの破片が海上に落ちて行く中、艦橋を統率していた副長は周りの状況を見渡しつつCICにその報告をいれた。


またもや間一髪。CICは極度の緊張状態となっていた。見えない敵機からの攻撃。


レーダーは相変わらず、本艦隊と距離をとる十五機の機影を映し出しており、電測員はその画面自体を疑い始めていた。その中、


「本海域に、ステルス機がいる。恐らく空軍機。中国本土からの飛来で、空中給油を何度か繰り返している。」


額から汗を流しつつ、砲雷長は静かにそう口を開いた。艦長はその内容に絶句する。


「おそらく新型でしょう。ここまでレーダーに映らないとなれば、厄介です。撃墜も視野にいれなければならないと考えます。」


再び静まり返るCIC。構わず砲雷長は淡々とそう話した。そして、艦長に対しそう意見具申する。


だが、


「撃墜はダメだ。総理からの勅命だ。」


この現場のみならず、アジア情勢まで視野として見ている白木艦長は、認める訳にいかなかった。


そう考え、言葉を発した。その上で、


「ジャミングの使用を許可する。また、沿岸展開中の陸自に電波攻撃要請を出せ。この距離なら、海岸沿いの民間施設にも影響が出かねないが、非常時だ。ジャミング開始。」


敵の通信網を妨害することで指揮系統を分断する電波攻撃。砲雷長の言う、本土から飛んできたステルス機の予想があたっているなら、そのステルス機は特務部隊であり、一般部隊ではない可能性が高かった。


そのため、単独での任務遂行が基本であり、この電波攻撃がいかほどの効果を発揮するかは未知数だった。しかし、やるだけのことはする必要がある。そう考え、艦長は指示を出した。


それから間もなく、担当部署から準備良しの報告が入り、艦長は間髪入れることなく実施の命令を下達した。


「僚艦との通信感度が落ちます。」


ジャミング開始前、担当部署からその旨が伝えられたが、艦長は反応することはなかった。

そして、ジャミングが開始された。同時に、通信員のヘッドホンから僅かな雑音が聞こえ出した。


直後、


(CIC艦橋!本艦三時方向に飛行体墜落!詳細集約中!)


艦橋からその報告が届いた。それを聞いた面々は思わず、眉をゆがませる。


「水上レーダー目標探知。艦橋の報告と同位置。数1。小型船拍クラスです。」


続いて、電測員からその報告が入った。砲雷長は新たな予測を立てた。しかしその予測はその場にいた誰しもが立てられるものだった。それから1分弱。続報が艦橋から入った。


「CIC艦橋。続報。海上着水の飛行体は無人機の模様。」


ジャミングをしたことで、親機からの操縦が出来なくなったことがこの時明るみに出た。


よって、砲雷長が当初推測した最悪のシナリオではなかった。中国本土から飛来してきた特務部隊のステルス機。それではなかったが、無人機一機にここまで手こずることになるとは、砲雷長は新しい戦争形態に恐怖した。


「お前が思ってるより、大分お粗末だったな。」


そう考え込んでいる中、艦長が溜息をつきながらそう口を開いてきた。


「私の発言で、極度の緊張状態にしてしまったこと。申し訳ありません。」


艦長を見、砲雷長はそう謝罪した。だが、


「謝る必要はない。指揮官は常に最悪の状況を想定しなければならない。私もステルス機の予測は頭にあった。砲雷長が言ってなければ私が言っていた。もっとも、無人機の可能性も視野にいれていたがな。」


艦長も同じことを考えていた。それを知り少しばかり気持ちが楽になった。しかし、状況は決して良くはなっていなかった。依然として敵戦闘機は滞空中であり、戦闘状態は続いていた。


今のジャミング攻撃で無人機を失ったことと、敵の通信を遮断したことで幾分かの時間的余裕がとれることは確実だった。しかし、確実に今度はこの十五機全てが攻撃してくる。


艦長との会話を終え、砲雷長は再びレーダー画面に視線を戻し、そう考えていた。


「敵機の第二派攻撃来るぞ。各部、再度機器の点検及び確認作業。怠るな。」


一秒も無駄には出来ない。砲雷長は一度立ち上がり、CIC全体を見渡した上で、その指示を出した。今から再び始まるであろう激戦を前に、今一度部下の顔を見ておきたい思いもあり、彼は見渡していた。その言動に、CICの海曹海士らは勢いの良い返事をした。それを聞き、砲雷長は、


「君たちに掛かっている。頼むぞ。」


仁王立ちの体勢でそう口を開き、言い終るとゆっくりと席に腰を降ろした。そして自身も各種点検作業に入り出す。


その直後だった。再び電測員が敵機接近の声をあげたのだった。


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