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第七十話 いざ、進化の時ッ!!

 身体が燃える。

 内側から溢れ出した熱が全身を覆って、血肉が沸く。

 けれど、それは決して嫌な感覚ではなかった。

 お母さんの腕に抱えられているような暖かい安心感がある。

 骨が軋んだ。

 今まさに、自らの身体が作り替えられているというのが分かる。

 より強い存在として生まれ変わるために。

 目の前の敵を倒すために……!


「くッ……!」


 遠のいていく意識を、必死で繋ぎとめる。

 いつもなら眠ってしまっているところだけど、今回ばかりはそういう訳にはいかない。

 私の方を見て「待ってあげる」とばかりに余裕の表情を浮かべるタナトスの鼻を、明かしてやらなきゃ!

 もっと強く!

 もっともっと強く!

 力を求めて、身体をドンドンと新しくしていく。


「あぐァッ!!」


 最後の大波。

 全身がにわかに光り、自然と気迫の籠った声が漏れる。

 やがて体中のさざめきが収まると、どっと疲労感が押し寄せて来た。

 上手くいったか……!?

 鏡が無いので、姿の変化はよく分からない。

 まだ全身がしびれているので、力が増したかどうかもはっきりとはしなかった。


「……変わってないじゃないか」

「え?」

「見た目、ほとんど変化してないよ。強いていうなら、髪がたくさん生えたかな?」


 言われるがままに頭に手をやる。

 すると、白髪が何本か落ちて来た。

 結構しっかりと生えているようで、ふわふわとした感触がする。

 こ、今回の進化って……か、髪がふさふさになっただけ!?

 そんなァッ!!

 次の進化で、人間っぽい姿に戻れるって期待してたのにッ!!

 くぅッ……魅惑のナイスバディを取り戻すのはまだ先ってか!


「み、見た目は大して変わってないかもしれないけど! 中身は大違いよッ!!」

「ふん。まあ、やって見れば分かることだね」


 そう言うや否や、タナトスは脚にかじりついたディアナの首を引き剥がした。

 肉がえぐれて、血が溢れる。

 ほっそりとした綺麗な脚が、見るも無残だ。

 しかしそれもつかの間。

 傷口が見る見るうちに再生され、あっという間に元へ戻ってしまう。


「……あんた、最初っから自分の意志で待ってたってわけ?」

「勘違いしないでほしいね。これやると、結構痛いからさ。力尽きるのを待った方が楽だったんだよ」

「あ、そう。余裕ぶっこいて、私を進化させたこと後悔すると良いわッ!!」


 二剣を構えると、回復した体でそのままタナトスへと突っ込む。

 格上との戦いで重要なのは、とにかく勢いだ!

 手数で敵を圧倒し、攻め切るしかない。

 受けに回ってしまえばそこで負け!

 先手を取って、一気にやるのみッ!!


 次々と繰り出す剣戟。

 タナトスは短剣を取り出すと、それを片手で捌いていく。

 さっきの戦い方からして、魔法重視っぽいタイプだと思ったけど……!

 剣術もなかなかやるじゃないッ!!

 ならば、これでどうよッ!


「ファイアーボールッ!!」


 剣をいきなり手放すと、タナトスの腹に向かって掌打を食らわせる。

 そしてそのままファイアーボールッ!!

 超至近距離で放たれた一撃は、華奢な体をふわりと浮かせた。

 隙ありッ!!

 残された剣で首筋へと切りつける――!


「いま、勝ったって思った?」

「どうせ首切っても、あんた生きてるでしょ」

「そう、少しぐらいは喜んでくれると嬉しかったんだけどね。じゃ、今度はこちらから」


 タナトスは受け止めた剣をはじき返すと、そのまま後ろへと飛びのいた。

 そして短剣を納めると、すぐさま顔の前で手を交差させる。

 その途端、指と指の間に次々と黒い球が生じた。

 げ……ッ!!

 あれでまとめて攻撃するつもりかッ!!


「黒連弾ッ!!」

「ちィッ!!」


 即死級の闇魔法を、指先から次々と吐き出してくる。

 こんな場所でこんなの撃たれたら、避け切れないじゃないッ!!

 ひとまず穴に沿って走り出すが、弾は容赦なく私を狙ってくる。

 どうやらこの弾、私を追いかけてくるみたいだッ!!

 それなら、こうしてやるわよッ!!


「とりゃッ!!」

「わッ!!」


 いきなり方向転換すると、タナトスに向かって跳ぶ。

 私を追いかけていた弾もまた、進路を変えた。

 自分に突撃してきた敵と魔法弾を前に、タナトスはすぐさま防御魔法を展開する。

 流石に戦い慣れしているのか、実に素早い対応だ。

 でも、それがいけないのよッ!!


 私はタナトスの後ろへ回ると、彼女を盾代わりにして魔法弾を凌いだ。

 そして防御魔法を使った直後で硬直している彼女の背中を、思いっ切りどつく。

 体重の軽い彼女は、その衝撃に耐えられずにバランスを崩した。

 これが、防御魔法の弱点だ。

 体重が重くなるわけではないから、重装備じゃないと衝撃で吹っ飛ぶことがあるのよね!

 タナトスはそのまま、穴の中へと真っ逆さまよ!


「しまった! ……なんてね? この穴は落ちても――」

「甘いッ!!」


 やはり何らかの仕掛けがあるのか、穴に落ちても余裕のタナトス。

 けれどその直後、私は天井に向かってファイアーランスをぶちかました。

 魔法弾の衝撃で脆くなっていた天井の中央部は、その攻撃に耐えられずにあっさりと崩落する。

 ズガガンッと重苦しい音と共に、無数の岩が穴へとなだれ込んだ。

 その勢いと来たら、ちょっとした土石流のようだ。


「砕き切れないッ!!」

「岩を抱いてマグマに落ちなさいッ!!」

「クソッ!! 低級魔族なんかにッ!!!!」

 

 恨みの籠った声を上げながら、遥か穴の下へと消えていくタナトス。

 その声も次第に小さくなっていき、やがて完全に消えた。

 恐る恐る穴を覗き込み、彼女の姿が見えなくなったことを確認すると、大きく息をつく。

 ……勝った!

 安堵感と同時に、押し殺していた疲労感が押し寄せてくる。

 剣をその場に置くと、よろよろと膝をついた。


「はあ、はあ……」

『シース、やったのですよ!』

「ええ! あとは、ディアナを回収するだけね」


 ディアナの頭が転がっている場所を確認すると、すぐさま取りに向かう。

 すべての力を出し切って、疲労の極致にあるのだろう。

 その瞳は閉じられ、荒い息が漏れている。


「ディアナ、大丈夫?」

「ん? あ、ああ……シース、後ろだッ!!」

「え?」


 嫌な予感がして、言われるがまま即座に振り向く。

 するとそこには――黒い翼を生やした、タナトスの姿があった。


「さっきはよくもやってくれたね。翼を出したせいで、お気に入りのドレスがボロボロじゃないか」

「くッ……! 翼があったなんてね……ッ!」

「仮にも真祖と呼ばれる吸血鬼だよ、そう簡単に殺せると思ってもらっちゃ困るね。さて。ちょっとヤバかったし、今度は本気でやるとしようか」


 そう言うと、タナトスは両手を高く掲げた。

 掌の上に黒い球が生じて、みるみるその大きさを増していく。

 風が唸りを上げて、球へと吸い込まれ始めた。

 さっきぶつけてきた小さな球とは、込められた魔力の桁がまるで違う。

 こんなの受けたら、私どころかこの部屋丸ごと吹き飛ぶわよ……ッ!!


「げッ……! 大人げないぐらいマジだわこれ……ッ!」

『シース、どうするのです!?』

「こうなったら穴に飛び込んじゃいたいところだけど、タナトスに塞がれてるし……! ダメ、祈るしかないッ!」

「お、おいッ!?」


 精霊さんとディアナの叫びが響く。

 やがて放たれた黒い球は、周囲の風を吸い込みながらゆっくり迫ってきた。

 大きいッ!!

 人なんて軽く包み隠せてしまうであろうその大きさに、たまらず眼を見開く。

 これは、流石の私も命運が尽きたか……?

 まさかこんな場所で死ぬことになるなんて。

 神様、生まれ変わるなら王族か貴族の姫が良いわ!

 容姿端麗で、スタイル抜群で、学問も魔法も剣術も出来て、胸もドドンッと大きな女の子に――

 ああ、もうダメッ!!


「……あれ?」


 瞳を閉じてから数秒後。

 身体を浮き上がらせるような風が吹いたけれど、それ以外は特に何も起きなかった。

 恐る恐る目を開いてみると、黒い球はそこにはない。

 代わりに、物凄くマヌケな表情をしたタナトスの姿があった。


「そんな、ありえない……! 魔力の七割近くを注いだって言うのに……!」


 何だかよくわからないけど、攻撃は不発に終わったらしいッ!

 どうやら私には、神様が味方してるようね!

 ざまあみろってんのよッ!!


「……ん?」


 ゆっくり立ち上がろうとすると、何やら全身を温かいものが満たしていた。

 この感覚は……魔力だ。

 それも、今まで感じたことがないぐらいの量である。

 特に頭のあたりに集中しているようで、バチバチっと静電気のような感覚がある。

 おもむろに手を回すと、はらりと黒髪が落ちた。

 白ではなく、艶やかな黒だ。


「なるほど……。今の私には、髪の毛に魔法を蓄えて置ける能力があるみたいねッ!!」

「おのれ……吸魔鬼かッ!!」

「そう、私の種族は吸魔鬼って言うの! ありがと、お礼に………さっきの魔法を返すわッ!!」


 私は髪に蓄えた魔力を再び魔法へと変え、タナトスに放ったのだった――!

タナトスとの決着が次回着きます!

長かった第三層編もこれでひと段落、いよいよ第四階層編です!

進化したシースの冒険に、ご期待ください!

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