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第六十一話 タナトス様は思案する(※前半別視点)

「タナトス様ッ!!」


 荒々しく押し開かれた扉に、タナトスはスッと目を細めた。

 彼女は軽く伸びをしながら身を起こすと、闖入者のデュラハンを見る。


「どうしたんだい? 主の部屋に入る時は、ノックぐらいして欲しいものだね」

「申し訳ありません。ですがなにぶん、急ぎでございましたので」

「それでもだよ。あと五分もしてたら君、僕の裸を視るところだったよ?」


 脇に侍るメイドに目をやると、やれやれと肩をすくめるタナトス。

 彼女たちの着衣はいずれも乱れていて、外したボタンの隙間から下着が見えている者もいた。

 タナトス自身もまた、ドレスの背中が開いてしまっている。

 コルセットのホックも外され、白い肌が露わとなっていた。

 ――また、こんな時間から……。

 これから主のしようとしていたことを想像し、デュラハンはため息を漏らしそうになる。


「タナトス様、もう少し身を慎んでください」

「しょうがないだろう、やりたくなっちゃったんだから。だいたい、こんなけしからん身体の子ばっかり居るのがいけないんだよ」


 そう言うと、タナトスは一番近くに居たメイドへと手を伸ばした。

 彼女は張り出したエプロンドレスの胸元へと手を回すと、その膨らみを下から押し上げて強調する。

 たっぷりと重量感のあるそれは、タナトスの頭よりも大きそうなほどであった。

 まったく――デュラハンの生首が、額に深いしわを寄せる。


「そうはおっしゃいますが、メイドについてはタナトス様ご自身がこだわりにこだわって選抜されたはずでは? ご自身で測りを手に採寸をされていたことを覚えていますが」

「……そんな昔のこと、僕はもう忘れたよ! それより、用件は何だい? 急いでいたんだろう?」

「……ああ、はい! 実はこのようなものが、城に投げ込まれておりまして」


 デュラハンが差し出したのは、くしゃくしゃに丸められた紙屑のようなものであった。

 あまり綺麗とは言い難いそれに、タナトスの顔が険しくなる。


「なんだい、そのゴミは?」

「ただのゴミではありません。予告状と書かれております」

「予告状? ちょっと広げて見せて」

「はい」


 デュラハンはすぐさま、くしゃくしゃになっていた紙を丁寧に広げた。

 タナトスは軽く肩を回すと、それを食い入るように見つめる。


『予告状


 明日の午前零時、この地に封じられているオルドレンの秘宝を頂戴する。


 盗賊黒猫より』


「へえ……。ずいぶん面白いものが届いたね。どこで見つけた?」

「朝、廊下掃除をしていたメイドが見つけたそうです。これと同じものが、いくつも床の上に転がっていたとか」

「その廊下、窓に面してる?」

「はい。窓が一枚割られていましたので、そこから投げ込まれたのかと」

「その紙、ちょっと触らせて」

「かしこまりました」


 タナトスは差し出された紙を軽くなでると、その質感を確認する。

 質は悪くないが、表面がかなりゴワゴワとしていて硬い紙だった。

 かなり分厚く、重さもある。


「へえ、これならかなり遠くから投げ込めそうだね。しかも、矢文とかと違って投げ込まれた角度とかがさっぱり分からないや」

「はい、犯人を特定することはかなり難しいかと」

「犯人なら分かるじゃないか。まず間違いなく、例の侵入者だよ」


 タナトスの言葉に、デュラハンは首を傾げた。

 都の住民はみなタナトスの僕であるが、外にはそうでない者もいる。

 階層全体に漂う負の魔力によって、自然発生するモンスターも居るのだ。

 そういう連中が騒ぎを起こしたとしても、何の不思議もない。


「どうして侵入者だと?」

「オルドレンの秘宝が封じられている結界には、人間しか入れないんだよ? 侵入者の人間しか、犯人になるわけがないじゃないか」

「ただ騒ぎを起こしたいだけでは? それなら、人間以外でタナトス様に不満を持つ者の可能性もありますが」

「それはないね。騒ぎを起こしたいだけならさ、僕を殺すとかの方がよっぽど効果的なはずだよ。オルドレンの秘宝を盗むなんて、本当にやるつもりがないなら思いつかない文言だね」


 そう言われればそうだと、手を叩くデュラハン。

 彼女はすぐさま顔を上げると、勇ましい口調で言う。


「では、今すぐに厳戒態勢を敷きましょう!! 秘宝を何が何でも守らねば!」

「ちょっと待って。そんなことしたら、逆に敵の思うつぼだよ」

「どういうことですか? 結界に守られているとはいえ、人間相手ならば無力なのですぞ! 周囲に可能な限りの戦力を集結させ、防衛しましょう!!」

「あー、もう。これだから君はさあ……」


 タナトスははあっと大きく息を吐くと、首を横に振った。

 そして、呆れた顔でデュラハンを見やる。


「いいかい。結界のある場所は、僕しか知らないトップシークレットだ。今のところは君にだって教えてはいない」

「はい、ですから今すぐに場所を教えてください! 私が命に代えても守りますッ!!」

「このお馬鹿! 僕しか知らない結界の場所を、どうして侵入者が知ってるんだい? たぶんこの手紙は、結界の場所を特定するためのものさ。こんな手紙が来れば、だいたいの奴は不安になって結界の中身を確かめたりその周囲を固めたりするだろうからね。相手の警戒心を逆手にとって、結界がどこにあるのか特定しようって腹なのさ」

「……さすがはタナトス様、そういうことですか! しかし、万が一ということもあります!」


 不安がぬぐい切れないのか、自ら結界を守ると主張し続けるデュラハン。

 けれどタナトスは、何とも気だるい表情を見せる。


「大丈夫だよ。くしゃくしゃに丸めた紙を投げ込んでくること自体、城に潜入できてない証拠だよ? 平気だって」

「で、ですが……」

「もう、くどいなあ! この件については特に何もしなくていいから、君は家に戻っててくれる? このまま城に居られたら、ことあるごとに何か言われそうだ」


 タナトスはメイドたちを抱き寄せると、デュラハンの顔を見ながらシッシと手を振った。

 その横柄な態度にデュラハンはムッとするが、主に逆らえるはずもなく。

 そのまま黙って退席する。


「……ふう、これで一安心だ」


 扉が閉じられてすぐ。

 タナトスが漏らしたつぶやきは、誰にも聞きとられることなく消えていった――。


 ――○●○――


「これ、なかなか面白いわね」


 ちょうどその頃。

 デュラハンの家で、私はお手製の地図とにらめっこしていた。

 今日一日かけて作成した、都のおおざっぱな地図である。

 なにぶんプロじゃないからクオリティーは微妙だけど、それでも大通りの場所くらいは網羅出来ている。

 特徴的な建物の場所も、ある程度は抑えてあった。


『そんなので何が分かるのです?』

「そうね、だいたいの区分けが分かるわ」

『区分け?』

「そうよ。この都って、身分によって家の場所がかなり厳密に分けられてるみたいなのよ。城に近い方から順に、上流・中流・下流って感じでね」

『なるほどー。村の人たちが言ってたみたいに、住民の管理が厳重なのですー』

「ええ、そこかしこに衛兵も立ってるしね。これ見てよ、衛兵の詰め所がこんなに!」


 声を上げながら、地図のバツ印を指さす。

 衛兵の詰め所を示すそれは、通りのそばなどに大量にあった。

 都全体だと、軽く十か所はあるだろう。

 タナトスがどれだけ用心深く外からの侵入や反乱を恐れているのか、これだけで分かってしまう。


『うわ、怖いのですよー! これのどこが面白いのです?』

「ふふん。実はさ、この地図を見てたら結界がどこにあるのかわかっちゃったっぽいのよね」

『ええッ!?』

「ま、あくまで推測だけどね。正確なところは、明日にならないと分からないわ」


 そうは言いつつも、思わぬ発見に笑ってしまう私。

 この勝負、私の勝ちね――!


タナトス様の変態ぶりに、ますます磨きが――!

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