第十三話 思わぬ訪問者
火を手に入れて以降、私の食生活は格段に充実した。
熱を通すだけで、たいていの食べ物は美味しく変身してくれるのだ。
本当に大切なものって、失ってから始めて分かるのね。
当たり前のように使って居た火が、こんなにも素晴らしいものだったとは。
炎に万歳!
炎に栄光あれッ!
すべてのものを炎に捧げよッ!
万物は炎のためにッ!!
……ちょっとおかしくなりかけてた、ごめん。
でもとにかく、火は凄いのだ。
食べ物を美味しくしてくれるだけじゃなくて、焚火をすればモンスターもあんまり寄ってこないしね。
暗いところも照らせるし、まさに万能だ。
とはいえ、料理をするなら素材自体もやっぱり重要。
元が悪くては、流石の炎様も「食べられる程度」にするのがやっとだ。
という訳で、この階層のモンスターではダントツに美味しい芋虫狩りに来たわけだけど――
「スーッ!!」
ああ、ゴブリンどもが居るッ!!
前は全然来なかったくせに、また現れてからにッ!
岩壁の下を占拠するゴブリンの団体さんに、たまらずため息が漏れる。
ひいふうみい……五匹。
今日も今日とて、結構な団体さんだ。
自分たちには自分たちの狩場があるだろうに、どうしてここまで出張してきちゃうんだろう。
まったく、忌々しい!
しかし、今の私はこの間とは違うのだよ。
この手には芋虫狩り用のスリングだけでなく、鍛え上げられた鉄の剣があるのだ。
これをもってすれば、雪辱を晴らすことなど楽ちん楽ちんッ!
岩陰からゴブリンの群れへと躍り出ると、素早く剣を振るう。
ゴブリンたちはすぐさま槍やこん棒で応戦するが、剣の敵ではなかった。
粗末な武器ごと切って捨てていく。
あっという間に、五匹のゴブリンはその場に倒れ伏した。
「……スーッ」
いっちょあがりっと。
剣を手に入れるまでの苦戦が、まったく冗談みたいだ。
でも、ゴブリンなんてほんとはこの程度の魔物なのよね。
それに苦戦していた今までの私が、ちょーっと弱すぎたんだと思う。
ま、今は強くなったからいいんだけど。
しかし、こいつらどうしよう。
流石に人型の魔物を食べるのは抵抗感があって、今まで狩りをしてこなかったんだよね。
この間の死体は、いつの間にか他のモンスターに食べられちゃったし。
ゴブリン肉を入手するのは、実はこれが初めてだ。
でも、私が倒した獲物だし。
他のモンスターに取られちゃうのも……もったいないよね。
こうなったら、炎様を信じよう!
炎様なら、炎様ならきっとこんな不味そうなやつだって美味しくしてくれる!
すっかり拝火教の一員となった私は、炎の力を信じてひとまずゴブリンを持ち帰ることにした。
どっこいしょっ。
ゴブリンの身体をツルで縛り上げ、一体ずつ背負っていく。
こうして動かそうとすると、なかなかに重いわね。
やっぱり、筋肉ついてるからかなぁ……。
筋肉質なゴブリンの身体を、ちょっぴり羨ましく思いながらも無事にすべて運び切った。
あとはこいつを調理するだけ。
人型の魔物を解体することにちょっと抵抗感を覚えながらも、肉塊へと変えていく。
ここまでくるとナイフさばきも慣れたもので、死体は小一時間のうちにすっかり骨と肉と内臓とに分けられた。
あとは……お願いします、炎様ッ!!
美味しくなるように念を込めながら、じっくりと焚火で炙る。
スケルトンだから多分大丈夫だと思うけど、ゴブリンの肉なんて何が居るかわかりゃしない。
これでもかというほど念入りに、かつ黒焦げにならないところまで火を通す。
肉からしたたり落ちている脂が、あんまり出なくなったら食べ頃だ。
上手に焼けましたーっと!
美味しいかどうかは、まだよく分からないんだけどね。
とりあえず、見た目は合格点かな。
こいつらの持っていた槍を串代わりにして串焼きにしたのだけど、見た目は凄く普通だ。
屋台とかで売ってる串焼きと似たような感じである。
匂いも……意外といける。
普通に食べられそうね、これ。
思い切ってかぶりつく。
…………おおッ!
どんな臭みがあるかと身構えていたけど、普通に食べられる範囲だ。
芋虫に比べるとやや赤みの味が強く、歯ごたえがしっかりとしている。
たまに歯に当たる筋は、筋肉の繊維だろう。
ゼラチン質で、牛筋みたいな味わいだ。
「スーッ!」
いやー、素晴らしい!
まさかゴブリンがこれほどの味わいだったとは。
芋虫にも流石に飽きて来てたし、実に満足だ。
これからはこいつらを主食にしても良いかもしれない。
ゴブリンの方が芋虫よりも強いから、含んでいる魔力も多いしね。
手早い進化という意味でも、こっちの方が良さそうだ。
お腹もいっぱいになったことだし、今日は寝るかな。
っと、その前に。
魔法の練習をしなきゃね。
あれからいろいろと試行錯誤をしたのだけど、どうやら魔力量というのは使えば使うほど増えるらしい。
特に、魔力の自由分をギリギリまで使い切ってから回復させると伸びが大きいようだ。
もっとも、生命維持の分とは別とはいえ、魔力を使い切っちゃうと体がだるくなる。
だから、こうやって余裕がある時しかできないんだけどね。
指先に魔力を集中して、放つ。
指先に魔力を集中して、放つ。
もいっちょ!
指先に魔力を集中して、放つ――。
ふう!
今日はファイアーボールを八発も撃てた!
最初が四発だったことを考えると、かなりの成長率だ。
倍だもんね、倍ッ!
まあこんなの、流石に序盤だけだろうけどさ。
それにしたって、なかなかのもんじゃないかな。
大魔導師への道を着実に歩んでいる……と信じたい。
魔力も使い切ったことだし、今度こそ寝よう。
体がだるくてしょうがないや。
いつものように毛布を敷くと、ゴロンッと横になる。
そして、顔を壁の方に向けてみれば――
「ギャッ!?」
「カッ!?」
壁の下の小さな隙間。
そこからこちら側を覗き込むゴブリンと、眼が合ってしまったのだった――。
更新更新!
ここから少しずつ、盛り上がっていきますッ!
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