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外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その23

 お祭りイベント『唯一つの神宝』は遂に決勝戦と相成った。


 1回戦:バトルロイヤル。

 2回戦:ダンジョン探索。

 3回戦:トレジャーハント。

 4回戦:商店経営。


 最高のギルドを決めるべき対抗戦に相応しい、多種多様なお題を乗り越えてきた2チーム――即ち大本命たる『風見鶏のとまりぎ』と問題児の集合体『キズナ』のチーム対抗戦が、無数のEGFユーザーが見守る中、ついに始まった。


 ついに始まった――のだが。


「……うーん」


 盤面にはまだ動きがない。


 当事者の一人、『風見鶏』の参謀役たるヒビキは拠点(ギルドキャンプ)で首を捻っていた。

 栄えある決勝戦に挑むにしては些か覇気のない態度だが、それを咎める声はない。チームの面々は慣れた様子で基本情報へ目を落し、それぞれ概要の把握を進めている。


(舞台は密林。技能(アーツ)関連の使用制限はなし。レーダー類も問題なく使用可能……拠点の防護結界はかなり強固、と)


 いずれのクエストでも情報は最重要項目。

 ヒビキもまた脳内へ情報をずらずらと並べ立て、基本方針へ加筆・修正を加えていく。


「マスター。どうされますか?」

「うーん。どうしよっかねぇ」

「なんだ珍しい。ノープランというわけでもあるまい?」

「もちろん」


 本来、ヒビキの戦略は可能な限りの下準備を以て完結させる。


 『パーティー管理』による戦闘のコントロールは当然として、そもそも戦闘に入った瞬間、こちらが有利な状況に“なっている”のが肝なのだ。


 しかし今回はそうもいかない。


 何しろ決勝のフィールドを選択したのは『キズナ』の方だ。当然、戦術もフィールドを踏まえて組み立ててあるだろう。一歩先んじられている現状、適当に決めて対処できるほど容易い相手ではない。


「受け攻め色々と考えてはいるよ。でも、あっちの出方を見ないとね」

「くふ。本当に珍しいのぅ、ヒビキ様。腰が引けているように聞こえるぞ?」

「まっさかー。そんなことあるはずないよー! ねー? ヒビキ様っ」

「あっはっは、それはどうかな~!?」

「遊ばないでくださいよ、ますたぁ……」

「別に遊んではいないんだけどなぁ」


 咲耶とラシャと愉しく会話しているだけなのに、何故かユネに怒られた。


「まぁ少し待ってて。長期戦は避けようとするだろうから、すぐに動きがあると思うよ」


 基本的に、長期戦は地力が大きいパーティーほど有利だ。

 それだけで勝てるほど甘い相手ではないが、時間は『風見鶏』に味方するだろう。勝率を高める為に、『キズナ』は先手必勝を仕掛けてくるに違いない。


(そこを後手必殺! ってね)


 必殺とはいってもヒビキ自身は戦力外なのだが、それはともかく。


「あ!」


 ヒビキの想定通り、変化はすぐに訪れた。


 視力を強化する“技能(アーツ)”で前方を警戒していたラシャが驚愕の声をあげ、ほどなくして全員の視界にその姿が映る。


「うーん。今回もその手で来るかぁ」


 遥かなる蒼穹へ滲む、一点の白。

 遠すぎて目視判別は出来ないが、その白点は一護と騎乗ペット『白浪』だろう。あれだけのスピードが出せる生物はEGFの中でも希少だし、そもそもヒビキの想定していた受け攻めで可能性の高い選択肢だった。


「さぁてどうするかの、ヒビキ様。撃ち落とすのも吝かではないが?」

「うーん……ラシャ。乗ってるのは一護君だけかい?」

「えーっと……うん! 幻術系の技能(アーツ)を使ってなければ、多分そうだと思うよ!」

「そっか。それじゃ陽動だね。咲耶、砲撃はなしの方向で」

「ほう? 何を以てそう断じる」

「理由は2つかな。まずは単独で来たこと。『剣舞士』の遠距離攻撃なんて、僕とどっこいでしょ? 高所砲撃するつもりなら、後衛術者を連れてるはずだよ」


 普通なら小雪、最低でも雪音は必要だ。

 それが一人きりというのなら、偵察――あるいは囮だろう。


「なるほど。ではヒビキ様、もう1つの理由は?」

「あ、うん。あの子が一護君を危険にさらすと思う?」

「……ありえんな。これ以上ない説得力だ」

「そういうこと」


 ご納得いただけて何よりである。

 そんな理由が戦略的視点より説得力があるというのも、個人的にはどうかと思うが。


「そんなわけだから、みんな撃たないでね。MP消費もバカにならないし、多分、あっちはそれを望んでいるから」

「はい、わかりました。でも残念ですね。上手くいけばすぐに終わるのに」

「まぁね」


 拠点(ベース)がバレるリスクを取ってでも、狙撃する選択肢は確かにある。


 断定は出来ないが、(キング)の可能性が最も高いのは一護だ。あの個性的な面々を御し切れるプレイヤーは彼しかいない。


「まぁ大丈夫じゃないかな。幸い僕達の拠点(ベース)は森の深いところだし、上空からは見えにくいよ。相当近づかれば別だけど、向こうも警戒して高いところを飛んでるしね」

「確かに高すぎますね……攻撃されても離脱出来るようにでしょうが、随分と安全マージンを取っているように見えます」

「ふん。要は目障りなだけで害はないということだろう。ククク……なんだったら反転攻勢、玉がいない間に相手の本拠地を――」


 この会話を油断と思いたくはなかったが。


「!?」


 瞬間、削り取られた拠点のHPは紛れもない事実だった。


 無論、結界は揺らがない。

 ダメージで言えばほんの僅か、城壁を剣でひっかいた程度のものでしかない。


「チィッ!」


 だがそれでも先手を許したのは事実だ。

 刹那遅れて漆黒が飛び出すも、襲撃者は影も形もない。否、何が起こったかも解らない――いくら後手に回っているとはいえ、流石に許容できる状況ではなかった。


「ラシャ。ちょっと周囲を見回ってきて。深追いはしないようにね」

「はーい!」

「まかろん。念のため、チャージをお願い」

「解った。種類は?」

「軽めの奴で。咲耶もフォローを」

「……マスター。これを」

「うん?」


 取り急ぎ警戒態勢を指示していると、音もなく飛び出していたユネが“何か”を差し出す。


 その“何か”――蒼白く発光する不思議な矢を見た瞬間、ヒビキは全てを理解した。


「……やられたね。そういうことか」


 矢の銘を『アタランテ』。

 ギリシャの女狩人を冠されたこの矢は、標的に当たるまで決して止まらない。追尾性能こそないものの、フィールド障害物に対しては当たり判定を無視する、遺産級の武器だ。


「一護君を派手に登場させて、みんなの目を釘付けにする。僕たちが攻撃しようがしまいが、必ず議論は発生する」


 普通にしていれば、単なる矢など着弾前に叩き落していただろう。

 だが一護があえて姿を晒し、全員が空へ注目したことで警戒網に空白が出来た。


「でもマスター。そんなピンポイントで狙えますか?」

「うん、無理だね。でも全方位(・・・)に撃てば問題ないでしょ?」

「……全方位じゃと?」

「飛距離を考えると、多分『キャノン・ショット』あたりも使ってるかなぁ。

「ありえないことをするね、まったく……SRではないにしろ、『アタランテ』はHRくらいの希少価値はある。それを無為に消費するなんて正気の沙汰じゃあない」

「うん。でもヒュペリオンソードを売り払っている相手にとっては今更だよね?」

「……本当、なりふり構わないと言いますか、こちらも相応の覚悟を持たないと飲み込まれそうです」


 全員がため息をつく。


 アルフの言う通りだった。

 何が彼らを駆り立てているのかは解らないが、異常なほどの戦意である。単なるクエストと考えていては、あっという間に踏み潰されるかもしれない。


(……それなら、それなりの対応をするまでだけどね)


 先手は譲ったが、勝利まで譲る気はないのだ。

 本気になった『風見鶏』の力――ここから、とくと見せてあげるとしよう。

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