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外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その27

 それは僅かな時間だった。


 突如としてラシャ脱落のアナウンスが流れ、即ベースを発ったヒビキ達が、先手必勝(ビーム)を放ち――まずアカを仕留めた。続けて葵と鷹もここで殲滅せんとしながらも、残念ながら逃げられるまで、僅か数分。


「……うーん。やっぱりかぁ」


 だがその数分でも、色々と解ることがあった。

 交わした会話はもちろん、戦闘の流れや相手の目配せに至るまで――情報という宝の山を忘れないよう脳裏へ刻み込む。


「あの~、マスター。追いましょう。今なら押し切れます!」

「え? ダメだよ?」


 その中途、かわいいフェローの申し出をヒビキはあっさりと却下した。


「な、なんでですか!?」


「さっきみたいに全員(・・)なら押し切れるだろうけど……本気で逃げたあの二人を追撃出来るのは、ユネと漆黒さんだけだからね」


 ユニットごとにAGIがある以上、どうしたって追撃速度に差は出てしまう。


 追いつけなければ、まだいい。

 中途半端に追いついてしまうのが、考えうる最悪だった。


「二対二なら負けないとしても、伏兵がいたら? そうじゃなくても、向こうの陣地近くで待ち構えられたら? 色々と悪い想像は出来ちゃうよね」


 なにしろ、当のヒビキ達が陣地近くで待ち構えていたのだ。

 逆のパターンだと考えれば、どれほどの脅威か解るというものだろう。


「私も賛成です。順当に擦り潰せば充分かと」

「ふん。まぁ確かに、逃げた獣をわざわざ追い立てる必要もないな」


 ヒビキの言に、まかろんと漆黒が同意を示した。


 この場の過半数というだけでなく、全員が百戦錬磨(プレイヤー)の統一見解である。素直なユネが納得するには、充分すぎる状況だったが――。


「ユネ殿。そんな顔なさらないでください」

「……」

「アルフの言う通りだよ、ユネ。ラシャが脱落(おと)されて悔しいのは解るけど、それで冷静さを失うのは良くない」

「……はい」


 優しいフェローの気持ちはヒビキにも解った。

 ラシャと仲が良いのは同じだ。ただでさえ彼女はムードメーカー、失って気持ちのいいメンバーなど唯の一人もいはしない。


「もちろん、お礼はするさ。『キズナ』が求めている優勝を掻っ攫う――最高の意趣返しでね。そのためにも、今は冷静に」

「……う~~~~~~。ますたぁ~~~」


 物凄く不満そうに唸りながら、ユネはヒビキの説得を受け入れた。


 元々、頭の良い子なのである。ちょっと優し過ぎるだけで。


(……しかし、最初から痛い損害になっちゃったな)


 その頭を撫でてあやしながら、ヒビキは胸中で嘆息した。

 暗殺者(アサシン)であるラシャは、同時に貴重な偵察兵(スカウト)――心情的な部分以上に、実務で不在が響く子だ。敵の本拠地を確認出来ていない今は、尚更である。


(損害は互いに1名ずつ。相手はこっちの位置、こっちは向こうの切り札一つと情報多数。割に合わないけど、一応……ギリギリ……なんとか、プラマイゼロかなぁ)


 最大限のポジティブシンキングで、ようやく痛み分け。


 ラシャと同じような役割の葵を仕留められていればプラスと言えたのだが、逃げられてしまったものは仕方がなかった。


(そういえば、来てたんだよね……珍しい)


 ヒビキが葵に持つ印象は、あまり良いものではない。

 天真爛漫、自由奔放、勝手気まま、天上天下唯我独尊、己良ければ全て良し――まぁそんな感じである。どことなく幼馴染(リィンベル)に通じながら決定的に違うのは、彼女が集団行動を嫌っているところだろう。


 その葵が他のメンバーと共に来たというのは、ヒビキにとっては朗報だ。


 まさしく好き勝手に動く葵は想定がし辛いが、雪音の立てた戦略に則って動いてくれれば対処は容易い。


「さて。攻められっ放しは問題だし、まずは僕らも向こうのホームを見定めようか」

「探索ですね。では、何チームに分かれますか?」

「あ、いいよ。分かれなくて。多分、方向はこっちだから」

「え?」

「あの二人、咄嗟に逃げた方向が一緒だったからね。距離は流石に解らないけど、フィールドの広さとかを考えると、多分数キロじゃないかな?」

「す、すごいですマスター!」

「みんながドンパチやってる間、暇だったからね。このくらいは役に立たないと」


 単純な予測だが、可能性はそう低くないと踏んでいた。

 人間、咄嗟の動きにはどうやったってボロが出る。身体能力に恵まれた面々であれば尚更だ。雪音やゼロならともかく、鷹と葵であれば充分にありうる。


「それでは向かいましょう。ベースへの連絡は如何しますか?」

「あ、私が行ってから追うように――」


 瞬間。


「!?」


 天地に轟く爆音が鳴り響いた。

 続き、火線が空へ昇っていく。覚えのある炎は、咲耶の『六獄環火』だろう。


「マスター! 急ぎ戻りましょう!」

「ううん、進もう。戻っても無駄足だ」

「ほう。見てきたように言うじゃないか、ヒビキ」

「単純な予測だよ」


 今、『キズナ』がベースに攻め込んでくる選択肢は3つある。


 1つ目は総力攻撃。

 だが鷹と葵を誰も助けに来なかった時点で、可能性としてはほぼ0。


 2つ目は鷹と葵がUターン。

 総力攻撃よりは可能性が高いが、2人だけならベースに残したメンバーと本陣の防御力で十分に持ちこたえられる。


 そして3つ目。

 これこそ本命、先の『六獄環火』が狙った相手とは――。


「攻撃に来たのは多分一護くんで、今はもう帰宅の途じゃないかな。仮にまだいたとしても、相手は上空、しかも神烏族相手じゃ撤退されれば追いつけない」

「し、しかしヒビキ様。その程度の揺さぶりでベースが破れるはずもありません。『キズナ』ほどのギルドが、そんな嫌がらせにしかならない動きを何故……」

「戦鬼達が撤退する時間を稼ぐためだろう。フン、つまらん小細工だ」


 漆黒の言う通りだ。

 まったくの正論、普通に考えればそれ以上でもそれ以下でもないのに、僅かな違和感がぬぐえないのは――。


「ヒビキ先輩」

「……ん? どうしたの、まかろん」

「そもそも、今回のルールだと引いて守った方が有利。攻める必要ある?」


 まかろんの言葉通り、『キズナ』の動きが不可解だからだ。


「うん、僕もそう思う」


 一般的に攻城戦は護り手が有利とされる。

 脆弱な拠点ならばともかく、今回は相当な堅固さだ。この防御力をチーム戦に活かせれば、大なり小なり活路は見出せるだろう。


「でも、だからこそ開始から一貫して『キズナ』が攻勢を仕掛けているのが解せない……その意図が読み切れない」


 だが『キズナ』は一護の陽動に始まり、葵の矢にアカ、さらには鷹の強襲。

 それらを退けた途端、陽動の一護が危険を冒して一撃を与えに来た。常に先手を取り、絶え間なく攻撃を繰り出してきている。


「僕たちを引っ張り出したい。それだけならいいけど、攻め続けた(・・・・・)方が有利(・・・・)なルールがあった場合が怖い」

「!?」

「今回、僕たちは挑戦者側だ。2位だったからね。情報量は向こうの方が多いってみるべきだよ」


 杞憂で終わる可能性は高かった。

 穿ち過ぎといわれても仕方がないが、最悪の想定は決して無駄にならない。


「なるほど。理解しました」

「だから穴熊だけじゃなくて攻めてみよう。そうすれば少なくともペナルティは避けられるだろうし」

「で、でも拠点を攻めるリスク同じですよね? そこはどうするつもりですか?」

「うん。こういう時はね――」


 今世紀最大のどや顔で、ヒビキは言い放った。


「相手の意図に乗りつつ、その想像を上回る。そういう手で行こうか」

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