償い
更新が半年以上遅れ、申し訳ありませんでした!
いよいよストーリーも後半戦に入ります!
「目標への効果認めず!尚、現在までの使用弾薬300を超えています!」
「『あきづき』より緊急。残弾なし。海域の離脱許可を求めています。」
『いずも』の作戦指揮所内で報告や、それに伴う指示が飛び交う。生物に対する有視界戦闘開始から50分が過ぎようとしていた。
幾多にも及ぶ命中弾の報告。しかし生物の進行速度には変化はみられなかった。刻々と過ぎて行く時間。各人の持つ腕時計の秒針が動く度に、そのプレッシャーが彼らを押し潰していた。
(上陸予想時刻まで75分。)
どうにか生物の上陸を阻止せんと、幹部要員らが奔走するが無駄な動きであった。
艦内オールの通信で、事務的な報告が耳をざわつかせる。その中、
「『こんごう』より入電。スパイ対空目標探知。90度距離2000。IFF、入間C1一機、本艦隊及び、進行中の敵目標に対し接近中。」
指揮所の一角で、二等海曹の階級章を付けた中堅隊員が不意に報告をあげた。
「C1?」
その報告に二等海佐の階級章を付けた佐官は眉をひそめた。
「はい。そのように報告があがってきています。」
ロシア機の再来か。二等海佐の佐官はその考えが頭をよぎり、
「各艦に対空戦闘用意の下令準備を。」
空自機の識別信号を奪った敵機かもしれない。警戒心から、その二等海佐は報告をあげる前にそう指示を出した。しかし、
「構わん。作戦が第二段階に移行したということだ。」
海将補の階級章を付けた将官が話に入ってきた。虚を突かれた形となった佐官は戸惑った表情を見せたが、冷静を保ち、
「第二段階ですか?」
恐る恐る問い掛けた。それを聞いた将官は頷き、
「あぁ、生物を攻撃地点まで誘導する。艦隊の仕事は終わったということだな。」
無力だった。そう思わせる口調で、力なく口を開いた。
「司令官には私から報告する。」
佐官の肩を軽く数回叩き、その将官はその場を後にした。
「C1?作戦第二段階?」
海将補の階級章を付けた将官の報告に、湯元は思わず聞き返していた。
周囲の幕僚からも声が漏れる。
「はい。C1の投入は、統幕の計画した作戦の第二段階移行を示しております。」
幕僚らが眉を潜ませる中、海将補の将官は怯まず淡々と説明をした。しかし、
「私は聞いていないぞ。大体、輸送機を使って生物をわざわざ陸地に招くなど、正気の沙汰ではない!」
艦隊幕僚の一人が不意に声を荒げた。それを皮切りに司令部幕僚らも批判の声が上がり始めた。
「確かに。既に本艦隊は作戦行動を実施している。今更作戦の変更など出来る訳がなかろうが!」
「艦隊は突入している!ここで反転など!言語道断ではないか!」
自衛官として、海の男として一度決めた覚悟。それを揺るがす指示に将官らは憤っていた。
「しかし、これ以上陸地に艦隊を進めたならば、生物ではなく陸自に撃たれます。」
非難が殺到する中、報告をあげた海将補は表情を変えることなく言い切った。その内容に、幕僚らは口を閉じる。
「それに加えて、これ以上の戦闘継続は不可能だと考えます。各艦の弾頭が底をつきかけています。洋上補給か、一度帰港しなければ生物への攻撃は出来ません。」
返す言葉が見つからない幕僚らに対し、海将補の将官は追い打ちをかけるように続けた。数人の幕僚が唸り声をあげる。
「では、陸自にバトンタッチするしかないということか・・・。」
先程まで熱に燃えていた湯元であったが、一変、どこか寂しげな表情で独りごちた。海将補の将官ははそれを聞き、声にならない声で応えた。
直後、
(『いずも』CICより指揮所、対空目標探知。本艦に向け接近中。IFF、厚木MH53E一機、本艦への着艦許可を求めています。)
艦内スピーカーから『いずも』砲雷長の声が響き、その旨を伝えてきた。
高級幹部らは眉をひそめた。
「厚木からヘリだ?」
艦隊司令は顔を歪め、『いずも』艦長の顔を見る。
「艦長よりCIC、着艦を許可する。尚、目的は何か?」
艦長は反応に困りながらも、CICに連絡を入れつつ問い掛けた。
(物品搬送との旨でしたが、それ以上の通達はありませんでした。)
艦長の問い掛けに、砲雷長は少し間を空けそう告げてきた。その内容に幕僚ら、高級幹部がざわつき始める。その中、
(厚木MH53E、着艦します。)
艦内スピーカーを通して、事務的な報告が指揮所に流れた。
「私が見に行ってきます。」
着艦するという内容に、『いずも』艦長は立ち上がり、そう口を開く。それを聞き、艦隊司令と湯元は頷いて返した。それを見、艦長は数人を引き連れて指揮所を後にした。
「拘束!ですか?」
厚木から飛んできた大型ヘリMH53Eから降りてきた統幕の佐官、その彼の言葉に『いずも』艦長は思わずオウム返しをした。
「はい。市ヶ谷からの命令を無視し、独断で艦隊を動かしたのは動かしようのない事実です。よって、湯元海将及び、作戦幕僚の身柄を拘束させて頂きます。」
一等海佐の階級章を付けた、海自のデジタル迷彩を着た佐官は表情を変えることなく口を開いた。
その後ろにはMPの腕章を付けた警務隊員らがおり、艦長は大人しく指揮所へ案内を始めた。
『いずも』の広い廊下。それを警務隊員らは無心で歩いていく。そして指揮所の前につき、一等海佐の佐官は閉じていたドアを勢いよく開けた。それと同時に、後ろに控えていた警務隊員らが指揮所内になだれ込んでいく。
その光景に指揮所の面々は声を失った。
「湯元海将ですね?統幕より身柄を拘束するよう指示を受けております。ご同行を。」
冷静な表情で、一等海佐の佐官は右手に持っていたカバンから、拘束するよう記された書類を取り、湯元に提示した。それを見、湯元は唸った。
「血が流れているのは現場だ!市ヶ谷の地下から高みの見物を決めておいてふざけるな!」
湯元が自らを弁解しないのを見、後ろにいた作戦幕僚の一人が弁護の姿勢を見せた。しかし、
「だからと言って独断専行をしていいという訳ではない!」
周囲にいた高級幹部を一瞥し、一等海佐の佐官は叱咤した。周囲に沈黙が広がる。
「シビリアンコントロールあってこその自衛隊だ。しかしなんだ!武官からの統制すら出来ていない!有視界戦闘は避けろという市ヶ谷からの命令を無視し、独断で艦隊を動かし隊員の生命を危機に陥れた事実は変わらない!」
続けるようにして彼は叱責をした。自分達がしてきた経緯に、嘘偽りはなく作戦に携わった高級幹部らは返す言葉が見つからなかった。
「あなた方をこれから市ヶ谷に移送します。頭を冷やしてください。今海域における作戦は終了したんです。」
俯き、反省の色を見せる高級幹部らに、一等海佐の佐官は最後にそれだけ言い残し、警務隊員に移送するよう指示を出した。




