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外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その33

 間に合った。だが失敗した。


 それが一護の素直な感想である。

 ゼロが踏ん張ってくれたおかげで、最悪の結末――本陣陥落には間に合った。MPなしの状態でユネを凌いだ戦果は、称賛されて然るべきである。


「痛たたたた……」


 だが一方で、一護はチャンスを活かし切れなかった。

 ヒビキからユネが引き離されるという最大のチャンスに、彼を脱落させられなかったのである。


(くそ。思った以上だったな……)


 不意打ちに反応して致命傷を避けたヒビキも大したものだが、何よりユネの反応が想定を遥かに超えていた。


 アクションに制限が加わる空中ながら、ゼロを足場に推力を確保――ヒビキを脱落させるはずだった一撃を、見事に防いだのである。


「……お兄ちゃん」

「解ってる。油断はしないさ」


 追いついてきた雪音に応え、一護は改めてヒビキの姿を観察した。


 普通に戦えば負けるはずのない、“最弱”に相応しい貧弱なステータス。脱落こそしなかったものの、先んじて与えたダメージは決して無視できるレベルではない。


 だが――それでも。


「不意打ちなんて酷いなぁ。主役にあるまじき行為だよ?」


 ヒビキの余裕は失われていなかった。


 腕一本を無くして尚、いつもと同じように笑う敵の姿に、一護の心が最大の警鐘を鳴らしている。


「……ダーク系主人公ならそれもありだろ」

「あっはっは。君がダーク系なもんか。ハーレム系以外ありえないだろう?」

「風評被害はやめい。っていうか雪音も頷くな」

「ご、ごめんなさい」


 折角のシリアス風味が薄れるだろう。


「まぁ冗談はともかく……どうやったのかな?」

「なにがだよ?」

「鷹君の援護に向かったでしょ? 戻ってくるとは思ってなかったんだけど」

「ああ、それか。ぶっちゃけ見事に引っかかったけどな」


 実際、危なかった。

 今回の襲撃は積み重ねた虚実による必殺の一手であり、『キズナ』は正真正銘詰みかけた――優秀な軍師である雪音が青ざめる姿を、一護はあまり見た記憶がない。


「ウチにゃ優秀な狩人がいるんでね」


 しかしそんな理屈など通じない女傑が『キズナ』にはいるのだ。

 飛び出した自分達を止めたのは、一本の矢だった。気づかなければ次は射抜くといわんばかりに鋭い一矢が一護達を立ち止まらせ、判断ミスを悟らせたのである。


「……なるほど。そっちはさらに後出ししたんだ」

「なに?」

「なんでもないよ。しかし……うーん、困ったなぁ」

「だろうな。率直に言って、この場でお前らに勝ち目はない」


 あえて一護は言い切った。


 敵はヒビキとユネ――『風見鶏』が誇る名コンビだが、ヒビキの傷は深い。こちらの戦力も消耗しているとはいえ、一護、雪音、ゼロに小雪、風見にイカヅチと充分だ。


 発射台からの砲撃を踏まえて本陣防御はしなければならないが、形勢は逆転したとみて間違いない。


「ふふふ、どうかな? 伏兵を潜ませているかもよ?」

「いません」

「……即答かぁ。理由を訊いても?」

「私達が鷹さんの援護に行くのが、あなたの策の前提でした。ということは私達が加わっても持ちこたえるだけの戦力が――最低でも漆黒さんとアルフレドさんは、あの発射台にいるはずです」

「……」

「砲撃自体はまかろんさんと咲耶ちゃんだから、残るメンバーはおかゆちゃん、神埼さん、教授さんの3名。でも姿を眩ましている葵ちゃんが本陣を襲ったりすれば、3人全員いないと守り抜けない――よって、此処にあなた達以上の戦力は投入できません。違いますか?」


 雪音の問いに、ヒビキは答えなかった。


 その表情から正誤を読み取ることも出来なかったが、雪音の推測は当たりだろう。理論立った思考制御なら、妹はヒビキにだって負けはしない。


「そういうわけだ。俺とユネちゃんはほぼ互角でも、お前が雪音――もっと言えばゼロ達も含めた全員を抑え込めるか?」

「まぁ無理だよね」

「なら、さっさと退場してくれ」

「――マスター。下がってください」


 双剣を構え直すと、すぐさまユネが食いついた。

 フェローの中でも五指に入る遣い手を目の前に、しかし一護の視線はヒビキから外れない。彼の中にある疑念は、ユネをしても超えられないほどの大きさに膨れ上がっていた。


『雪音』

『うん。準備は出来てるよ、お兄ちゃん。いつでも大丈夫』


 『ペアリング』のもたらすテレパシーは感度良好である。十言わずとも全てを悟ってくれる雪音と合わせれば鬼に金棒、事前準備は完璧といえた。


「……」

「……」


 静かに睨み合う。

 流石にユネは優秀な護衛だった。隙を見せるどころか、あえて威を振りまくことでこちらに手を出せないようにしている。


(……仕方ない。ある程度は覚悟して踏み込むか)


 戦場全体を見回せば、持久戦は『キズナ』に不利。


 これ以上、時間を使う意味はなかった。

 例えヒビキに策や切り札があったとしても、それを使われる前に制圧すれば――。


「っ!?」


 瞬間、強烈な閃光と破壊音が五感を揺らす。


 反射的にそちらを視たい誘惑に駆られたが、一護は何とか耐えた。あちらも同じだろう。そんな隙を見せれば、猟犬(ユネ)が襲ってこないとも限らない――。


「どうしたのかな、一護君。顔色が変わったよ?」

「……そっちもだろ。隠しきれてないぜ」


 しかし続けて一護の耳に届いた通達は、流石に隠し切れなかった。


 運営から告げられたのは、レイの脱落報告。

 先の瞬きと轟音から察するに、発射台の頂上で戦闘が行われているのだろう。状況は解らないがその戦闘でレイは墜ち、そして――ユネの表情を見る限り、あちらにも何らかの損害が出たらしい。


 だが不利なのは変わらずこっちの方だった。


 消えることなく発射台に瞬く光は、魔術技能のそれ――しかも明らかに超威力を秘めた大魔術、恐らくはまかろんの手によるモノである。


 あそこを制圧しない限り、『キズナ』の敗北は必定だ。

 一護も可及的速やかにヒビキ達を抑え、援軍へ向かわなければならない。


『雪音。頼む』

『うん、解った』


 頼りとするは聖女の加護。

 己を最も理解してくれるパートナーと共に、一護は最後の戦いへと突入した。

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