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外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その20

久々に1ヶ月2回更新。予想以上に長くなってますので、ペース上げたいなぁと思ったり。

 斯くして4回戦が終わった。


 各ギルドが知恵と財力を振り絞っての大盤振る舞い。

 『EGF』の歴史上、類を見ない戦いは『庭の民』へ十二分の満足感を与えて幕を閉じた。


 名だたるギルドが軒を連ね、並べた商品の大部分が売り切れたことからも、どれだけ好評を博したかは言うまでもないだろう。


 そこには様々なドラマがあった。

 王道があった。邪道もあった。詭道も、寄り道もあった。


 決勝進出の切符を賭けて、ギルドはそれぞれ獅子奮迅の戦いを見せ、そして――その結果、勝者と敗者に分かれた。


「……」


 誰も――何もしゃべらない。


 いつも和気藹々とした『キズナ』のギルドホームが、重苦しい雰囲気に包まれていた。全員が厳しい表情を浮かべながら、たった一人に目を向けている。


「……で、いつまで黙ってんだ。一護」


 非難、心配、不可解――あらゆる視線の先に、ギルマスたる男の姿があった。


 いい加減、業を煮やして切り出したのだが、一護は無言を貫いている。

 こういう時、真っ先に騒ぐのは葵だが、彼女までもが沈黙している場合、問いただすのは鷹の役目だった。


「言っとくが、黙ったまま逃げれねぇぞ。テメェの中の理由はきっちり説明してもらう。じゃなきゃ、わけがわかんねぇからな」


 賛同の声は、ない。


 だがこの場にいるメンバーは、ほぼ全員が鷹と同じ気持ちだった。唯一の例外は雪音だが、いくら彼女であっても一護の真意を知らなければ、庇うことも出来ない。


「……………………そうだな。まぁ、こうなるよな」


 十秒ほどだろうか。

 じっと何かを堪えていた一護は、やがて諦めたように呟いた。


「解った、説明する。“上”へ行こう」

「!?」


 驚きの声を漏らしたのは誰だっただろうか。


 一護の言う“上”とは、『談話室』の2階部分にあたる。

 文字通り憩いの場である1階と違い、2階は丸ごと会議室となっていた。


 構造的には珍しくもないが、『キズナ』の会議室はフェロー立入禁止(・・・・・・・・)なのである。現実世界における汚い話など、あまりフェローに聞かせたくない時に使っている場所なのだが――。


(読めねぇな……何を考えてやがる?)


 このタイミングで、そこを使う理由が解らない。

 幼馴染でなければ理由も聞かずに殴り倒すような状況だが、一護は適当なことを言う奴ではなかった。見当もつかないが、きっと何かしらの芯は通しているだろう。


「レイ」

「お、押忍っ!」


 ならば迷うことはない。


 解らなければ訊けばいいだけのこと。

 レイ達には悪いが、自分達、幼馴染が聞けるだけでも良しとしよう。


「必要ねぇだろうが、見張ってろ。誰も上へ来させんな」

「りょ、了解っす!」


 その後のことは――話を聞いてから、考えればいい。


◆◇◆◇◆


 『キズナ』の会議室は簡素な構成だった。

 まず中央に円卓、それを取り囲むよう四方に設置されたソファー。ホワイトボードが二つと食料アイテムが詰められた棚――それだけしかない。


 『談話室』をはじめ雑な部屋が多いギルドホームにおいて、ここだけは異質な雰囲気を放っていた。ぶっちゃけると単純に使われていないからなのだが、今日は満員御礼である。


「さて、ンじゃ話して貰うぜ。一護」


 一番手前のソファに腰を下ろした鷹が、成り行きで口火を切った。


 配置としては鷹から見て右側に葵、左側に風見が座り、正面――入り口から一番遠いソファに一護と雪音が陣取っている。今回に限っては雪音を別のところに座らせようかとも考えたが、言っても聞かないのは明白だったので、諦めた。


「希望通りに移動したんだ。まさかダンマリってこたぁねぇよな?」

「ああ」


 硬い声には緊張が滲んでいる。

 まぁ仕方ないだろう。幼馴染は気心の知れた仲だが、だからこそ遠慮がない。フェローまで下がらせるという行為まで含め、問い詰められるのは目に見えていた。


「理由は簡単、勝つためだ」


 覚悟は決めていたのだろう。

 逡巡しながらも、ようやく一護がしゃべり始める。


「偵察して、やらなきゃ勝てないと思った」

「そりゃそうだ」


 全員が頷く。

 一護の蛮行を“勝つため”以外だと、疑っている人間はいなかった。


 実際、4回戦終了時点の『キズナ』は1位――『風見鶏』すらもブチ抜いて、トップへ躍り出たのである。ある意味、一護は賞賛されるべきことを成し遂げたのだ。


 だが、本題はそこではない。


「問題はそこじゃねぇだろ。なんで――」

「そうだょ!」


 ついに我慢出来なくなったのか、鷹を遮って葵が吼えた。


「ヒュペリオンソードを売るなんて、どういうつもりっさ!」


 『ヒュペリオンソード』。

 美しい武具も強力な武器も数多く存在する『EGF』だが、この剣ほど双方を兼ね備えた武装はない。あの『風見鶏』のユネも愛用する、神話級最強の一角でありながら、一本で城が建つと讃えられる麗しき意匠を併せ持つ。


 いわば全ての術法剣士にとっての憧れであり、目標たる剣なのだ。


「言い訳があるなら言ってみろー!」

「……ウチのギルドで一番価値が高いのは、間違いなくアレだろ」

「それは! まぁそうだけど!」

「納得しちゃった……雪音ちゃんは知ってたの~?」

「え? あ……えっと……実は――」

「雪音は知らない。俺の独断だ」

「それじゃテメェが話せ、一護。なんでホームに飾るって決めた、アレを売ってまで勝とうとしたんだよ? あいつは記念だろーが」

「……ああ」


 鷹の問いかけに、低い声で一護が頷いた。


 ヒュペリオンソードは単なるレアアイテムではなく、『キズナ』にとっては因縁深い、特別な品である。奇跡的な確率で再入手した際に、満場一致で“記念品”としてホームへ飾ろう――と決めるほどに大切な、思い出のアイテムなのだ。


「そうだょ。しかも相場より相当安かったじゃん。ね、みー?」

「うん~。イカヅチちゃんが、三割引だって泣いてたよ~」

「そりゃさー、あたしだって今回のクエストは面白いし、勝ちたいょ? でもヒュペリオンソードを売っ払うだけの価値があんの?」


 無論、イベントなのだから勝つに越したことはない。

 だが全てのイベントで1位を取るなど不可能だ。大博打に挑むかどうかは、リスクとリターンを天秤にかけて決めるべきだろう。


 まして『キズナ』は合議制でクエストを進めてきたのだ。いくら一護がギルドマスターとはいえ、許されるレベルの暴挙ではない。


「どうなのさ! 兄貴!」

「どうなの~?」

「葵の言う通りだぜ」

「み、みんな。ちょっと落ち着いて――」

「いや……雪音。いい」


 咄嗟に庇おうとした雪音を抑え、一護が前に出た。


 訊きたいことは言い尽くしていたので、誰も遮らない。親友の顔に浮かぶのは苦笑か自嘲か、まぁそのようなものだった。


「相談しなかったのは悪かった。確証が持てなかったし、十中八九考えすぎだと思う。先走っているって自覚もある。だから俺だけの話にしたかったんだ」

「……前置きが長ぇな。幼馴染(おれら)に建前なんて使うんじゃねぇよ。気持ち悪ぃ」

「気持ち悪いってのは酷いな」

「事実だろ。別に俺達はテメェの気持ちを訊きに来たんじゃねぇんだ。訊きてぇのは、テメェの背中を押した理由だよ」

「そうだそうだ~!」

「そうだ~」

「許すか、殴って許すかは――聞いてから決めてやる」

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