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外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その28

 『風見鶏』が難敵であることは充分承知していた。


 だが雪音の認識を現実は超えてきている。

 鷹らを退ける戦闘力に、ラシャ脱落をすぐ挽回する対応力――底の知れなさはやはり格上、EGF随一のギルドは伊達ではなかった。


「風見ちゃん。ヒビキさん達は?」

「相変わらずだよ~。みんな揃って移動中~」

「……そっか。お兄ちゃんの奇襲にも動じてないんだね……」


 『キズナ』でも最重要人物たる一護が襲撃すれば、こちらに向かうメンバーを一人くらいは戻せると思ったのだが――そんな思惑もあっさりと見切られている。


「風見ちゃん。“戦隊”を相手の拠点に1体、ヒビキさん達に1体だけ残して、後はこっちに戻して」

「いいの~?」

「うん、お願い」

「は~い」


 釣られないのでは仕方がない。


 断腸の思いで雪音は監視を緩めた。

 “戦隊”は便利だが、あくまで風見の私兵である。雪音が自在に動かせるわけではないため、『風見鶏』クラスが相手では下手を打たされる可能性があった。


 それこそ逆探知でもされたら目も当てられないし、出来るだけリスクは減らすべきだろう。


「……」


 誰も何も言わない。

 これからの戦いを思い描く雪音を気遣ってか、しばらく静寂が支配していたが――。


「あ! おかえりっす、ししょー!」

「おかえり~」


 そこに鷹が帰還した。

 彼をして大幅に減らさざるを得なかったHPとMPが、今回のミッション難易度を端的に示している。


「悪い。失敗した」

「おかえりなさい。あの人たちを相手に逃げられたなら充分ですよ」


 何しろクエストが終了しかねない状況だったのだ。


 鷹が失った切り札は確かに痛いが、比べれば遥かにマシである。


「あれ~? 葵ちゃんは~?」

「途中で下りた。よく解んねぇけど、任せろっつってたぜ?」


 からかうような声音に、思わず溜息が漏れた。

 今更、葵を縛るつもりはない(諦めた)が、彼女も消耗している。少しくらいは大人しくしていても構わないだろうに。


「お疲れ様です、鷹様。アカはやはり?」

「ああ。多分、落ちただろ。影も形もねぇし」

「~~~(しょぼん」

「ま、仕方ねぇわな。こっちも一人落としたし、互角だ互角。上等だろ」

「そうですね。アカ君は残念でしたけど……状況としては悪くないです」


 ここまでは順調といっていい。

 第一目標 “敵の拠点を明らかにする”に続き、第二目標――“陣地から引きずり出す”までもクリア出来たのだ。


 拠点攻めはリスクが大きすぎる上に不確実だったので雪音は反対だったが、結果的には攻めたことで良い方向へ転がってくれている。


「イカヅチさん。罠の設置は?」

「既に。持ってきた分は設置し終えました。足止め程度にはなりましょう」

「充分ですよ。ありがとうございます」


 ついでに、稼いだ時間を使って要塞化も済んだ。


 考えうる最善手は打ってある。

 油断するわけではないが、ベストを尽くした自負があった。


(……うん。この流れなら、充分勝ち目はある。大丈夫)


 風見の目によれば、攻めてくるメンバーはヒビキ、ユネ、漆黒、アルフレッド、まかろん――言うまでもなく強敵だが、こちらも一護、雪音、鷹、ゼロ、小雪、レイとほぼフルメンバーである。


 拠点の防御力も加味すれば、十回中七回は勝てるはず――。


「――あ」


 などと考えていたら、雪音のセンサーが感じ取るものがあった。


 あわてて『作戦本部』とした天幕を出る。今までの思考を全て中断して拠点の後ろ、開けた場所に彼女が駆け寄るのと。


「ふう。ただいま」


 愛する兄が帰還したのは、まさに同時だった。


「おかえりなさい、お兄ちゃん♪」


 ならば満面の笑みでお出迎えする以外ない。


 現実世界でもEGFでも変わらない――変えたくない雪音の習慣を見て、一護はほんの少し微笑んだ。大役を終えた白い烏の首を撫で、その背から飛び降りる。


「ところで雪音様。ボクも一緒に帰ってきたんですけど……あ。ただいまです。ユキ」

「~~~(ぽんぽん」


 ちなみに一護の後ろから出てきたゼロは、小雪が出迎えていた。

 断っておくが、雪音とて彼の存在を忘れていたわけではない。ただ主従で役割分担が出来ているだけなのである。


「何か動きあったか? 『ペアリング』で大体聞いたと思うけど」

「んーん。大体は説明した通りだよ。ヒビキさん達がこっちに向かってる最中だって」

「そうか。それじゃ迎撃戦だな」


 しゃべりながら天幕に戻ると、一護が不思議そうな顔をした。そういえばと思い出し、葵が引き続き単独行動に移った旨を伝える。


「あいつも自由だな、まったく……」

「いや、ご主人。今のは雪音様がナチュラルに思考をトレースしたことを突っ込むべきでは」

「もう諦めた。EGFじゃ『ペアリング』があるし、仕方ないだろ」

現実(あっち)でも同じだろーが」

「そ~だそ~だ~」

「そういえば雪音ねぇ、一護にぃが帰ってくるのも一番早く気づいたっすね」

「~~~(うんうん」

「いつものことですが、流石というほかありませんね」


 ちょっと先読みしただけなのだが、すごい言われようだった。

 とはいえ雪音的には褒められているのも同然だったので、悪い気分ではない。


 しかし『風見鶏』が向かってきている中、緩んでしまっては問題なのだが――。


「ほら、お前ら。今はそんなことより迎撃の準備だろ。配置につけ、配置に」


 一護もそう思ったのか、雪音が何か言う前に場をまとめてくれた。


(えへへ。流石お兄ちゃん)


 言うことなしである。

 一護が戻ったことで雰囲気も柔らかくなったし、より一層良い状態で迎撃に臨める――。


「!?」


 その思いを、地響きが打ち消した。

 揺れる大地は大地震と称して構うまい。現実世界と違い圧倒的な身体能力故に倒れることはなかったが、激しい地鳴りは、どんどんその勢いを増していた。


「なんだってんだ!」


 明らかに普通ではない。


 運営のイベントか、それとも『風見鶏』の一手か。いずれにしても天幕の中にいては始まらぬと、雪音たちは外へ飛び出し――。


「……おいおいおいおい」


 そうして、固まった。


 声を出せただけ鷹は上等だろう。

 情けないことに雪音は動けず、他のメンバーも大なり小なり似たような状況である。


 ぽかんと大口を開けたまま――彼方の空、そこに届かんばかりに迫る“何か”を見ることしか出来ない。


(……山?)


 否、そんなものが自然発生するはずがなかった。


 少なくとも今こうしている僅かな時間に山が形成されるなど、自然学者が抗議活動を始めるレベルだろう。


 ではアレはなんなのか。

 現象だけ捉えるのであれば、足場だ。規模が大きすぎて山に見えているが、結局は土が盛り上がっているに過ぎない――。


「っ!?」


 フル回転する雪音の脳が、ついに答えを導き出した。


「地形変動……!」


 EGFにおいて、それは決して不可能なことではない。

 それどころか、さほど難しくもない技だった。毒沼の回避など一部マップで重宝される、いわば補助系の技能(アーツ)に過ぎない。


 だが、それはあくまで“通常”――精々数メートル程度の場合であり。


 今回のように百メートル規模で行使されれば、例えようもない奇跡となった。


「小雪ちゃん!」

「っ、ゼロ!」


 雪音が叫び、一瞬遅れて一護が吼える。


「は、はいい!」

「~~~っ(ばっ」


 訳も分からず――だが主の命令に従って二人のフェローが構えるのと。


「!?」


 満天の星空を想起する。

 綺羅星のような大魔法が即席の“発射台”より放たれたのは――まさに同時であった。

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