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外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その21

 説明に要した時間はそれほど長くはなかった。


 せいぜい数分。

 カップ麺を待つ程度の時間でしかない。


 まぁそんなものだろう。胸の内すべてとはいえ、そもそもが単純明快な話だ。こちらの話し方云々ではなく、誰がやっても似たような時間にしかなるまい。


 一護としての手応えは十分、きっと風見でも万全の理解が出来たと思ったのだが――。


「…………( ゜Д゜)」


 幼馴染は全員がポカンとしていた。

 反応がないというのは、ある意味、責められるよりも辛い。かといって一護が言いたいことはこれ以上ないわけで、どうしたものかと首をかしげていると――。


「……いやー兄貴、それはないょ。うん。あたしでもドン引くレベル」


 最初に復活したのは葵だった。

 セリフ自体はとても失礼だったが、反応が返ってきただけありがたい。


「そうはいうけどな、お前……じゃあ100%ないって断言出来るのか?」

「出来るっしょ。情報ないんだし」

「知らないだけってなんで言い切れる?」

「そりゃあたしが知らないなら、この世全員知らないからネ!」


 だめだこいつ、はやくなんとかしないと。


 神様気取りの葵にため息をつくと、横の雪音も苦笑した。


「“ない”ものは証明できないもんね。そこは個人の取り方で変わっちゃうし」

「そういうことだ。というか、“すぐ”じゃないだけで、必ずその時は来るだろ。早いか遅いか、それだけだ」

「まぁそりゃそうだけどさぁ……どうよ、みー。兄貴のアホな行動について」

「や~い。ば~かば~か」

「お前にだけは言われたくねぇ」


 どんな批判も覚悟していたが、流石に心外である。


 風見の一言で雰囲気が和らいだのは助かったが、幼馴染一のぽんこつ娘にバカにされるのは自尊心とか色々よろしくなかった。


「……相変わらず変なトコで変に気ぃ遣う奴だな」

「鷹まで……なら、どうする? 殴るか?」

「あん?」

「さっき言ってただろ。許すか、殴ってから許すかは後で決めるって」

「あー、そういやンなこと言ったな。殴んのはやめとくわ。雪音ちゃんが怖ぇし」

「た、鷹さん!?」

「うんうん。ゆっき、実際兄貴が殴られたら怒るもんねー?」

「……それは――うん。すっごい怒る」


 鷹が放り投げた流れ弾を、雪音は赤くなりながら認めた。

 当人は愉快そうにゲラゲラ笑っていたが、もうちょっと危機感を持った方がいいと思う。雪音を本気で怒らせたら手に負えないぞ、マジで。


「……まぁ本題に戻ろう。とにかく、そんなわけで俺はなんとしても優勝したい。文句あるか?」


 一護の挑戦的な言い方に、返答はない。

 だが――先ほどまでと違い、全員の気持ちは手に取るように解った。


 そんなことは言うまでもないことだと、幼馴染の目が告げている。


「悪いな。全員、頼む。あと、あいつらには内密に」

「今更だょ」

「だな。ンじゃ、下降りるか。作戦決めなきゃだろ?」

「だね~。細かいのって来てるの~?」

「概要だけは……詳しい説明はギルマス(おにいちゃん)のところに来るって聞いてるけど……」

「19時に情報転送って言ってたから、あと数分だな」


 話をしながら『会議室』を出る。

 扉の向こうでゼロ辺りが聞き耳を立てているかもしれないと思ったが、誰もいなかった。レイの牽制が効いたのか、ちゃんと下で待っているらし、い――?


「……何やってるんだ、お前ら」


 いや確かに待っていろとは言ったが、目の前の光景はどういうことか。


 降りてきた一護達の目に飛び込んできたのは、フェローが一列に並び、全員で正座をしている姿だった。


「いえ。何か我々に落ち度があったのではないかと」


 言葉を返すゼロにも、珍しく遊びがない。


 どうやら大まじめのようだ。

 一護の言葉、そして行動を深く考えての行為なのだろうが、あまりに大げさな姿に笑いが漏れる。


「誤解させたのは悪い。でも、別にお前たちのせいじゃないから気にするな」

「いや、気にするなって……気にしますよ、ご主人。違うっていうなら、僕達に説明なんかはないんです?」

「優勝すれば解る。働き時だぞ、ゼロ」

「えええ!? そんな殺生な!?」

「……えーっと、師匠?」

「今、一護が言っただろ。無駄なこたぁ訊くなよ?」

「マスター。どういうことで?」

「ないしょ~」

「……本気ですか、主」

「マジだょ。優勝しないと話さないって決めたからネ!」

「……(ぎゅ」

「ごめんね、小雪ちゃん。理由が知りたかったらがんばって」

「まさかの全員ダンマリ……これは壮大な悪だくみの予感がしますよぉ……!(ゴクリ」

「適当なこと言うな」


 こちらの言うことに納得――はしていないだろうが、とりあえず棚上げはしてくれたらしい。いつも通りアホなことを言ったゼロは、いそいそとソファへ腰かけた。


「それじゃあ精々、励むとしますよ。僕以外のみんなで」

「小雪。やっちゃっていいぞ」

「~~~っ(ぷんぷん」

「ちょ、ご主人! 初手からそれは酷いでしょう!? お約束ってやつですよ、お約束!」

「真面目にやれ。今から作戦会議するんだから(なでなで」

「~~~♪(にこにこ」

「いいなぁ……小雪ちゃん……」


 ものほしそうな目で見てくる雪音には悪いが、今からは真面目タイムである。


 なにしろ、決勝の相手は『風見鶏』――言わずと知れた最強ギルド『風見鶏のとまりぎ』だ。作戦会議といえど、遊び半分で挑める相手ではない。


「さっき決勝戦の概要が来たからな。まずは読むぞ」


 ・開始は明日15時から。

 ・クエスト制限時間は2時間。

 ・チーム全員参加の総力戦。

 ・勝利条件は相手チームのリーダーを倒すか、敵キャンプを破壊し、フラッグを奪取するかの2通り――。


「サバゲ―じゃん」

「うん、まぁそうだな」


 葵の一言が全てを物語っていた。


 特にフラッグとやらがサバゲーっぽさを助長している。

 まぁ総力戦という名の殲滅戦だと戦闘力だけの勝負になってしまうし、搦手を入れてきたのだろうが。


「一護様。サバゲーとは?」

「単純に言うと陣取り合戦だ。敵味方に分かれて相手を全滅させるか、敵チームのフラッグを取ったら勝ち。現実だとEGFと違って武器は基本エアガンだから、こっちほど戦法や戦闘力に差は出ないけど」

「ふぅむ……確かに、ほとんどまんまですねぇ」

「お兄ちゃん。フィールドはどこなの?」

「ああ。そこは決まってない――というか、決めなきゃならない」

「ほぇ?」

「1位の特典だ。決勝戦における、フィールドの選択権」


 これまでのポイントが無為にならないための配慮だろう。

 細かい地形が提示されていなくても、どういったフィールドかは、ある程度の推測がつく。


 運営が提示してきたフィールドは5つ。

 即ち、大砂漠、草原、密林、山岳地帯、遺跡内――1位は少しでも有利な場所を選べというわけだ。


「はー。GMさん達もよく考えてるっすねー」

「というわけで、どこにするか。雪音」

「…………『風見鶏』のメンバーを、もう一回おさらいしていい?」

「もっちろん」


 軍師(ゆきね)の助けになればと、各人がこれまでのメンバーを挙げて行く。


ヒビキ(ゲスマント)、ユネ公、黒いの……あと誰だ?」

「咲耶さんに、まかろん様……ですかねぇ?」

「ラシャ、おかゆ、アルフレッド、後は『教授』と神崎との情報です」

「うわ~。有名人ばっかだね~」

「後ろ2人以外、ガチのバトルメンバーじゃん」

「ひゃっほーい!」


 改めて聞くと頭が痛くなるメンツだった(一部喜んでいるが)。


 言わずと知れた漆黒とユネの2枚看板に、防御役(タンカー)として名高いアルフレッド。高速戦闘を得意とするラシャと手数の多いおかゆは、膠着した戦線を崩す可能性を秘めている。


 その後方には戦略爆撃機(まかろん)大砲さくやが控え、全体をヒビキが統括・フォローする――まさに隙のない布陣だった。


「詰んでない? これ。リッチーがいないだけマシだけど」

「詰んでない。いたら詰んでたけど」


 『風見鶏』のギルマスにして、『EGF』最高プレイヤーの一人。

 最前線で強大な戦闘力をふるい、その身に纏うカリスマで幾多の戦士を率いて、あらゆるクエストを踏破してきた天衣無縫の戦乙女――リィンベル。


 彼女がいないのは不幸中の幸いだった。

 現状のメンバーでも勝ち目が薄いのは間違いないが、0でないだけ遥かにマシである。


「……だよな。雪音? 0じゃないよな?」


 不安になったので妹へ助言を求める兄。それが私、伊達一護です。


「あはは。うん、0じゃないよ。大丈夫」


 そして微笑みながら答えをくれる妹。雪音ちゃん、マジ天使。


「うん……一番いいのは密林、だと思う」


 という冗談はともかく、頼れる軍師はしっかりと考えをまとめてくれたようだ。


「砂漠と草原は、まず論外。見晴らしのいいフィールドだと、火力差がどうしても響いちゃうから」

「……まぁそうだな。あっちには怪物(まかろん)がいるし」


 『始原魔術』を究めたまかろんは、後衛術者の中でも突き抜けた破壊力の持ち主である。

 その火力は単騎で雪音主従を超える。見通しの利く場所で遠距離から連射されでもしたら、何もできずに終わってしまう可能性すらあった。


「同じく山岳地帯もNG。こっちは――」

「高低差、ですね?」

「はい。こっちが高地ならともかく、低地だった場合は砂漠や草原以上のデメリットになります。二分の一じゃ賭けとしてはリスクが高い」

「それじゃ遺跡は~?」

「遺跡は……不意の遭遇戦が怖いかな。『歌声よ、天上に還れ』系のダンジョンって考えると、狭い通路で鉢合わせ――しかも漆黒さんと、みたいな可能性もあるし」

「っ(ガクガク」

「でも相手も一緒じゃないの、それ? でっかいや兄貴にザコが当たれば潰せるじゃん」

「うん。条件はもちろん一緒だよ。でも、お兄ちゃん達の方が漆黒さんよりAGIは上だから。密林でも相手を仕留めきれる可能性は高いと思う」

「雪音様。それはアレですか、ご主人や鷹様は遺跡だろうが密林だろうが関係ないけれど、漆黒様は密林だと取り逃がしてくれる可能性があると?」

「期待値が高いってだけですけどね。例えば葵ちゃんとかなら逃げ切れるかなって」

「……ほっほ~う? 逃げるって思われてるのは気に食わないけど、まぁNE」

「主。どや顔は控えめに」


 約一名、相変わらずの奴はいたが、それはそれとして。


「異論なさそうだな。それじゃフィールドは密林で決定、と……次はどうする? 雪音」

「うん。ざっとでいいから、戦法とリーダーを決めたいかな」


 決めなければならないこと、練らなければならないことはたくさんある。


 絶対に負けられない戦いを前に、『キズナ』のMTGは遅くまで続いた。

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