外伝 - 続・問題児たちが別世界へ行くようですよ?- その17
新年あけましておめでとうございます。(遅い
今年もよろしくお願いいたします。
そうして3回戦は無事に終了した。
ギガントマウンテンを相手に善戦したおかげで、終了時の順位は4位。
100チームから一気に10チームまで絞られる4回戦にも、無事コマを進めることが出来た。
最初に綺羅星のごとく無数のチームがいたことを考えると、ここまで来たこと自体が大健闘なのだが――。
「…………(しょぼん」
その立役者たる我が妹は、見るからに肩を落としていた。
場所はギルドホームの『談話室』。
4回戦の開始までのわずかな時間、作戦会議のために一度本拠地まで戻ってきたのである。
「……もうちょっと注意してれば……ううん、それでも判断が速ければ……(しょぼぼん」
まぁ雪音がこんな調子では、作戦も何もないのだが。
『風見鶏』に上を行かれたショックは3回戦の間に持ち直したのかと思ったが、考えないようにしていただけで、しっかり引きずっていたらしい。
「一護にぃ、なんとかしてあげてください(ひそひそ」
「大殿。一大事です(ひそひそ」
「そうですよご主人。ご主人以外に誰が出来るっていうんですか(ひそひそ」
「~~~(無言のエール」
「大丈夫だっての。この状態の雪音は落ち込んでるというより、反省している状態だからな。時間さえ経てば放っといても立ち直る。元々強い子だし」
「でも時間はかかんだろーが。待っちゃいられねぇぞ、実際(ひそひそ」
「そうそう。ゆっき抜きで作戦立てられんのかにゃー?(ひそひそ」
「無理だよね~?(ひそひそ」
「ええい、好き勝手言いやがって」
まぁ言いたいことは解る。
『キズナ』躍進も雪音の作戦があってこそだ。もちろんトップクラスのギルドである自負は持っているが、ここまで残った連中も間違いなく同じレベルだろう。
まして4回戦のお題は――。
(交渉、だもんな……力押しが通用するお題じゃない)
こういうミッションこそ、頭脳班たる彼女の出番のわけで。
「……雪音」
色々釈然としなかったが、一護は結局声をかけた。
上手く乗せられた気もするが、まぁ雪音がしょんぼりしているのは可哀想だし、致し方あるまい(兄バカ。
「いい加減、切り替えろって。あれはお前のせいじゃない」
「……でも」
「完全に後出しじゃんけん、反則みたいなもんだ。誰にも防げなかった」
「…………」
「だから、な? 4回戦へは無事に進めるわけだし、反省は反省として、先の話をしよう」
「……………………うん。解った」
「ん、いい子だ」
どうやら聞き分けてくれたらしい。
一護の説得を受けた雪音は何かを振り切るよう、伏せていた目を上げて――。
「まー、確かにMVPは取られちゃったしねー」
「はうっ」
――余計な茶々を喰らって再び崩れ落ちた。
「邪魔しかしねぇんなら出てけやアホ」
「はっはー。めんごめんご。凹んでるゆっきは珍しいから、ついNE」
「葵ちゃん、趣味悪いよ~?」
よほど愉快だったらしい。
鷹に軽く小突かれても笑顔の葵は、本当に一度痛い目に会った方がいいと思う。
……閑話休題。
アホのせいで再度凹んでしまった雪音であるが、努力の甲斐あって無事にメンタル復帰を果たしてくれた。逆にこっちのメンタルが削れるような場面もあったのだが、それはともかく。
「で、4回戦だけど。今までと毛色違うんだっけ?」
「ああ。全然違う」
今は4回戦――言うなれば準決勝の話題が重要である。
既に開始まで1時間を切ってしまっているのだ。さっさと話し始めなければ、事前準備なしで臨むことにもなりかねない。
「雪音」
「うん。簡単に言うと、4回戦はお店での売上競争です」
「は?」
「各チームで1店舗ずつ構えて、『庭の民』相手に所持アイテムを売却する。制限時間内に売り上げた金額に対し、ポイントが付与される――」
「ちょ、待ったー! 何それ、本気? ギルド関係ないじゃん!?」
「私に言われても困るよ、葵ちゃん……」
あははと苦笑いを浮かべた雪音が、視線をイカヅチへ投げかける。『キズナ』が誇る商人は頷きながら、一歩前へ出た。
「葵様。『キズナ』においては確かに裏方ですが、商会経営もれっきとしたギルドの職分ですよ。我らとて、マスターの魔法人形販売が重要な資金源のわけですし」
「そうだよ~」
「……でもさぁ、裏方は裏方でしょ? メインじゃないじゃん」
「商売そのものが目的のギルドも多数ございます。我らの同盟相手も商会都市などという、その際たるものをお持ちではありませんか」
「でもでもさぁ、今までの冒険ベースと違い過ぎるっていうか――」
「それは言ってもしょうがない……っていうかお前、このお題じゃ暴れられそうにないから拗ねてるだけだろ」
「そそそ、そんなことないょ!」
図星だったのか、葵がそっぽを向いた。
時間がないというのに、相変わらずの傍若無人ぷりである。
「雪音、続きを」
「はーい。えーっと、参加人数は8人で制限時間は3時間。戦闘要素は一切なしみたいです」
「ンじゃ、俺とレイが留守番だな。良かったなレイ、また特訓出来んぞ」
「うぇ!?」
「……不憫なり」
「あはは……ごめんね、レイちゃん」
「まぁ仕方ないだろ」
「ま、マジっすかぁ……頑張ります、押忍……」
修行バカのレイをしてこの反応とか、鷹のスパルタっぷりが解るというものだ。
可哀想だが二人を外すのは当然の選択肢なので、雪音は苦笑しながら先を続ける。
「それで、ここからが本題なんですけど、今回のミッションは戦略が結構複雑で……えっと、書いた方がいいかな……」
指に集めたMPで、ホワイトボードへ文字を書いていく。
1.アイテム……各ギルド持ち込み制。
2.商品価格……各ギルド独自に決める。一度店頭に並べたら、変更不可とする。
3.立地条件……優先順位式。同条件が複数の場合は、3回戦までの順位で優先。
「……これは、確かに。色々練りたい内容ですね……」
「順番にいこう。まず1つ目、アイテムから。って言っても、一目瞭然だけど」
「うん。お店に並べる商品は、各ギルドの倉庫から出すこと……ってことだね」
「ええ~、わたし、ご飯出したくない~!」
「そこで食べ物なのは、みーらしいけど……あたしも出したくないなぁ、それ」
「うん、勿論出さないのも選択肢の1個。でも今回、3回戦を頑張ったウチはちょっと有利だよ?」
「……あぁ! 3回戦のアレはそういうことですか!」
ゼロの指摘に雪音が頷いた。
彼のいうアレとは、3回戦における素材のドロップ率。
あの時は考える余裕もなかったが、冷静になると報酬ドロップ率は体感でおよそ10倍――スレで祭りが起きるレベルである。
だがそれはユーザーを慮ってのものではなく。
3回戦で奮戦したギルドが、4回戦で楽になるための措置だったらしい。
「それでは、雪音様がギガントマウンテンのラストアタックを必死になっていたのも?」
「雪音。お前、気づいてたのか?」
「ううん、そういうわけじゃないよ。でも2日目の告知がずっと頭に引っかかってるところに、ドロップ率が高いってみんなが言ってたから、なんとなくそうかなって」
「よく考えるよなぁ……ンなこと考えながらバトれねぇわ、俺」
「自分もっす!」
「むしろ何か考えてんの? アンタら?」
「相手の動きの予測はしてるぜ。バトってる間中、くるくる変わっちまうから考えてるレベルにゃなんねぇけどよ」
「へー。で、ゆっき。つまり3回戦の素材メインでいいのかにゃ?」
「絶対いいとは言えないかなぁ……売ろうと思えばなんでも売れちゃうわけだし……」
要するにリスクをどれだけ取るかの違いだ。
3回戦で稼いだ素材は勿論、今までの冒険で積み重ねてきた武具やアイテム――これらを注ぎ込んでまで決勝へ進むかどうか、各ギルドが問われているのである。
「まぁ基本は3回戦素材+倉庫一斉セールって考えよう。次の“価格”もそのまんまだよな?」
「うん。これも考えて決めなきゃだけど……他のお店との兼ね合いもあるから、後でいいかな」
「では最後に立地ですね? 商店街のようなイメージと伺っておりますが……」
「はい、これです」
雪音が手にしていた地図を、テーブルに広げた。
イカヅチは商店街と称したが、大きめの建物10棟が配置されたその地図は、一護としてはショッピングモールの一角がイメージが近い。
「なるほど、ここから選ぶわけですね? ちなみに選択希望式というのは?」
「ええっと……建物に1~10の優先順位をつけて……うーん、どう説明したらいいかなぁ……」
「アレだ。こんな感じ」
・建物A:ギルド①/②が競合(建物優先順位同じ)→ 3回戦までで上位ギルドが優先権
・建物B:ギルド③/④が競合(建物優先順位は③の方が高い)→ギルド③が優先権
・建物C:ギルド⑤(競合なし)→ギルド⑤に決定
「同じ条件でダブったら今までの結果で選ばれて、違う優先順位でダブったら、その優先順位が高ぇ方が選ばれるっつーことか?」
「そう。良い立地は優先順位高い方がいいけど、他のギルドと被る可能性がある。被り続けると、結果的に悪い立地に行ってしまう可能性もあるわけだ」
「……めんどくせぇ、ギブ」
ひらひらと手を振って、鷹がソファへ倒れこんだ。
完全なる思考放棄である。
正直なところ一護もそうしたかったが、ギルマスが連鎖すると会議も何もあったもんじゃないので、ぐっと堪えた。
「というわけでまず建物の優先順位付けをしたい。みんなの意見は?」
「入り口近い方がいいんじゃない~?」
「最後尾は避けるのが賢明かと」
「でも最初のお店って基準にされちゃいそうですよねぇ」
「確かに……競争率も高そうですね……」
「そこそこ人気一本狙いとかどうっすかね!」
「~~~っ(地図の1点を指差す」
「よし、やっぱり決まらんな!」
意見が飛び交うのはいいが、いかんせん自由過ぎてまとまらない。
半ば予想していた一護は全員で決めるのは諦め、次善策として分担作業を指示した。
「ここは俺と雪音、イカヅチとゼロで決める。他のメンバーは倉庫で余剰品の見繕いと運び出しをしててくれ。引率は葵、補佐は鷹で頼む」
「んぁ、あたし?」
「おいおい一護。どうなっても知らねぇぜ?」
「不吉なこと言うな。お前らが一番クエストに出てるんだから、必要なものは解ってるだろ。最終確認はするとして、目星だけはつけときたいんだよ」
「りょうか~い。そいじゃ皆の衆、ついて参れ~!」
「やれやれ。しゃーねぇか」
指示に従い、メンバーがぞろぞろと倉庫に向けて移動してゆく。
あちらの作業に頭脳班がいないのは不安だが、さりとてこちらも難題。
手早く片付けたいところだが、一体どうなることか――。




